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005 デコメ無法地帯

ケータイでメールの時代

今では考えられない時代が少し前にあったのを、少し思い出してみよう。
それは、スマホではない携帯電話…俗に言う「ガラケー」がまだ主流だった頃。
今や当たり前に使う人が多いメッセージサービスの「LINE」が存在せず、
友達とのやりとりは主にメールだった。今の学生さんには想像できないんじゃないか。
いや学生でなくても、もう平成レトロと化しつつある「メール文化」は
昔の歴史であり、今想像しても無意味かもしれない。
それを今あえてほじくり返すのは、メールをかわいく飾りたい人々に欠かせなかった「デコメ」の存在が、なかったことになりそうなのが薄気味悪いからである。

ヤフーが取り仕切る日本のささやかな文化

これを書くきっかけとなったのは、私が贔屓にしている「PayPayフリマ」というアプリが今秋「Yahoo!フリマ」に名称変更するという、一部の人を除いてはどうでもいいようなニュースを目にしたことからだ。
PayPayフリマという語感が大好きだった私には大ニュースであると同時に、
とある昔のサービスを思い出した。

それは「Yahoo!デコレーション」(通称「ヤフデコ」)というガラケーサイトである。「タダデコ」という名前でスタートし、途中で名称変更された経緯が少し似ている。
中学時代に不登校児だった私はタダデコおよびヤフデコを愛用していたが、
その理由は一風変わっていた。

フィルタリングで閉じられた世界

私のケータイデビューは少し遅かった。
周囲の子たちは小4くらいからケータイを持っていたのに対し、私は小6の最後の方でやっと親から与えられた。
そのタイミングに不満はなかったが、問題はフィルタリング(閲覧規制)が掛かったまま、なんと高校時代まで持たせたことにある。
自分専用のパソコンもDTMを始めるまで持っていなかった私は、たとえ少しエッチなサイトに興味が出ても到底見る手段がなかった。よくぞ耐えたと思う。

その頃の私は「ログイン」という文字がキライだった。
会員登録したくてもケータイにはフィルタリングが。パソコンは家族で使っていたため、どんなに健全なサービスでも会員登録せず、外から覗いていた。
そう、ログインせずに覗ける時代でもあった。

その環境下、ケータイで見られる唯一の娯楽。それが「タダデコ」だった。
簡単に言えば「メールをデコレーションできる素材が集まるサイト」なのだが、
それは表立っての名目。
今だから言える。そこは実際には限りなく無法地帯に近い、無断転載の宝庫だった…。

培った検索能力と覗き見根性

何か検索をする時のワードチョイスのセンスを、
私はタダデコで特訓して培ったと言い切れる。
また、人は規制下でエッチなものを求めるものなんだなぁと思う。

当時、世間ではアイドルの「嵐」が一世を風靡し、アニメは「銀魂」が男女問わず大人気。
その一方で、「メル画」や「BL化」も流行っていたのはタダデコにも流れてきたので知っている。

「メル画」は、端的に言えば
「嵐の誰くんが何ちゃん宛に、エッチなお誘いメールをしてきた!」
というようなシチュエーションを味わえる画像だ。
タダデコにもその手の画像を作れる職人アカウントがいて、無償でシチュを募集したりしていた…気がする。

「BL化」はご存知ボーイズラブで、見事に銀魂のキャラが「腐女子」の餌食になっていた。この「腐女子」というワードが、検索する時に大いに役に立った。
「〇〇」+「腐」で、いろんなBL画像が…って今となっては当たり前だけども。

ガラケーにフィルタリングの掛かった中学生にとって、
とてもキラキラとした希望の光が、ほぼ無断転載だということは
タダデコがヤフデコになって知ることになる。
だんだんそういった画像が削除され始め
「きわどいコメントが付いたら消されるから」とか
「タイトルをごまかす技」など、
運営と利用者とのせめぎ合いが起きているのを「ログインの外」から見ていた。

広い世界へようこそ

やがてiPhoneとMacBookを手に入れた私は、その狭い世界からようやく解き放たれた。
が、タガが外れることは無く、徐々に使い方やいろんなことを覚えていった。
根底には「デコメ」が教えてくれたことが基礎にある。
後にも先にも私のガラケーは1台きり。
かけがえのない時代のフィルタリングに、今では非常に感謝している。

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