ザ・ジェントル・ライアー@星組KAAT神奈川芸術劇場

一幕後と二幕後でだいぶ印象が変わった作品です。

一幕終わった時点では、個々のキャストがしっかり上手いからこそ、このメンバーだったらもっと面白くなりそうなのにというもどかしさを抱きました。
観劇前に把握していた情報が公式のオスカー・ワイルド原作のミュージカル・コメディ、ということだけだったので、『Eernest in Love』的なすれ違いコメディを勝手に期待していたのと、振り返ってみると一幕は二幕に向けてキャラクターや関係性を描くことに比重を置いていたので、単に自分のコメディを観るぞ!というスタンスとストーリー展開が嚙み合ってなかったのが原因だったと二幕を観て理解しました。

二幕に入ったらストーリーが一気にコメディに入って、気持ちいい噛み合わなさで軽快に畳み掛けていくやり取りが本当に楽しかったです。先の展開が読めない面白さも、客席で仕掛けがわかっているからこその面白さも、両方味わえるのが良かったです。観たいものを観た!という気分になりました。
今のご時世、公演が観られるだけでありがたいですが、この作品は回を重ねるごとに面白さが増していきそうなので、公演期間が短くなってしまったのはやはり惜しいです。

あと、全体を通して印象的だったのが楽曲の良さです。特に一幕最後の全員での楽曲は壮大な雰囲気ですごく耳に残っています。観た時はこんなシリアスな雰囲気だったっけ今まで…とちょっと戸惑ったりもしたんですが、音楽が良いとすごく引き込まれます。ハンガリー舞踊のショーちっくな場面もあって、楽しめるポイントが多かったです。

主人公アーサーせおさん。
まずビジュアルが良い。ポスター発表時からかっこよかったのが実物もイケメンです。
お芝居も良くて、せおさんアーサーのちょっと抜けた加減が絶妙でした。友人たちのために奔走する思いやりと、肝心なところで口を滑らせたり詰めが甘かったりする部分のバランスが上手くて、かっこよさはしっかり維持しつつ愛すべきキャラクターに仕上がっていたのが素敵です。

ロバートあかさんは堅物キャラでかつ奥さん一筋ってところが良いですね。身長が高いのも相まって、アーサーとは対照的な真っ直ぐでカチッとした立ち振る舞いも似合っていてかっこいいです。特にロバート、ガートルードが関わると沸点が下がるのがわかりやすくて一周回って可愛かったですね。

そしてヒロインズ。3人ヒロインは華やかで、しかも三者三様にキャラが濃くて見ごたえあって楽しいです。

チーヴリー夫人。さすがりら様、死角がない。上手い。そして強い。登場した瞬間から一筋縄ではいかない感がバチバチに漂っていて、すがすがしいくらい憎らしい良いラスボスでした。りら様のお芝居に底知れない凄みがあるので、アーサーもロバートも転がされているのが納得感もありますし、だからこそ人の弱みを知り尽くしているチーヴリー夫人の予想を超えるアーサー、ロバートとガートルードの結末が一層生きていました。
フィナーレは娘役群舞だけに登場されてましたね。せおさんとの同期デュエットダンスを期待してたのでちょっと残念です。
代役とは思えないほどすごくりら様らしい夫人を演じられていて、それがこの作品の中で大きな存在感を放っていたからこそ、はるこさんのチーヴリー夫人も観たかったなあと思います。全く違うキャラクターになりそうです。

ほのかちゃんのガートルードはすごく美しくてヒロイン然としているところが魅力的でした。ブルー系のドレスがどれもお似合いで眼福です。
ロバート以上に真っ直ぐでだからこそ頑なになっているところから、アーサーの力を借りて徐々に寛容さや愛情に目を向けるようになる過程をほのかちゃんがすごく細やかに表現されていて、自然と感情移入してしまいます。
あと、歌が圧巻です。女性の参政権運動(違ったらすみません)を歌う曲があって、歌としての上手さはもちろんですが、この一曲だけでガートルードのキャラクターがすごく明確に見えてくるのが素晴らしかったです。この曲も大好きです。

詩ちづるさんのメイベル。期待のヒロインが増えました。堂々としているし、実は34歳のアーサーに対するメイベルの幼さや背伸びをしている感じ、その中でも一生懸命アーサーの気を引こうとしているいじらしさがすごくハマっていて、文句なしの可愛さでした。実はそれほどストーリーの本筋に関わるキャラクターじゃなかったので、思ったほど出番がなかったなという印象でしたが、存在感はしっかりあり今後の活躍が楽しみです。メイベル相手だとせおさんのアーサーの大人っぽさやかっこよさが引き立つのもバランスが良かった気がしました。

みきちぐさんとまいけるがしっかり脇をしめつつちゃんと持っていくところを持っていくのは爽快でした。稀惺かずとくんの前のめりな勢いも印象に残ってます。
水乃ゆりちゃんはどこにいても目立ちますね。お芝居もですが、特にフィナーレは手足の長さを活かしたダンスが素敵でした。

『ザ・ジェントル・ライアー』は若手までしっかり芝居を楽しめるだったと思います。次回公演もラブコメなので、楽しみが増えました。