くずから始まる現実生活~警備員は人間のるつぼである~

るつぼなんて古くて難しい言い方で、気取った感じもあるから正直つかいたくないのだが、なんでかな、一発で伝わる言い回しだと思う。権威っぽさを出したくないから何か別の言葉を使いたいところだが、良い言葉が浮かばない。

私小説家の西村賢太が亡くなったらしい。西村さんのことはほとんど知らないし、小説も読んだことはない。ただなんとなく彼の醸し出す雰囲気、話す感じが自分に似ていて親近感を持っていた。

父親が強盗強姦でつかまり、両親が離婚、母子家庭で育ち成績が悪かったので中卒のまま家を出てアルバイトの日々を送ったらしい。家賃を滞納しすぎて強制退去になったことも何度もあるらしい。とちくじょうとか警備員も経験があると。

親近感を持っていたが、ものすごい経歴だと思う。調べてみると全然違うなと。

警備員。そうだ。最近働き始めて思う。いろんな奴らがいる。確かにネットでいうように、使い物にならなそうな若者と、定年前後のおじさん、ちょっとやばそうな雰囲気を持った人が多い。こういう人の中に西村さんみたいな人が紛れているのか。そう、話していて思った。確かに世の中的には使えないタイプの人が多いし、多分そうなのだろう。でも近い感じがした。すごく。

今まで見栄をはってそういう人たちと付き合ってこなかったが、居心地はとてつもなく良い。自分が楽な人間関係というのはこれまでなかった。常に何かしらきつかった。しかし、ここの人間関係はとてつもなく楽だ。自分に合っている。多分近いからなのだと思う。最初からこうすればよかった。

話がそれた。西村さんの近い感じというのは、多分、落伍している感じについてだ。いや彼は成功者だ。しかし落伍しておきながら、手前を保った地に足の着いた人だった。むしろ落ちたからこそ地に足がついている、と言えるのかもしれない。

人間臭いとかいう言葉があるが、それとはちょっと違う。それは当然そうだよな、とか、それが人情だよな、とかいうような分かり切っていて使い古された上澄みではなく、「それをやってしまったら」というような、口に出してはいけない、行動してもいけない、でもみんなそうしたいであろうに、口に出して説得を試みると「そんなことは思わない」と言われてしまう、たぐいのちゃんとしたクズという感じがある。故人に対して失礼か。だがあえてそんなことは意に返さないとしよう。

変な気を使わない感じというか。世間的にはダメな人間である、くずである、使えない人間である、それが私である、以上。といういような。わざわざ「だからどうした」などと主張するわけでもない感じ。

僕がなりたいなと思うのはそういう人間である。ちゃんとしたクズである。地に足のついたクズである。だが前もいったように使えないと、できないは全く別の話だ。僕は使えないだろう。しかしできないわけではない。多くの人がそうだろう。この、できると使えるの間は、簡単に埋められるならいいが、ほとんどの場合は少しずつ無理が必要だ。だからみんなきついのだ。

くずはこの間を全く意に返さない。普通、仕事が覚えられずに何度も指摘されたら萎縮もするし、覚えるための努力をするだろう。くずはそんなことはしない。(と思う)

全員ではないが、みんな、失敗をあまり気にしていない。ある意味成功者っぽい気質だ。僕は気にしいだから、ものすごく真面目に仕事を覚えようとしているが、すごく変な顔をされた。やらなくていいよ、誰でもできる仕事なんだから、ミスっても問題にならないよ、と。

これまでなら、それは嘘で、心理的安全性の担保とか、プレッシャーをかけないようにするための配慮であって、本当はちゃんとがんばらなきゃ話にならないことがほとんどだった。つまり上澄みの言葉だ。しかし警備員はどうだ。みんな心からそう思っているし、心からそう指摘しているように見える。

警備員は使えるラインがとてつもなく低いのだ。だから楽なのだろう。また、そういう仕事を選ぶ時点でそういう自分を受け入れている節があるのだろう。もしくは何か優先すべきことがあるとか。いろいろだが。

僕はやりたいことがない。できることもほとんどない。ずっと警備員でもいい気がしている。しかし、体力的に少しきついと思うし、やはり日中の仕事をしたいという願望がある。生活リズム的に。

これまで日中の仕事すらきちんと規則正しい生活をして余裕を持って通勤して、ということができなかった。それがありがたいことだと最近気づいた。ちゃんとしなきゃいけないらしい。くずにはとてもつらいし、大きな負荷である。しかしまずはそれと認識した。しかもちゃんとしないといけない、ということも腑に落ちた。自分の中で納得できた。

なぜだろうか。僕は生きたい。が、楽に生きたい。無理はしない。無理するくらいなら死んでよい。生きるイコール楽をすることだ。しかし、望むままに楽はできない。何もしないわけにはいかない。それなりにきついし、負荷がかかることは仕方がない。だからその中で一番楽な方法を取る。それでよい。

話がそれた。西村さんと僕と、警備員の仲間は似ている。みんなくずだ。地に足がついている。底辺とか言われたりする。しかし。地に足がついている。少なくともコントローラブルに歩くことができる。

それだけで十分じゃないか。

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