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奄美大島旅録③甕仕込みの黒糖焼酎「富田酒造場」へ!中国酒との共通点とは?

奄美大島の酒といえば?

黒糖焼酎!

ですよね。

実を言うと僕は、これまで黒糖焼酎の名称は知っていたけど、あまり飲んだことがありませんでした。

でも、奄美へ行ったことでとても身近で面白いお酒だなと感じ、印象がガラッと変わりました!

というわけで、奄美の旅レポ第3弾は黒糖焼酎の酒蔵見学を中心にお伝えしようと思います。黒糖焼酎と中国酒の共通点や、黒糖焼酎ってなんぞや?というところも学習してまとめていきます。

▼奄美大島旅録①

▼奄美大島旅録②

そもそも黒糖焼酎とは?

さて、黒糖焼酎ってどんなお酒なのか、みなさんご存知でしょうか?

黒糖焼酎は、サトウキビから精製される黒糖を原料とした焼酎です。黒糖焼酎はどこでも作れるわけではなく、奄美でしかその製造は認められていません。

ラム酒の原料でもあるサトウキビ。

焼酎といえば、米や麦などの穀物を原料とするのが一般的ですが、黒糖焼酎は穀物ではなく黒糖が原料、という珍しい焼酎です。

なぜこのような珍しい焼酎が生まれたのか?

その答えは歴史から紐解くことができます。

黒糖焼酎の歴史

約500年前の江戸時代。かつて奄美大島では泡盛が作られていたそうです。しかし、戦争をきっかけに泡盛の原料でもある米が不足し、泡盛作りが難しくなります。さらに、米軍統治下の中で、奄美の特産物でもあった黒糖の移出規制も行われてしまいました。

米軍から日本に返還された1953年、島民は「経済復興を目指して地域の特産物を作ろう!」と声を挙げ、政府に黒糖焼酎の製造を談判し、認められたのが始まりと言われています。

黒糖焼酎の作り方

黒糖焼酎の作り方は、一般的に以下のような流れで作られます。(わかりやすいように、専門用語をなるべく使わず簡単に表現してみます)

①麹を作る(製麹→米を洗う・蒸す・麹菌を混ぜ込む)
②簡易的な酒を作る(酒母:一次仕込み→水・酵母・麦麹を甕で仕込む)
③黒糖を溶かして酒母と混ぜる
④発酵(甕やタンクで二次〜三次発酵)
⑤発酵したお酒を加熱して冷却し、高アルコールを抽出(蒸留)
④不純物を取り除く(濾過)
⑤熟成(タンクや甕を使用)

▼直接お聞きした話や、こちらの内容を参考にまとめました!

個人的に面白いな〜と思ったのは、黒糖の溶かし方でも味が変わるという点。通常は蒸気などの熱で溶かすようですが、黒糖本来の甘味を少しでも残すために水で溶かす蔵もあります。水で砂糖を溶かすのって結構大変ですよね・・・。

製造工程を羅列しただけだと全体像がわかりづらいかもしれませんが、このあと実際に見学させていただいた富田酒造場さんの写真も見ていただけたら少しはイメージが湧くかなと思います。

というわけで、ここから見学したときのことをまとめていきます!

黒糖焼酎酒蔵「富田酒造」見聞録

イベントを終えた翌日、奄美大島3日目。

今回、Living AMAMIさんのご紹介もあって、富田酒造場さんへとお邪魔させていただきました。

日本酒がお好きな方だと「富田酒造?七本槍の?」と思われるかもしれませんが、全く違います!それは滋賀の日本酒酒蔵さんで、今回は奄美の黒糖焼酎酒蔵さん。よく見ると漢字も違いますね!

富田酒造場さんは、奄美市の中心都市でもある名瀬という街の中にあります。ホテルの近くにあって、アクセス抜群!

1951年創業。70年以上の歴史を持つ酒蔵さんです。

酒蔵見学は有料で、ぜひ直接見ていただきたいのでここでお伝えできることは極力制限しつつまとめていきます。

ちなみに酒蔵見学の対応は、現場の皆さんがご対応されています。これって今や多くの酒蔵さんでやられているので当たり前のことに思いがちですが・・・

曲がりなりにも日本酒蔵で働いた経験から言わせていただくと、仕込みしながら見学の対応するってスッゴイ大変なことなんですよね。(この日は仕込みのない日でした)

お酒の仕込みは重労働かつ繊細な点にも常に気を配らなければなりません。大人数が現場にいるわけでもなく、チームワークが必要。

仕込みの状況も日によって変わります。そんな中、1人が現場を抜ける大変さ!だから見学を受付てくれるのは当たり前のことではなくて、有難いことなんだと、今は思っています。

今回は、杜氏の富田さんにご説明していただきました。

黒糖は協会が買い取ったものを酒蔵に分配している。
蒸留機の一部。どのような仕組みで黒糖焼酎が生まれるのか?も説明してくれました。
麹を作る機械。これ1台で麹が作れる!すごい。後ほど解説します。
熟成用のオーク樽。ここに焼酎業界ならではの悩みも。
試飲付きの見学会は1,000円!学べて飲み比べできて、お得!

各工程で細かく解説していただきました。やっぱり、お酒って知ると飲みたくなるしより楽しくなりますよね!

黒糖焼酎の一般的な作り方は前章で簡単にお伝えしましたが、当然蔵によって異なる部分があり、その違いが各蔵の個性を生んでいます。

では富田酒造場さんにはどのような個性があるのでしょうか?その特徴も教えていただきました。

富田酒造場の特徴①全量甕仕込み

1951年の創業以来ずっと使われている甕、と富田さん。

富田酒造場さんは1951年創業以来、全量甕仕込みです。酒造りって工業化が進むと、醸造酒も蒸留酒もタンクを使用するようになっていきますよね。

奄美でも、最初の仕込みで甕を使用する酒蔵さんはあるようですが、一次仕込みで黒糖が入る前の段階で甕を使用し、黒糖を入れる段階で大きなタンクに移し替えるというのが一般的。

甕からタンクへ酒母を移し替えたら甕が空くので、またその甕が仕込みで使えるようになるのです。効率的ですね!

ただ、富田酒造は全量甕仕込みのため、それが不可能。そのため、富田さんたちは「生産量を補うために、通年で酒造りをしている」と。通年での酒造りって、非常に大変なことだと思います。頭が下がります。

富田酒造場の特徴②麹米は、うるち

「焼酎作りにおいて、一般的に麹の米はタイ米を使うところが多い」と富田さん。

理由はさまざまで、タイ米の方が蒸したときに周りが硬く中が柔らかい状態、いわゆる酒造りに適した状態にもっていきやすい点、菌が入り込みやすく主原料の味わいを引き立ててくれる点、などなど。

タイ米のカレーや炒飯ってめちゃくちゃ美味しいですよね!

また、焼酎自体がアジアから伝わった文化であり、アジアはタイ米を用いることが一般的だから、という要因もあるようです。

そうした状況の中で、富田酒造は鹿児島県産のうるち米を使用。このうるち米によって、龍宮特有の重厚なボディ感、パンチ・クセのある味わいを実現していると富田さんはお話してくれました。

ちなみに、日本酒だと麹を作るために専用の部屋があり(麹室)2〜3日かけて作ります。温度管理もしっかり行なって、細心の注意を払う超重要な工程。

なので、先ほど写真でお見せした麹を作る機械だけで麹ができあがってしまうなんて!なんて優秀なヤツなんだ!と感心してしまいました。

富田酒造場の特徴③原料や製法によって異なるブランド

そんな富田酒造場さんは、龍宮を始めとしてさまざまなブランドを展開されています。全て試飲させていただいた中で代表的なものを3種、オンラインショップの説明を拝借しながら紹介したいと思います。

ブランド❶龍宮(りゅうぐう)

沖縄産黒糖と国産米米麹を原料にかめ仕込みから生まれる香りは、淡い脂質ある炒ったナッツのような香ばしさと、ミネラルを纏った甘い風味の味わい、のど越しのキレの良さが特徴的です。全体的にはドライな印象ですが、余韻に心地よい香りが残ります。

『自然と身体に馴染み、飲み疲れしない』そんな味を目指しました。ロック、お湯割り、ソーダ割と美味しい飲み方を問わず、ご自身のお好みで果物やスパイス・ハーブ等を漬けたりと多様にお楽しみいただけます。

引用:富田酒造場オンラインショップ「龍宮」

ブランド❷まーらん舟

徳之島にある徳南製糖で造られた黒糖からはサトウキビの青々しさや磯・藻などミネラルを連想させ、その個性は島の味そのもの。

口当たりは柔らかくも濾過を抑えたことで黒糖味を存分に感じられる焼酎が出来ました。度数を増すごとにダイレクトで刺激的な味わい。

祖父母が生まれ育った徳之島。富田家ルーツの島。「島の黒糖で造りたい!」その想いから出来た焼酎です。

2021同様、酵母は『鹿児島香り酵母1号』を使用。麹は黒麹から変更し白麹を採用しました。

従来よりも原料自身の個性的なミネラル豊富な磯や自然味をより感じられる含み香、干し葡萄様の甘い香り、スッと沁みいる柔和な印象に仕上がっています。

引用:富田酒造場オンラインショップ「まーらん舟」

ブランド❸らんかん

2021年製造の原酒を2年間熟成。原酒らしい力強く豊かな風味と味わい。黒糖菓子を口にしたような印象から余韻はオイリー且つスパイシー。

少し水を加えると香ばしく甕由来のミネラル、滋味深い味わい。開栓後も時間の経過と共に深まる香味の変化をお楽しみいただけます。

基本はストレートか常温ちょい水(トワイスアップ)を推奨。ロック、ソーダ割り、お湯割りも美味しくいただけますので飲み手、注ぎ手のお好み、シーンに合わせてお楽しみください。

引用:富田酒造場オンラインショップ「らんかん」

個人的な感想

龍宮を初めて呑んだときに、ふっとよぎったのは醤香型の白酒です。龍宮はアタックは黒糖由来の柔らかい甘味を感じるのですが、鼻から抜ける香りに土臭さというか、独特な複雑味を感じます。何かを燻したような?これが醤香白酒にちょっと似てる!クセになるヤツ!

醤香(ジャンシャン)とは?
白酒を分類する香型(シャンシン)の一種。酒が杯から無くなっても長時間香りが残るほどに強いのが特徴。主成分はエチルグァヤコールと言われており、これは醤油の香気成分としても知られている。白酒業界を牽引する茅台は醤香型白酒の代表であり、茅香とも言われる。

龍宮は、新宿ゴールデン街にあるOpen Bookというレモンサワー専門店でレモンサワーの原液として使われているので、ご存知の方も多いのでは?

「まーらん舟」は、龍宮と比較しておだやか、まろやかに感じました。この酒造りで生まれた酒粕を食べさせてもらったのですが、黒糖の甘さだけでなくて、カラスミのような味!紹興酒のおつまみに絶対合います笑

らんかんが個人的には一番好きです。上品な黒糖の甘味と伸びやかな余韻。日本酒もそうなのですが「これ美味しい!」って思うと、大抵原酒だったりして、僕はお酒が本当に好きなんだなぁって実感します笑

黒糖焼酎と中国酒の共通点とは

一通り黒糖焼酎についてまとめてきましたが、中国酒との共通点はどのような点にあるのでしょうか?

中国酒を探究している身として思う共通点をいくつか紹介したいと思います。

焼酎の語源は中国にあり

「思えば焼酎って、何で焼酎っていうんだろう?何かを焼いてるの?」

これは黒糖焼酎だけに限らない話ですが、素朴な疑問として調べてみました。焼酎のルーツについてはいくつかの説がありますが、語源は中国にあるという話。

中国の蒸留酒といえば白酒ですが、「焼酒」と表現されることもあります。

こちらは広東の白酒。焼酒という文字がでかでかと記載されています。

九州の焼酎文化は中国などアジアから伝わったという説もあります。さまざまな点で影響し合っている両国ですが、ここでもひとつの繋がりがあったのですね!

全量甕仕込み

甕仕込みの紹介をしましたが、中国酒は黄酒にしても白酒にもしても発酵や熟成時に甕を使います。

甕は目では見えない程度の通気孔があり、空気に触れることで発酵や熟成を促進させると言われています。その反面、ひとつずつ面倒を見なければならなかったり、バラツキが生まれやすかったり、運搬も一苦労といったデメリットもあります。そのせいか、中国酒も近年タンクでの酒造りに移行し始めています。

紹興酒の酒蔵に行くと、甕が山のように積まれていて圧巻です。この光景もいつか珍しいものになってしまうのでしょうか?

すさまじい数の甕。確かに人力で動かすのは大変。。

いま、伝統と革新の狭間にある

黒糖焼酎見聞録の中でオーク樽の写真のところで、焼酎業界ならではの悩みがあると書きました。

焼酎は色がつくと焼酎として販売できなくなります。酒税法で焼酎と認められないからです。なので、蒸留酒でよく行われる熟成が難しい。熟成はメイラード反応によって色がついてしまいます。

富田さんは「置かれた環境の中でやるしかない」というようなことをおっしゃっておられましたが、言葉にできないもどかしさも感じていらっしゃるように、僕には見えました。

規定や基準は、文化の始まりを支える屋台骨のようなものなのかなと思います。一定のクオリティも保っていくためには必要なのでしょう。

でもある程度まで進んだ場合、縛るよりも一定の自由度が必要かなと。そうしないとクリエイティブしていくことが難しくなる。

この現状に、強いシンパシーを感じました。

黄酒や白酒も伝統を重んじてきました。それを否定はしません。大切なことです。でも、今までのままいることは、創造性を啄むことにも繋がります。日本酒やワインの世界で起きているような、クリエイティブな活動が生まれづらくなる。

伝統も革新、どちらが大切なのか?これはどちらも大事であって、結局はどうバランスを取っていくかの判断が大切なのだと思います。

黒糖焼酎も中国酒も、変わるべきときが来ているんだろうなと感じました。

まとめ

またちょっと長くなってしまいましたが・・・本当はもっとさらにたくさんの写真や動画もあるのですが、ぜひ直接現場でお確かめいただけたらと思います。

最後に言いたいのは

黒糖焼酎、面白い!ということ(語彙力

前回の記録にも書いたのですが、富田さんは前日のディナーにもご参加いただきました。そこでついつい業界のことも含めて話し込んでしまい・・・

変わらない方がいい部分と、変えた方がいい部分。どれだけ合理的に動いていけるのか。それに尽きますね。

僕は造り手でも何でもないので比較すること自体おこがましいのですが、中国酒の今後をどうにかしていきたい身としては、とても刺激的な出会いとなりました。

すっごい楽しかったです。ありがとうございました!


主に中国酒にまつわる活動に充てさせていただきます。具体的にはグラスの仕入れやYouTubeの制作費用、中国酒に関する企画全般を実現するための費用にさせていただきます。現在は全て自費で賄っております。お力添えを頂けたら嬉しいです!干杯!