BLUE RAIN@博品館劇場

荻田先生が演出しているカラマーゾフの兄弟をベースにした韓国ミュージカル、しかも彩乃かなみさんも出演しているという惹かれる要素ばかりだったので、観に行ってきました。
休憩なしの2時間、糸が絡んでどんどん縺れていくようなストーリーと生演奏の繊細な音楽にのめりこみます。
まるで呪いのような家族の繋がり、思いが交差する兄弟、その中でも愛情を注いでくれる存在、重く激しい感情のぶつかり合いに博品館劇場という舞台と客席の距離が近い空間も相まって、キャストの皆さんの濃い芝居が一層迫力を持って伝わってきて、見ごたえがありました。

兄弟3人それぞれが父親の呪いを受けている中で、一番それが濃く影のように落ちているように見えるのがルーク。私の東山さんの印象は大体オギー作品で演じられていた役なので、理知的でありながらも父親に怯える、不安定なお芝居がとてもハマっているように感じられました。
石井さんのテオは、ルークと対照的で、ルークもヘイドンもエマも、皆が助けようとするのがわかる真っ直ぐさが感じられます。ルークがわざわざテオとエマがいたから生きて来られたと発言するくらいなので、淡々と弁護士として戦略を練っているようで、内心兄を助けるために必死という関係が良いです。そこに疑いの要素も加わっての兄弟のすれ違い、対立という流れにのめりこみました。
サイラスは伊藤さんのお芝居と佇まいが何というかすごく危うくて、ストーリーが進むにつれて誰なのかがわかっていくという展開と相まって、自然と目を向けてしまいます。ルークへの傾倒などの純粋さと気持ち悪さのバランスが絶妙でした。
エマは、物語の中で唯一、人を安心させるような役割を担っている人で、池田さんの暖かく包み込むようなお芝居が張り詰めた空気感を少し和らげるようで、テオとルークに慕われているのが納得です。テオとルークを一心に信じる姿にパワーがあって、「母親」の強さを感じる人でした。そもそも、2人のためにあの家に残る決意をしたところがめちゃくちゃ強い。

悲劇でありながらも絶望だけではない結末もよかったです。きっと父親の影は簡単には消えてくれないけれど、生き残った者がそれぞれ歩き出す姿に、最後は静かな強さを感じました。

あと印象的だったのが舞台セット。
ビニールシートを使った演出というと、去年の荻田先生演出の韓国ミュージカル『僕とナターシャと白いロバ』を思い出します。あの時は完全に客席と舞台を隔てるヴェールのようで、客席が近くコロナ対策として仕方なかったとはいえ物理的な観にくさが正直受け入れがたかった記憶があるのですが、今回はセットと演出が一体となって相乗効果を発揮しているように見え、触れそうで触れない、距離や境界としてそこに存在するのがとても良かったです。美しさも感じることがありました。

気になったキャストさんについて。 
◆彩乃かなみさん
作品を見たかったきっかけが荻田先生×かなみん作品が見たいという思いからだったので、とても満たされました。ヘイドンは寂しげなお芝居が印象的です。決して強くなく、傷を負って現在から逃れようともがく姿は痛々しく見える場面もあったけれど、かなみんの澄んだ歌声は舞台に渦巻くマイナスの感情を包み込むような、自然と心が温かくなるような力があり、素敵でした。石井さんの熱いテオと、すれ違ってもヘイドンと互いを思い合っている様子がストーリーが進むほど感じられて、すごくよかったです。
あと、事前にTwitterでちらっと見てたんですが、かなみんの足は見てしまいました。金魚のタトゥーも足も美しかった。

◆今拓哉さん
共感の隙がない悪を煮詰めたような芝居とキャストの中で際立つ体格の良さが合わさって、客席から観てるだけでも恐怖を感じるような迫力でした。あまりの迫力で、死んだ後まで兄弟たちに軒並み父親の影が落ちているのが納得すぎ。美声でビジュアルが良いのももはや恐怖のアクセントになっていた気がします。

余談
カラマーゾフの兄弟、2009年に雪組で上演されるときに文庫版を買ったはいいけど1巻の途中で断念した覚えがあるので、原作とどれくらいリンクしているのかはわからないのですが、今回のBlueRainを観ていると全然趣は異なるけれど雪組公演が思い出されて、ストーリーを追える楽しみもちょっとありました。というか雪組カラマーゾフが色々印象深かったので自然と思い出されました。衝動。