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#41 追悼、立花隆。政治スキャンダルに学ぶ不動産

立花隆氏が亡くなりました。過去の私のエッセイの中から氏の関係したものを再掲します。

2007年2月25日発表のアーカイブ

立花隆著「田中角栄研究」(講談社)を読み直した。ロングテールの時代だとこうした絶版も容易に手に入るようになったわけだ。それはともかく、小泉内閣が壊そうとした田中派的金権政治を振り返ると、不動産が巧みに使われていることがわかる。

昔から政治の黒いお金の出入りは株か不動産になるが、リクルート事件が株なのに対して田中金脈は不動産だった。ただし、小佐野賢治とのやり取りはペーパーカンパニーを介して株売買で巧みに移動させていて、今で言うSPCを使っている。悪のスケールも桁違いである。秘書や事務所家賃のごまかしなどカワイイものである。

当時が今と決定的に違うのは国税や検察が不思議と動かず、指揮権発動までやっていることである。マスコミも力が弱かったかもしれない。対して戦後からの反共政策によって児玉誉士夫とCIA、暴力団などのアンタッチャブルな力が強烈に残っていたのだ。他の本も読んでみると、戦前から企業乗っ取りなども多く「農耕民族の日本人にM&Aはなじまない」などというのはここ30年くらいの平和ボケのような意見に感じられる。

不動産に関して改めて感じたことをいくつか拾ってみる。

まず、不動産の取引はプライバシーが無くなることも、隠すこともできるということである。立花チームに調査権はまるで無いが、不動産と法人の膨大な登記簿だけを丹念に調べ上げて真相に食い込んでいる。このように個人でも住宅購入によってかなりの個人情報は公開されてしまうことが知られる。プライバシーを不動産の取引情報の公開に反対する論拠にする人がいるがこれは当てはまらないと思う。

逆に不動産取引をわかりにくくさせれば、裏金作りやマネーロンダリングに使われやすいということである。賄賂や献金を現金で渡すよりも、取引を装って不動産を安く提供している。あるいは逆に高い入札工事で政治資金を作り出すことも行われる。話題のゲートキーパー法案に宅建業等が入るのはこうした歴然とした事実があるからだろう。

もうひとつは、不動産の特性としてインサイダー的な錬金術を行うことができることである。都市計画の変更、埋立地、道路、空港や駅の計画などで政治が動くことは想像のとおりである。合法・非合法を問わず、事前にわかった上で開発や行政変更によって価格操縦できるのが不動産である。

日本列島改造、企業談合はもちろん、個人でも農業委員会の転用許可などは錬金術の最たるものであろう。こういうウマ味を味わった人々が今度は集票役となる越山会のようなものが日本全国にはびこっていた(る)のである。
なにはともあれ、最近「以前の日本が懐かしい」「政治のモラルが落ちた」「不公平が広がってきた」という人が多いようであるが、とんでもない話である。

                         以上(再掲終わり)

※追記 

立花隆といえばロッキード事件。一昨日のこのnoteで田中角栄の「私の履歴書」の表紙をデザインしたところなのでちょっと驚きました。本文にある「秘書や事務所家賃のごまかし」というのがあったのでしょうか?14年以上も前のエッセイですが、政治家はさらに小さくなっていますね。良いことなのか悪いことなのか知らんが・・・これを書いたときにはもうロッキード事件など知らないという世代が多くなった事もあって書いたことを覚えています。そのうち「立花隆って誰?」とかいう事言う若者が出てくるのかな。立花さんには大変楽しませていただきました。合掌。

猫ビル(文京区小石川の六角坂)ってどうなっちゃうんだろう?

私の好きな作品:「宇宙からの帰還」(83年)「日本共産党の研究」(78年)「中核VS革マル」(1975年)「田中角栄研究」(76年)どれもおススメです。


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