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【アメリカ食メモ④】ニューオリンズの食

Mardi Grasというフェスティバルがあるということで、ルイジアナ州のニューオリンズを訪ねた。1週間近くパレードが行われるというのがフェスティバルだが、その期間は、バーボンストリートが人でごった返して、盛り上がりを見せることから、その狂った空気を味わいたくて、観光客が押し寄せるのであろう。ただ、私の最も味わいたいと思っていたのは、そのパレードよりもルイジアナの料理であった。そしてその期待は裏切られることは全くなかった。

クレオール料理店のガンボと亀のスープ

初日の夜、Creole料理のお店、Brennan’sへ。クレオールとは、フランス的な伝統的な料理手法に、スペイン、アフリカ、ネイティブ・アメリカンの要素が加わってできた、ニューオリンズの料理である。

最初の一品が、Seafood Gumbo

なんといっても、ルイジアナ料理(クレオールも後述するケイジャンも)の特徴は、米の多用であろう。アメリカに米をもたらしたのは、スペイン人であるイエズス会の神父だった。彼らが、ヴァレンシア地方のインディカ米を南フロリダに持ち込み、アメリカ南部、米国全体に広がったという。ルイジアナの基礎を作ったの人々の中心はフランス系移民であるが、彼らが元々栽培していた麦類は高温多湿なルイジアナには適さず、スペインがもたらした米が根付いた、ということのようだ。

なお、ルイジアナは、もともとフランスの植民地であったが(そもそも、ルイジアナとは、1682年フランスの探検家ガブリエ・ド・ラ・サールがルイ14世にちなんで名付けた土地である。)、1754−63年のフレンチ=インディアン戦争で破れてパリ条約で、ミシシッピ以西とニューオリンズをスペインに譲渡している。このフランス・スペインの統治下でアメリカ南部に移住してきた人たちの子孫を一般的に「クレオール」と呼んでいるようである。

ガンボのとろみには、ササフラスの葉の粉末であるフィレやオクラを使うことが多いようであるが、このレストランで供されたものは、後者のオクラのガンボであった。フィレはネイティブ・アメリカンが使ったアメリカ原産のハーブであり、オクラはアフリカ原産で奴隷貿易とともに米国に渡ってきたものである。オクラは、奴隷貿易において奴隷たちを元気づけるため等の目的で、奴隷の買主に提供されたという。そこには、オクラのほか、豆類、ナス、ピーナッツ、ヤムイモなどがあったという(なお、ピーナッツは、ペルー原産だが、コロンブスが旧世界に持ち帰り、アフリカに広がり、奴隷貿易によってアメリカへ運ばれたことで、新大陸に還流してきた。)

フランス人移民の食文化に、スペイン由来の米、ネイティブ・アメリカンのフィレやアフリカ原産のオクラの融合が、ガンボなのだと理解すると、この品はアメリカでしか生まれ得ない「アメリカ料理」の代表であるような気がしてくる。

次の一品がturtle soup

かつては亀はアメリカの食生活の中に入り込んでいたというが、今でもここまで多く食されているのは、ニューオリンズくらいなのではないだろうか。

本間千枝子の『アメリカの食卓』によれば、亀から味わい深いスープを取ることは、フランス料理に精通するクレオールのコックだけにできる技であるとし、「小さい胆嚢は海がめの香りをそこないはしないが、砂嚢をとり出すにあたっては練達の外科医のタッチとライオンのような心、鷹の如き眼と貴婦人の手を必要とする」と19世紀に生きた食通のサム・ウォードの発言を引用している。

このレストランは、ガンボも亀のスープもどちらも非常においしかった。亀のスープは、ガンボと一緒に頼むと、ガンボのパンチにやや負けてしまっている感じもあったので、どちらも食べるなら、まず亀のスープから食べていただきたい。

そのほか、Gulf fishのグリル、鶏のローストを頂いたが、古典的なフレンチのようであった。この店は本当に美味しかったので、ニューオリンズに来たらぜひ行ってほしい。観光地であるフレンチ・クオータにあるので、アクセスもいい。

なお、デザートには、バナナ・フォスターを試して欲しい。目の前でバナナを焼いてくれ、ラム酒を入れて炎を上げるところを見れるので、インスタ映えの動画も手に入れられること必至である。

ダイナーで朝食にPo’ boy

2日目の朝食は、The Camellia Grillへ。ここは、1946年から続くダイナーで、朝8時からやっているので、朝食にうってつけの場所だ。フレンチ・クオータからは少し距離があるが、バスに揺られて30分程度で着いた。

外装は、古典的な建築を模したような豪華な作りだが、中に入ってみると、一見普通のダイナーである。ただ、サーブしてくれる店員たちが蝶ネクタイしているのがいい雰囲気を出している。

我々が頼んだのが、フライド・シュリンプのPo’ boy、チーズバーガー、そして、マンハッタン・オムレツである。(朝からガッツリ食べすぎた。。)

これがPo’ boy。要するに、バゲットを用いたサンドイッチのことである。中身は、ローストビーフのこともあれば、エビ、ザリガニ(crawfish)、牡蠣、蟹等のシーフードのこともある。
路面電車のストライキの際に、レストランの経営者が、ストライカーたち(彼らをpoor boyと呼んでいた)にこのサンドイッチを配ったことから由来するとも言われるが、由来などこのお店のPo’ boyのおいしさを前にすればどうでもよい。

ここは、オムレツの人気でも知られているが、個人的には、ハンバーガーのおいしさの方に惹かれた。ここのパテが肉厚で本当に美味しいのだ。

モダン・イスラエル料理ーフライド・チキンのフムス

2日目の昼はShayaへ。イスラエル料理に、南部料理だけでなく、中東料理、東欧料理等々の様々な技法を加えた、いわゆるフュージョン・スタイルのお店である。

よくイスラエル料理屋に行くと置いてあるひよこ豆のペーストのフムスであるが、それにフライド・チキンが乗った一品がこちら。

このフムスを、ピザ釜のようなオーヴンで焼いたピタに乗せて食べると、これがまた美味いのだ。
ニューオリンズの料理に飽きたら(飽きることがないのだが。。)ぜひこちらも試してみて欲しい。

Oyster Rockefellerとcrab cakeと Kajun food

2日目の夜は、Oceana Grillへ。ここはKajun料理中心の観光客向けのレストランである。
パレードの見学や移動で疲れて、ホテルのあるフレンチ・クオータからほど近い場所であったので訪問した。

これがOyster Rockefeller。1890年代にクレオール料理店のAntoine’sで生まれた料理である。本間千枝子の『アメリカの食卓』によれば、ブルゴーニュのエスカルゴにつけるアーブバターからヒントを得たという。リッチな味付けで食べた客が”as rich as Rockefeller”と言ったことから、この名が付けられたという。その頃、ニューオリンズではエスカルゴを手に入れづらかったことから、牡蠣を使ったとされているが、牡蠣にこの味付けは勿体ないのではないかと思ってしまった。。(十分美味しいのは間違いないが。)

こちらがクラブケーキ。この店でおすすめしたいのはこちらである。ザリガニとマッシュルームのクリームソースが掛かっていてこれまで食べたクラブケーキの中でダントツに美味しかった。

このほかに頼んだのが、Taste of New Orleansというもので、左から順に、Crawfish etouffee、レッドビーンズ・ライス、ジャンバラヤで、ケイジャンフードの三種盛り的な一品である。

そもそもケイジャンとは、という点だが、これには、先ほど話した、フランスがニューオリンズをスペインに割譲する原因となった1754−63年のフレンチ=インディアン戦争が関係している。
1604~54年にかけて、カナダのファンティ湾一帯(アケイディア地域)に多くのフランス系住民が入植していたところ、近接する英国植民地の人々と対立し、フランス・インディアン同盟軍とイングランド軍が戦ったのがこの戦争である。フランス・インディアンの同盟軍は敗れ、イングランド国王への忠誠を誓わなかったフランス系移民はこの地から強制追放された。一部はヨーロッパに戻ったが、残りはルイジアナに向かったという。彼らの存在から、ニューオリンズの北一帯の地域を「アケイディアナ」と呼ぶようになり、そこから訛って彼らをケイジャンと呼ぶようになった。もともとはフランス由来という点でクレオールと同じであるが、長くフランスの地を離れ、土着の調理法を作り上げていった。

そのケイジャンたちが、この地で出会ったスペイン由来の米を使ったケイジャンフードが、ジャンバラヤやレッドビーンズ・ライス等の米料理であった。

なお、このレストランのケイジャン料理は、ちょっと微妙かなと思われ、もう少しレストランを探した方がよかったかなとやや後悔した。

ベニエ

3日目の朝は、有名なCafe Du Mondeへ。
目の前は、フレンチ・クオータの中心地、ジャクソン広場である。こののどかな広場において反抗的な奴隷たちが処刑されたというから、ニューオリンズは綺麗な歴史だけではないことはわかるだろう。奴隷が売り買いされた奴隷市場もここからほど近い場所にあった(現在のOmni Royal Orleansがあるところ)。

そういった黒い歴史は一旦忘れて、こちらでいただくのはベニエ。Begnet(ベニエ)とは、フランスのパン生地を油で揚げた菓子で、たっぷりの粉砂糖と温かいままいただく。

大行列ができていたが、その理由がわかるおいしさである。こちらもぜひ試してみてほしい。

マフレッタ

3日目の昼は、Cochon Bucherへ。フレンチクオータから歩いて20分程度の場所にある。

これがマフレッタ。ニューオリンズのイタリア移民の間で生まれたサンドウィッチのことを指す。

中身はぎっしりのベーコンやハムで、一口噛んだときに広がる肉の香りが初めて感じるもので、そのジューシーさと合わさって非常に美味しい。存分にこの店のアレンジが入っているようではあるが、かなりおすすめの逸品である。

生牡蠣

3日目の夕方、帰る前の最後のご飯が生牡蠣である。
前日、Oyster Rockefellerを食べて、どうしても生牡蠣が食べたくなってしまった。そこで、フレンチ・クオータにあるFelix'sに。

LAに比べると値段は安いが、品質は決して悪くない。我慢できず、1人で1ダース食べてしまった。

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