映画『鳥』のポストモダニズム

ヒッチコックの『鳥』(1963)は、パニック映画の金字塔であり、独特の映像美が冴え渡っている。

もう少し違った観点で言うと、凶暴化した鳥たちと、その標的となる人間たちとの関係が実にポストモダン的である。

 

注目すべきは、人間が鳥たちと遭遇しても、必ずしも襲って来ない点だ。

たいていのパニック映画では、遭遇すれば必ず襲って来るというパターンが基本となっている。

しかし『鳥』の世界は、シュミットの「友敵理論」が通時的には成立しない、断続的な「例外状態」なのだ。

 

戦争になぞらえるならば、ウェストファリア条約(1648)に見られる、主権国家どうしを前提とした近代主義的戦争観とは大きく異なる世界である。

『鳥』はむしろ「テロとの戦い」のような、国境を往来する潜在的な危険因子との共存を強いられる、ポストモダン的状況を暗示しているからだ。

 

また、指揮系統が不明瞭な鳥たちは、「リゾーム」(ドゥルーズ)状に増殖する暴力装置と言える。

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