見出し画像

目指す建築の立ち位置

原風景

最近自分の原風景を描いたスケッチを見返してみた。

そのスケッチには、栃木県宇都宮市で生まれ、田園風景と共に育ち、この黄昏時の空間体験が、鮮明に残る原風景として現れた。

水害の経験

私は、2015年に関東・東北豪雨による水害を経験し、「逃げられない」
水が家の中まで襲ってくる時「死ぬかも知れない」
電気も飲み水もなく飢餓になった時亡くなった人を目の当たりにした時
「自分もこうなっていたかも」という恐怖・苦しさ・悲しさを味わいました

そして、「2度とこんな思いはしたくない」と決意した。



水害後の工事


しかし、そう決意した被災後、市や国の治水事業により、
川にはコンクリートの堤防が整備され、田園だった土地が
工事車両の道として埋め立てられた。

ここで私は、原風景が失われる様子を目の当たりにし、
命も自然の存在も儚い」と心が強く痛んだ。



みずまて

その後、2019年に建築学科で勉強していた私は、
卒業制作をすることになった。

その時に、みずまてという地元(栃木県小山市)に存在していた水塚や揚舟を用いた水害への知恵や工夫に出会い、そこから私の創作活動は始まった。


災害と共に生きる建築

その卒業制作をきっかけに厳しい環境下で生きる人の命を守るために
伝統建築 × バナキュラー建築 × 現代技術を用いて近代開発行為でできた建築を災害と共に生きる建築へ再編する試みをしてきた。


フィンランドのインターン

2022年からは、
現代の木造建築の最先端を学ぶためにインターンシップをしている。
フィンランドのヘルシンキにあるカサグランデラボラトリーでは、CLTや最先端の木材技術のプロジェクトに関わった。

また、ここでインターンシップをして
自分の興味が気がついたら公に貢献することに繋がっている
ということに気がついた。

インターンでの学びは、このブログにも載せている。


インターンがもうすぐ終わるので、
自分の建築の立ち位置をこの経験から考えてみた。

野蛮ニズム建築
野蛮ニズム建築とは、開発行為が排除した
野蛮(地域性歴史性自然風土)を取り戻し、
回復力をテーマにした建築。
これが新たなパラダイムとなることを目指している。

野蛮とは、レヴィ=ストロースのいう野生の思考のこと。

これを卒業設計のブラッシュアップとともに行ってみた。

水害×建築


卒業制作で作成したものをさらにブラッシュアップさせ、
水害地域でのメモリアルパークを設計した。

敷地:水害常襲地域「生井地区」

栃木県小山市生井地区は、
県内で最も低い土地で昔から度重なる水害に悩まされてきた。
そのため、この地ではみずまてという独自の治水文化や伝統建築が
存在していた。


しかし、足尾銅山鉱毒問題により渡良瀬遊水地が生まれ、村の文化、人々、生物とともに衰退してしまった...


みずまてを現代的に再解釈する

みずまての中でも特に水塚と呼ばれる
地形・操作・分散型建築の 関係性に着目した。

先人は水害時の水位上昇に備え、地盤の高さを上げ、 農作物を水面から最も高い水塚に保存し、水害時に備えた。 また、納屋の天井裏には、 揚舟と呼ばれる舟が吊り下がっており洪水時に移動手段として使用する。

そして、水神宮(伝統建築)を祀り、平定を祈った。 一見不自由そうに見えるが、 建築と土木が一体化された建築である。 これを生かし、バナキュラー×伝統×現代技術の三位一体を目指す。

みずまての概念図


そして、水塚が残る生井地区のコンクリート堤防被災者と訪問者のためのメモリアルパークとして再編した。 

敷地図

以下にフェーズを3つに分けて設計を行う。

設計フェーズ



設計フェーズ❶  「地形変更」


既存の堤防に水塚を生かした土盛を行い各場所の建築の地盤強化を図る。


設計フェーズ❷  「水運インフラ整備」


観光動線と生活動線を改善するために交通インフラ整備を行う。

設計フェーズ❸ 「建築」


与良川排水機場側の水塚堤防に防災拠点を設計する。

シーン:水位の変化により、水辺空間が移り変わる。


夏・秋の台風時期は防災拠点が水塚として機能する。冬の干しあげ時には、水神宮神社まで続く道が浮かび上がったり、ヨシ原でヨシ焼きが催される。

防災拠点は、展望台としても使われ、ヨシ焼きの風景を見ることができる。


揚舟で防災拠点に避難(増水時)


水害時には、揚舟橋に収納された揚舟で防災拠点に避難する。
通常時は、パークの舟運ルートの舟乗り場となる。水位の高さにより、
各建築の用途と地形との関係性が変わる。

増水時は、肥沃な養分が上流から流れ新しいヨシが育ち、農作物が育ち土地が循環していく。

ヨシズ作り、回復させ水害に備える(干し上げ時)


冬は干し上げにより、観光客が浮き出た道を通り、住民が農作物を蓄え、
CLT橋の部材間の交換と葦簀壁の交換を行う。

水位により変化する水辺空間

断面図

ハザードマップや想定浸水深さ、過去のカスリーン台風などの統計をもとにし高さを設定した。1.防災拠点は、地上から6.5mの位置に配置した。2.舟屋橋は、2階が揚舟の収納庫となるので、2階は基礎から3.5mの位置に計画した。3.は、高床式であり2階は3.5mに計画する。

配置図



水防組の防災拠点を設計し、住民のネットワークを強化することにより頑健性の向上を目指す。

水塚堤防と沈下橋のCLT構造によるコンバージョンにより、防災拠点と沈下橋に冗長性を持たせる。



またCLT建築を用いることで、生井地区の北西側に育つ防風林の木材の需要や管理制度を活性化させ、木材がこの土地の豊富な利用資源となることを
目指す。

CLTによる揚舟橋は部材交換が可能な構造とし、
木材による繊細さと即時対応力のある建築とする。

こんな設計をして、私が水害の時に経験した「2度とこんな思いをしたくない」と思う人の命を助けたい。


次回は横浜市で行う展示会の話を書いていく。

キーワードは、サウナ×茶室の設計

バナキュラー(芝屋根)
伝統(ログ構造、本実)
現代(サーモウッド)です。

インスタグラムで、フィンランドの生活の様子をアップしています!
よかったらフォローしてみてください!

https://www.instagram.com/finlove_77/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?