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嵯峨野綺譚~嵯峨釈迦堂 お松明の夜~

祇園祭の宵山の夜でした。
そう。函谷鉾の前です。
息子を見失ったのは。
その年の春、小学校に入ったばかりでした。
ずっと手をつないでいたのに、何故かその時は放してしまっていた。
祇園囃子に気をとられて鉾を見上げながら十数歩~たぶん十数歩です~進んで気がついたらもういませんでした。
もちろん大声で捜しましたよ。あたりを駆けずり回って。
警察にも行きました。
でも出てこなかった。
もうずいぶん前の話です。

以来、いろんな祭りのたびに人混みを捜し続けています。
葵祭も、時代祭も、北野の天神さんの人混みも。

何年か前、ここで見かけたんですよ。息子を。
ええ。お松明たいまつの夜にね。
まだまだ寒いさ中なのに宵山の時と同じ格好をしてた。
ですからね。毎年来てます。ここには。

今はまだ少ないですが、もうすぐ混み始めます。
大念仏狂言の最後の公演が終わってしばらくしたら。
松明に点火される頃までがね。人混みのピーク。
ひと休みしてまた、その頃に来ます。
もしかしたらね、会えるかもしれない。

(了)

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