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淡々と、強く

私の一番好きな脚本家だと言える、山田太一さんが亡くなった。
なんとなくいつかは、訃報を聞くことになるだろうと近年どこかで覚悟はしていた。

『ふぞろいの林檎たち('83)』をドラマ好きの母と一緒に毎週楽しみに見ていた。そこで山田太一という脚本家を意識するようになった。
それ以前に小学1年からのサザン・オールスターズのファンだった私は、ドラマに使われる音楽が全て!サザンのアルバムから、という演出に驚いた。ドラマの中に流れるギターやピアノのイントロだけでなんの曲か分かる。そんなドラマは今まで無かった。
そう、当時ドラマの主人公達(大学生)よりも少し年下(中学生)だった私は、ドラマ全体の筋よりも、音楽や登場人物のキャラクターの面白さに惹かれて最初は見ていたな。
コドモだったから、国広富之と高橋ひとみのカップルとか、よく理解できなかったな。小林薫と根岸季衣夫婦とか、(大人には色々あるんだ)的な世界だった。そういうとこも含めて、リアルだった。
多感な時期に毎週見ていたせいでドップリ影響されて、『ふぞろいの林檎たちもどき』の漫画をノートに描いていた中学時代。『ふぞろい』は男子大学生3人が主人公だけど、それを女子中学生3人に置き換えて描いていた。今思うと松苗あけみの『純情クレイジーフルーツ』にも設定が似ている(あちらは女子高生)。しかし画力は遠く及ばない。いや、もう破り捨てましたけど、恥ずかしくて。

『ふぞろい』以降も山田太一作品とあれば全部ではないけど見ていた。『悲しくてやりきれない』とか『キルトの家』、追っかけで『シャツの店』『男たちの旅路』『想い出づくり。』『早春スケッチブック』…。作品数が多いので切りがないな。

私がコレが一番好き!と、挙げるとすれば
『今朝の秋(NHK'87)』です。
笠智衆と杉村春子が夫婦役、その息子夫婦が杉浦直樹と倍賞美津子、っていうキャスティングがもう素晴らしいし。素敵な役者しかいないわけですよ。ほぼこの4人(プラス杉村春子が商売してる店のチーママみたいな役で樹木希林、いい役割を果たす)でドラマが進行するのですが、なんか美しいんだよなあ。二組の夫婦、どちらも上手くいってないのだけれど、なんとか取り繕って、いい大人4人が4人とも、家族なのにぎこちない。(このぎこちなさの演技が4人とも凄い。)でもなんとか一緒に過ごそうとする(理由があるのだが)…なんとも言えない余韻が、好きです。

山田太一作品は、暗かったり、間があったり、楽しいばかりのドラマじゃないんだけど、時々人物間のやり取りでクスリとさせられるところがあって、そういうのが好きでした。

エッセイも何本か読んでいて、訃報を受け、今は『昭和を生きてきた』っていうエッセイ集を読み返している。
エッセイじゃないけど『生きる悲しみ』っていう本が大好きで、これは山田太一が選んだ短編・エッセイ集。
これもよいですよ。

小説としては『異人たちとの夏』も素晴らしいよね。
映画もよいです。えっ、今さっき知ったけどアメリカで最近リメイクされてたんですね…2024年日本公開予定、だって!!
どーなんだろかーそれはどーなんだろかー。あれは舞台が浅草だから良いのではないだろうか…アメリカだとどこになっちゃうんだ。分からんけど。

ところで、『昭和を生きてきた』を読んでいて、自分が何故山田太一が好きなのか、根底にあるところがわかった気がした一文がある。

『本音をいえばあまりみんなでなにかをしたくない。』

本音をいえば、ということはつまり大っぴらに言ったら差し障りがあることだからだけれど、そこに深く共感してしまうのだ。
山田ドラマには、そんな主人公が多いのだ。集団に入れない人。はみ出してしまう人。
はたまた、「みんなでなにかをしよう!」と呼びかけて孤立しちゃう主人公とか。

それと、その前頁にはこうある。

たとえばアメリカの黒人として生まれたとしても、なるべく黒人問題というような渦中から遠ざかって、個人としての人生を生きることを願うだろう。
無論そんなわけにはいかなくなる時もあるにちがいないが、なるべく大状況に巻き込まれずに個人として生きられることを幸福に思うだろう。そして、そのように生きられる人の多い社会がいい社会だと思っているところがある。

『昭和を生きてきた』

子供の頃に戦争体験をし、結核で兄をなくし、母親も栄養失調で亡くした山田太一。
「大状況」とは天変地異もさりながら、人間が集団でしか作り得ない、戦争や紛争や差別問題も指していると思う。

倉本聰のドラマも面白いし好きだけど、人間的には結構対極なんだよね。山田太一は絶対に塾、作らない。

淡々と生きる市井の人のドラマを描く。

淡々と、強く。冷静に、優しく。

それが私の抱く山田太一という作家のイメージです。
数多くの素晴らしい作品を、ありがとうございました。



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