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MMTの妥当性と問題点(と、主流派の経済学の誤解)

タイトルがなんのことやらわかりにくいですが、政府財政のついての経済理論の話です。

MMT(Modern Monetary Theory)の妥当性

最近、MMT(Modern Monetary Theory)というアメリカの非主流派経済学者(ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授)の主張が日本で話題になっています。メディアの報道を見る限りの印象ですが、その内容は、

自国通貨建ての国債発行で財政赤字を増やしても、財政破綻はしない。日本をみると国債残高のGDP比が相当高くなっても、インフレも起こらない。だから財政支出を国債発行でまかなって、アメリカ社会の諸問題の解決のためにお金を使おう。

ということのようです。

確かに、自国通貨建ての国債は、政府が中央銀行から自国通貨を得れば返済できるので、デフォルトすることは考えにくいです。また、政府が国債を売る先が民間銀行でも中央銀行でも、政府が払ったお金を受け取る人はどちらかの銀行の債務(銀行預金か現金)の保有を通じて、間接的に国債を保有することにはかわらないので、政府支出の額が同じなら大きな違いはないと思います。(この点は、金本位制の時代のイメージを引きずる主流派の金融経済学ではよく理解されていない点だと思います。ケルトン教授がModern という形容詞を付ける気持ちもわかる気がします。)

ただ、日本の場合は、1990年代以来の財政赤字がすこしずつ積み重なって今の残高になっているので、短期間に日本なみの国債残高に相当する財政赤字を出した場合は、さすがに大きな物価上昇(インフレ)が起こると思います。

MMT(Modern Monetary Theory)の問題点

MMTの問題は、社会の中の一部の人が正義だと信じる政府支出による富の再分配が続くと、イノベーションや技術の習得などで富を得ようとするより、政府支出をもらって富を得る方が話が早いとなってしまいがちになることが見落とされていることです。そうすると、個人レベルで努力をするインセンティブがなくなって、国全体の富のパイの大きさが小さくなり、再分配しようとしても小さいパイしか配れなくなります。

おまけ:FTPL(Fiscal Theory of Price Level)

MMTを批判する主流派の経済学者の一部で、人気の財政金融理論がFTPL(Fiscal Theory of Price Level)です。少々ややこしい話になりますが、この理論は、国債残高の実質値が、株価のように、将来の財政収支の割引現在価値で決まるという仮定を柱にしています。そうすると、国債残高の実質値は、名目国債残高を物価水準で割って計算されるので、財政赤字が続くことが見込まれると、物価水準が上がることになります。

このように、FTPLは国債を普通の金融資産と同視する考え方ですが、国債を通貨に似たものと考えるMMTとは対照的です。FTPLよりは、MMTの方が現実をよく見ているように思います。