組織行動論:組織文化

組織文化とは、組織の構成員が共有する意味のシステムであり、これによってその組織が他の組織から区別されるものと定義される (Schein, 2010)。

つまり、組織メンバー間で共有される認識を意味し、自分の組織と他の組織とを区別するのに役立つものである。

例えば、組織の三菱、人の三井、という言葉がある。これは、三菱系の組織はチームで物事に取り組むことが奨励される傾向にある一方、三井系の組織では個人個人が力を発揮して物事に取り組むことが奨励される傾向にある、と言われている。このチーム志向や個人志向という特徴は、まさに組織文化を特徴づける要素であり、こうした違いがあるからこそ、三菱と三井の組織の特徴の差が明確になるのである。

組織文化は組織の創設者によって形成される。つまり、創設者の役割が非常に大きい、ということである。例えば、トヨタであればグループの創始者である豊田佐吉の考え方が豊田綱領という形でまとめられてあり、今なおトヨタグループ各社に受け継がれて全従業員の行動指針となっている*1。

組織文化は各組織に一つというわけではない。組織メンバーの大部分が共有する中心的な価値観を「優位な文化」といい、一部のメンバーによって共有される文化を「サブカルチャー」という。例えば、同じ企業であっても支店ごとに仕事に対する姿勢が異なっていることがある。これは、サブカルチャーによる違いといえるだろう。

また、文化には強い・弱いが存在する。組織文化が強いほど、メンバー間で中心的価値観が強く保持され、広く共有されることになる。組織メンバーが一丸となって、というのは強い文化の影響かもしれない。

組織の文化に適応するプロセスを組織行動論では社会化と呼ぶ。社会化は参入前、遭遇、変身という三つのステップを踏む。参入前において、人は組織のイメージをニュースなど様々な情報によってつかむ。そして、実際にその組織メンバーになると、参入前の段階で獲得した組織のイメージとのギャップに遭遇するようになる。新入社員が、こんなはずじゃなかったのに、と感じるのは、まさにこの遭遇の段階である。その後、変身というステップを踏むことで、組織に適応するのである。最初はつらかった組織での生活も、2年、3年と過ぎることで組織になじんでくるのは、まさにその人が変身を遂げたからである。

もちろん、上手く変身を遂げられない場合は最悪の場合離職につながる。離職をしない場合であっても、仕事に全力で取り組まなかったり、サボったり無断欠勤をするかもしれない。

この意味で、学生が就職活動をする際にはその組織の文化を確認するようアドバイスしている。組織文化が合わないと、仕事をするのが非常につらく、会社に行きたくなくなるからである。また、組織文化は変革するのが非常に難しいという点も、組織文化に注意して就職活動すべき理由である。つまり、もしも就職した企業の文化になじめない場合、その文化を変革するのは非常に難しく、結局自分が辞めるくらいしか解決策がない場合が多いからである。

最後に、組織文化はエピソード、儀式、シンボル、言語などによって従業員間で伝達される。エピソードとは、各組織にある特有の伝説みたいなものである。伝説の営業マンの話、などがあなたの所属している組織にあるのなら、そのエピソードはその組織で奨励されている人間像を示しているかもしれない。

また、入社式は組織文化を伝達する格好の舞台となっているし、企業のロゴは文化を伝える道具としても機能する。最後に、その組織でしか使われない特有の専門用語があったりする。組織に所属し始めたばかりの人は、組織特有の言葉に戸惑いを感じるかもしれない。しかし、その用語の意味が分かると、途端にメンバーとして認められた、と感じられ、組織へのロイヤルティが増すかもしれない。


*1 豊田綱領https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/conditions/precepts/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?