見出し画像

卒業論文執筆のための参考にすべき論文と書籍の基準について

1.はじめに

論文を書くうえで、他の文献を参考にするのは必須である。ところが、学生の論文や他の学者や実務家が書いた論文の中には、なんでこんな参考文献引用しているのだろう、とか、なんであの論文を引用していないのだろう、とか思うことがある。

どのような論文・書籍を参考にすべきか?

今回はあくまで個人的な見解として参考にすべき論文・書籍の基準と、それらをどのように探すかをまとめておく。

2.参考にすべき論文・書籍は何か

個人的に参考文献を探すときに基準としているのが以下のものである。

a. 引用件数が多い
b. トップジャーナルに記載されている
c. 最新の研究である
d. 著名な研究者の論文である

a. 引用件数が多い

引用件数とは、他の研究者が論文や書籍を引用した回数を意味する。

素晴らしい研究であれば多くの人が引用するし、逆に引用件数の多い論文を読んでいない、ということはその分野において共有知識を持っていないということを意味するだろう。

自分は論文の検索にWeb of Scienceを使っているが、概ね引用件数が100件以上だと、結構引用されているな、と個人的には思っている。

ただし、引用件数の多寡は研究分野によって大きく異なると思うので、どの程度が引用件数が多いといえるのかは各個人で基準を見つけてほしい。

また、引用件数で参考文献を選ぶ際に注意すべきことがある。それは、古い論文ほど引用件数が多くなる、ということである。これはよく考えれば当たり前である。古い論文ほど引用されるチャンスが多いからである。逆に、新しい論文ほど引用件数は少なくなる。しかし、新しい論文が良くないかというとそんなことはない。むしろ、最新の動向を踏まえるためにも積極的に引用すべきである。

b. トップジャーナルに記載されている

トップジャーナルに記載されるには大変時間がかかる。経営学分野においては1年で投稿から出版までたどり着くことはまれで概ね2~3年かかる。これは、投稿された論文の厳密さを査読者がチェックしているからに他ならない。

分析は妥当か、適切な理論が用いられているか、理論的発展に論文が寄与しているか、などである。

学生さんには考えてもらいたい。指導教授との1年弱の論文指導でさえ苦痛なのに、大学の教員や研究者はその苦痛を2~3年味わっているのである。しかも、大体の研究者は複数の論文を1年に投稿するだろうから、その何倍もの苦痛を味わっているのである!!!

話を元に戻そう。トップジャーナルに投稿する、というのはそれほど大変な作業である。そして、その大変な作業が報われた成果として論文が発表される。よって、そんな厳しい審査を突破した論文を引用しないわけにはいかない。トップジャーナルを読め、である。

問題は、どのジャーナルがトップジャーナルか、ということである。

トップジャーナルの基準も人それぞれだろうが、世の中には様々なジャーナルのランキングや評価軸がある。最も有名なのはインパクトファクターだろうか。

インパクトファクターは簡単に言えばどの程度そのジャーナルがその分野において影響力があるのかを定量化した指標であり、数値が大きいほど影響力があるとされる。詳細は以下のリンクを参照。

インパクトファクターはジャーナルの論文がどの程度引用されたか、というのを基準に作られているのが分かるだろう。注意してほしいのが、他分野とのインパクトファクターの比較は意味がない、ということである。例えば、自然科学系のジャーナル (Science, Nature など)と社会科学系の論文 (Academy of Management Journal, Journal of Financeなど)のインパクトファクターの比較には意味がない。引用される頻度等が分野によって異なるからである。

また、インパクトファクターに関してはいろいろと科学者間で批判もあるのだが、それはまた今度にしよう。

そのほかにはABDC Journal Quality ListScopusなどを参考にすると良い。

c. 最新の研究である

a. でも述べたが、論文を書くうえでは最新の研究を参考にする必要がある。なぜなら、自分の立てたリサーチクエッションに対して、もうすでに回答がなされてしまっているかもしれないからである。

また、最新の研究をチェックすることで、その分野のトレンドが理解できるだろう。

何をテーマに論文を書いたらよいのか悩んでいる人も、最新の論文を読むと良い。自分の気になったトピックに関する最新の論文を読み、その論文の最後に書かれているLimitation を理解することである。

このLimitationに対して自分が研究をすれば、その分野の理論的発展に貢献することができる。

最新の研究を踏まえる上では、ぜひともトップジャーナルの論文に触れてほしい。

d. 著名な研究者の論文である

自分の興味のあるトピックに関して、ある特定の研究者がすでに多くの研究を残しているかもしれない。その場合、その著者がどのような論文を書いているのかを調べ、ひたすら読むと良い。

著名な研究者であっても、あまり有名ではないジャーナルに論文を投稿しているかもしれない。あるいは、自分の専門分野以外のジャーナルに論文を投稿しているかもしれない。

例えば、私はBusiness Ethics 等に関する専門家だが、著名な研究者の論文をたどることでHuman Resource Management や Organizational Behavior 系の論文に触れる機会ができた。

もしも気になる著者がいるのなら、その人の論文をたどると良い。

3.おわりに

色々書いたが、自分は大体 a, b, c の三つの基準で論文を探すことが多い。そして、たまにdの基準で論文を探す、というところだろうか。

また、上記の基準は英語で書かれた論文や書籍に関してであり、日本語の論文を引用する場合には当てはまらない

そもそも日本のジャーナルを読むのは日本人だけであり、引用件数に関する適切なデータベースが日本にはない。あっても日本の論文の引用件数は極めて少ないだろう。

引用件数が少ないということは、日本にはトップジャーナルと呼ばれるものは存在しないことになる。

なので、日本語の論文を探す場合には別の基準が必要となる。少なくとも、日本語の論文を読む場合はその論文が十分な科学的根拠を提示しているのか、分析手法は妥当か、それとも単なる著者の意見なのかを自分で判断しなくてはならない。

さもなければとんでもない論文や書籍を引用してしまうことになるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?