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BLUE

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父は歌手、母は作曲家という両親の間に生まれた蒼斗は、10年前、父が殺されるところを目の当たりにして以来、人前で歌うことができなくなってしまった。現在は友人のバンドへ楽曲提供をする… もっと読む
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BLUE 【track3】

BLUE 【track3】

【track3】 深藍

 母はそれ以来、精神的にまいってしまって、精神科への入院を繰り返した。その間、僕は親戚の何軒かにお世話になって暮らしていた。我が家ではない家に流れるのは、他愛もない無機質な生活音。楽器の音など一切なく、鼻歌を口遊むことも許されない気がして、迷惑をかけないように極力口を噤んでいた。母の症状が落ち着くまでのその時間は、自分の罪を自覚するには充分だった。

 あまりにも静かすぎ

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BLUE 【track2】

BLUE 【track2】

【track2】 浅藍

 父は歌手、母は作曲家という音楽一家に僕は生まれた。物心ついた頃にはピアノやギター、家にあるひと通りの楽器は弾けるようになっていて、普通の玩具よりもそれらを弾いて遊んでいることの方が多かった。けれど、どんな楽器を弾くよりも、歌うことが一番好きだった。暇さえあれば歌を口遊んで、日が暮れるまで歌っていたこともある。そんな姿をみた周りの人はよく褒めてくれて、それを聴いて両親も嬉

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BLUE  【track1】

BLUE  【track1】

【track1】 藍色

 海鳴りが割れるような音と共に光景は青に包まれた。

 完全な青というよりは、色褪せた白黒写真が映す藍色に近い。事実、それは十年も昔の記憶であって、写真の中に入り込んだように世界は静止し続けている。

 幼い頃の僕は、コンサートホールの舞台に立っている。向かい合う観客達は皆、真っ青な顔をしていた。目の前に仁王立ちしている男のジャンパーも陰に覆われた顔も青い。足元に横たわっ

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