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【DTMクラシック】フンメル/ヴィオラとオーケストラの為のポプリ,Op.94

この曲を知ったのは、とある輸入盤に収録それていたもので、そのタイトルは「モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の主題による幻想曲 ト短調」、ヴィオラソロ、3本のクラリネットと弦楽合奏という編成での8分程度の楽曲でした。

しかし、演奏会などではヴィオラとピアノの室内楽版が主流だったようで、当時(1980年代後半~1990年代前半)購読していた「音楽の友」という雑誌のコンサート情報の演目でもたまに見かけたのは、ピアノ伴奏版であった記憶があります。

そういうわけで、フンメルの曲としてもかなり古くから演奏会でも取り上げられていましたし、音源(LP、CD)も数種類販売されていましたので、トランペット協奏曲に次いで聞いたフンメルの曲だった記憶があります。

今でもYouTubeで「フンメル ヴィオラ」で検索するとこのドン・ジョヴァンニ幻想曲というピアノ伴奏バージョンをたくさん聞くことができます。

次の動画のように小編成オーケストラによる抜粋版の動画も結構アップされています

ヴィオラとピアノ伴奏版と室内楽オーケストラ伴奏版の演奏がありましたので、どちらがオリジナルなのだろう、とずっと悩んでいました。

1990年代からDTMを始めていますが、当時はピアノ伴奏版しか手に入らず、それで作成したデータも残ってはいます。

ちなみに私が手に入れた上記のピアノ伴奏バージョンは、モーツァルトの「レクイエム」改訂版を作ったヴィオラ奏者のフランツ・バイヤー(Franz Beyer)tが編曲したものでした。

しばらくしてフンメルの作品目録(下記)を手に入れた時に、ヴィオラと管弦楽のためのポプリ ト短調,Op.94 同チェロ版,Op.95 という表記があり、楽器編成もフルート、オーボエ2管、ファゴット2管、ホルン2管、トランペット2管、ティンパニ、弦楽5部、と表記されていましたので、これまで聞いてきたものが短縮版であったのだと知ることができました。しかもオリジナルにはないクラリネットが活躍するようにアレンジされているなんて変だなぁと思っておりましたが、2000年代初頭に英Chandosレーベルよりハワード・シェリーによる一連のフンメル録音シリーズに世界初録音としてポプリOp.94がアナウンスされた時は待ちきれなくて英国レーベルより直接取り寄せた事を思い出します。

そして、この曲は演奏時間が20分近くある大作だったことが判りました。

今でもこのオリジナル版の録音は少なく残念ですが、シェリー版のほかはマルチン・ムラフスキ(ヴィオラ)、フンメル・プロジェクト管弦楽団/リシャルト・ハントケ(指揮)のによるものくらいです。

楽曲について

さて、この「ヴィオラと管弦楽のためのポプリ,Op.94」は1820年9月に友人のウィオラ奏者の為に作曲され、その1年後に出版されました。また、フンメル自身によるチェロ版も同時にOp.95として出版されています。
「ポプリ」とは、ヒットソングのメドレー音楽。この曲ではフンメルが書いた序奏とフーガ、各つなぎの経過部、最後のフィナーレ以外はモーツァルトやロッシーニのオペラ作品等からの曲を採用しています。楽曲は8つの部分から構成されています。

  • 第1部 Grave 3/4 ト短調。フンメル作による幻想曲風序奏です。

  • 第2部 Andante con moto 4/4 変ロ長調。テーマはモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」のアリア「私の恋人を慰めて」から。

  • 第3部 Allegro con brio 4/4 ニ長調。スペイン民族音楽的な性格の全楽器による合奏で出典が判りません。フンメルのオリジナルでしょうか?

  • 第4部 un poco Allegretto 3/4 ヘ長調。モーツァルトの「フィガロの結婚」のアリア「もし踊りをなさりたければ」からテーマと変奏曲。

  • 第5部 Allegro assai 3/4 イ短調。モーツァルトの「後宮からの誘拐」第一幕で オスミンがアリア「風来坊の洒落者たちときたら」のラストで退場する場面のシーンより。

  • 第6部 Fuga 3/4。フンメル自身によるイ短調のフーガから始まり、出典不明な静かなイ長調の行進曲、不安を感じさせる3連符のト短調の経過句が途切れることなく続きます。

  • 第7部 Andante 2/4 ヘ長調。ロッシーニの歌劇「タンクレディ」のアリア「こんな胸騒ぎが」からヴィオラが技巧的な変奏曲へと発展させていきます。

  • 第8部 Allegro ma non troppo 6/8 ニ長調。モーツァルトのフィガロのフィナーレをモチーフにした前奏に導かれてフンメル作の楽しい雰囲気を持ったフィナーレへと突入し、技巧的なヴィオラのパッセージを挟みながら華やかに幕を閉じます。

全曲を通してオペラのアリアを聞いたのちそのままフィナーレに突入していくような構成で、聴いていて非常に楽しい曲です。
先にも述べましたが、長年流布してきた「ヴィオラのための幻想曲」というのは、第1部、第2部、第8部をつなぎ合わせた短縮版で、本来のこの曲の魅力を伝えていません。
ヴィオラ奏者にも広く取り上げられていますが、是非「幻想曲」という短縮版ではなくなく本来の「ポプリ」として演奏していただきたいと思っています。

最後に本田聖嗣さんの記事を紹介いたします。


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