オルフェウス教とギリシア哲学
古代ギリシアは、ふたつの精神的エンジンをもっていました。
ひとつは合理的で経験的、実証的な性格のもの。
もうひとつは神秘的で情熱的、霊的な性格のもの。
この両者が組み合わさることで発生した高度な文化が古代ギリシア哲学です。
ニーチェのデビュー作『悲劇の誕生』は、ここに焦点を当てた作品でした。
古代ギリシアは明朗で合理的なだけでなく、その根底にディオニス的な非合理な情念が渦巻いていた。しかしソクラテスは理性でもってそれを抹殺し、ギリシアの全盛期を終わらせたのだ、という内容。
ソクラテスをそのような場所に置けるのかについては異論が多いですが、古代ギリシアの二面性は、ニーチェの仕事によって認知度が高まりました。
ギリシアの暗い面、神秘的で霊的な世界観を支配していたのが、オルフェウス教と呼ばれるものです。
実際にオルフェウスという名の個人がいたのかどうかは不明です。
オルフェウス教の内容はざっと以下のようなもの。
・人生は牢獄である
・われわれの本性は星々の世界にある
・われわれは地上に拘束されている
・人生をどう生きたかによって死後の境遇が決まる
・浄化と禁欲の生活が正しい生活
・正しい生活によってわれわれの地上的部分は薄れ天界的部分が濃くなる
・ついにはバッカス(神)と一体化することができる
この手の分野にくわしい人が見ると、「なるほどそういうことか」と閃いてしまうような内容です。
直接の交流はなかったにもかかわらず、なぜか同時代のインド宗教と内容が酷似しています。
オルフェウス教はあのピタゴラスに影響を与えました。
ピタゴラスといえば、ピタゴラスの定理で有名な数学者。彼は哲学者でもあり、教団のカリスマ的リーダーでもあります。
そしてピタゴラス教団から影響を受けたのがプラトンです。
プラトンは西洋哲学の王であり、その後の西洋哲学はプラトン作品への脚注のようなもの。
またキリスト教神学もプラトンの影響下にあります。
こうしてオルフェウス教が、のちの西洋文明に強烈な影響を及ぼしていくわけです。
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