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入れない世界へのチケット

小学校4年生の頃、バスケットシューズが欲しくてたまらなかった。

別にバスケットをやっていたわけでも、やりたいわけでもなかった。
小学校生活も折り返し地点になったタイミングで、部活動に入る同級生が増えてきた。それまで放課後に一緒に遊んだり、別のグループで遊んでいたら同じ公園で出会っていた奴らが兄弟とか友達の影響でやれ野球だ、サッカーだバスケだと部活をやり始めた。

その中で、やたら「バッシュ、バッシュ」という言葉を聞くようになった。最初は何のことか分からなかったが、どうやらバスケット部の奴らにまつわるもので、欲しいもの、らしい。そうこうしている内に一人が念願叶ってバッシュを買ってもらったらしく、同級生に自慢をしているのが目に入った。窓から入ってくる初夏の光がそのバッシュの周りに集まっている人たちを照らしているのを少し眩しく見ながら、「ああ、なるほど。バスケで履く靴のことか。」と合点がいった。

妙に光の向こうの声が際立って聞こえて、教室全体から発せられている感覚になりながら、なんだか遠くてもっと良い世界があちらにあるのを見せられているように感じた。

そう感じると、どんどんとバッシュが欲しくなった。自分があちらにいない理由を、あの真ん中にいるものが解決してくれるような気がして、なぜだか目を離せない方向へ歩み寄らせてくれると思った。

いつの間にかその気持ちは小さくなってしまって、その年の誕生日にはいつも通り好きな漫画のゲームを買ってもらった。暑い体育館で床を鳴らしている同級生のことなど微塵も考えずに、家でレベル上げに勤しんでいた。

ただ何年も経っている今、その頃の景色を思い出している。あの頃欲しかったものを今はより一層求めている気がする。

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