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ソは青い空

 自粛期間中に実家の母から「相談があるんやけど」という連絡が来た。なんでも、母の友人の息子が東京の大学に進学して春休みで実家に帰省していた矢先に世の中がこんなことになってしまい、母としては授業もリモートだしこのまま実家にいてもいいのではと思うのですが、息子は早く東京に帰りたいと言い、毎日ケンカばかりなんです、何か良きアドバイスないですか?ということだった。まあ今は危険を犯さないほうがいいんでじゃないですか、というつまらない回答を送ったけど、よくよく考えてみると、学生時代での思い出は勉強以外のことが大半だったなと改めて思った。

 別件で、もう一つ相談を受けた。甥っ子が大学進学に悩んでいて、大学行く意味みたいなものってあるのかな?ということだった。自分の大学生活を振り返って、よかったことはやはり一生付き合える友人たちに出会ったことだった。それは同じ教室で授業を受けたことだったり、何もない時間にだらだらサークルの溜まり場で過ごしたことだったりが、よかった、につながることだった。なんなら、大学4年間を卒業して1年通った通信制の学校では出席が必要な授業で出会った子と今でも交流が続いていて、授業は1年で断念してしまったけど、その子に出会えたから通った意味があったな、と思ったほどだ。

 その子、と久しぶりに連絡をとって、ギャラリーやら美術館やらに出かけた。ランチに入ったギャラリーカフェでは悩んだ挙句、同じ丼とレモネードを注文。街の看板に笑ったり、レトロなビルを写真に撮った。展示を見終わって、あの絵のタイトル、あの絵の空の色を話した。「入っていい?」と聞いた古本屋には「わたしも気になった!」と返ってきた。帰り際に立ち寄った喫茶店では同じケーキを食べた。これってなんだかすごくない?年に1回会うくらいの友人だけど、きっとこれからも年に1回ふと想っては会うのだろう。この出会いのためにあの学費を払ったんなら、決して高くはなかったな、と思える。

 春は出会いと別れの季節、なんていうけど、今年はそうはいかなかっただろうに。そう考えるととても悲しくなった。早くみんなが心置き無く集まれる日が来ますように。そしてたくさんの出会いが生まれますように。

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夏の思い出

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