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痛みを知って気づく、愛

大学生の時、オーケストラ部でバイオリンを弾いて活動していた。

私は子どもの頃から長年習っていて、いわゆる「経験者」なので、3回生でパートリーダーをやることになったのだけど
先代の先輩が、何も教えてくれない人だった。

「たい焼きは教えなくてもできるよね、私のことずっと見てきたんやし。私、後ろで黙って弾いてるから」
と言われ、またまたご冗談を〜とその時は笑っていたけど、本当に見事なまでに「黙って」いた。
何か注意されるより、そっちの方がよっぽど怖かった。
(美人だけどお世辞にも愛想がいいとは言い難いタイプの人だったというのもある)

「経験が長い」から「教えるのがうまい」とは限らない訳で、
私は大学に入ってから楽器を始めた人たちの気持ちに寄り添えず
思うようにパートをまとめられずにいた。
いまひとつ成長が感じられなくて焦る日々。
パート練習中、メンバーの表情も冴えない。指示された通りに弾いてるだけ。
先輩は何も言わない。我関せずみたいな態度。
怖い。黙ってないで何か言ってくれよ。

あの時の先輩のやり方は、社会人になってからもしばらく疑問に思っていた。やる気なさすぎやろ、後輩指導する気ないんかい、と。


もっと、ずっと後になって気づいた。
決して「教えなかった」訳ではなかったと。
むしろ、何も口出しせずに黙ってる方がよっぽど辛かっただろうなと。



✳︎



娘(5歳)の面談に行ってきた。

保育園での生活は全く問題ないです、ちゃんと話を聞いてくれて、自分の気持ちもはっきり言葉で伝えてくれて、毎日お友達と楽しく過ごせています、とのことで安心した。


お母さんに是非お伝えしたいと思ったエピソードがあるんです!と前置きした上で、先生がお話ししてくださった。

ある日、新しいブロックのおもちゃを出して、みんなで遊ぶことになった。

ブロックは数がそんなに多くないので、各自が自由に使うと足りなくなる。
娘は「こうやってくみたてよう!」と積極的に案を出してみんなをまとめようとした。

でも、みんなおもいおもいに遊んでいる。

娘は何回もこうやろうよ!こうやったらでっかいやつがつくれるよ!と言ったらしい。

でも、誰も聞いてない。

娘はだんだんイライラしてきて、「◯◯がこんなにいってるのに!」と怒った。

すると、お友達は強く言われておもしろくなくて、みんな、さーーっと離れていった。そこに居た、全員。

娘は、ひとりでブロックで遊び続けたらしい。


黙って見守っていた先生は、そこでようやく声をかけた。
「みんな、いなくなっちゃったね。ひとりで遊ぶの、さみしいね」と。

娘は静かに泣いていた。

「◯◯ちゃんはこうしたいって言ってたよね。みんながどうしたいか、◯◯ちゃんは聞いた?」

その瞬間の娘の表情を見ていて、先生は
「あ、掴んだな」
と確信したと、おっしゃっていた。



もし、私がその場に居たら、もっと早い段階で「こら!そんな言い方しない!みんなで仲良く遊ぶんだよ」と叱ったと思う。絶対。

先生は、出過ぎず引きすぎず、娘を信じ、娘の気持ちを尊重して、気づきを引き出してくれた。

私にはできない。本当に、感謝しかない。

0歳児クラスの時にも担任を受け持ってくれた、ベテランの先生なのだけど、ああもう、ほんと、一生ついていきたいくらい先生大好き。


面談で泣く予定なんかなかったのに、気づいたらごまかせないくらい涙が溢れていて、やば…泣いてもうた…と恥ずかしくなった。

その時の娘の気持ちを想像して
先生の大きな大きな愛情を感じて、
どうしようもなく胸がぎゅうっとなった。


自分で気づくことに、意味がある。



信じて見守るって、本当に難しいですね、先輩。
小さいことでもすぐに、あれダメそれダメって言ってしまう私は、まだまだ先輩のようにはなれません。

たい焼き





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