トラウマ記憶の解凍とエピソードトーク

今回はトラウマがある人の冷凍保存された記憶が解凍される時に起こる特有のエピソードトークの話をしたいと思います。
こちらの記事を読んでから読む事をオススメします。

最近トラウマに関する本を読んでいてふと思い出した事があります。
それは亡くなった僕の祖母のことでした。
祖母はお酒を飲むと毎回同じエピソードトークを話していました。
ざっくり言うと昔親戚にすごく嫌な事をされたというような恨み話のようなものなのですが、とにかくその話がしつこいのです。
よくよく考えてみるとあれはきっと祖母にとってストレスが強すぎて無意識に押し留めて忘れようとしいた過去のトラウマだったのではないかと。
僕の記憶している限りだと祖母に病的なトラウマ症状があったとは思いませんが、だからこそ逆に過去の記憶がトラウマになるというのは誰にでも起こりうる事なのだなと感じています。

以前書いた記事でも書いた通り、強いストレスを伴うトラウマ体験があるとそれを感じないようにする為に解離が起こります。
解離には自分から自分という存在を切り離して今起きている事を他人事にするという作用があります。
ところが解離を起こしてトラウマ体験を他人事にしたとしても、その時のトラウマ体験の記憶は冷凍保存されて残ります。
そして何かのキッカケにこのトラウマ記憶が解凍される時があります。
その時に発生するのがフラッシュバックです。

そしてこの時に安心できる相手がいるとトラウマ体験に関してのエピソードトークが話される場合があります。
このトラウマ体験のエピソードトークというのはとにかく取り止めもなく溢れてきます。
それは問答無用と言わんばかりに押し寄せてきます。
僕がトラウマ体験の聞き手に回った時は、煙が充満した部屋のドア(=相手の心のドア)が開いたらあっという間に今いる部屋も煙まみれになるような、そんな体感でした。
トラウマに対して知識がない人や自他境界の弱い人であれば相手のトラウマ記憶の世界に容易く巻き込まれてしまいそうな、それくらい強いエネルギーを感じました。

このエピソードトークにはいくつかの特徴があります。
まず言えるのは過去の話であるにも関わらず生々しさがあるという事です。
それは話している本人が今その時それが起こっているかのように認識した状態で話しているからです。
これは冷凍保存された記憶というのは鮮度が維持されたままである事が原因です。

そしてもう一つ特徴があるのは話の内容の時間軸が不明瞭になるという事です。
これも上記で述べた冷凍保存により過去の記憶があたかも今起きている事のように感じられるという現象の影響でしょう。
過去の話であるにも関わらずまるで今の話であるかのように話してしまうのです。
そして過去は過去でも1年前なのか3年前なのかという細かい時間軸についての証言が抜け落ちやすいのも特徴です。

これは人によっても違うのでなんとも言えないところではありますが、おそらく複雑性PTSDのように一つのトラウマの上にトラウマが累積されている場合において1年前の事と3年前の事が時間の区別なく湧き出てきてしまうからだと認識しています。
根っこにあるトラウマが同じであれば、その後に積み重なったトラウマ経験が連動して想起されるという事も想定できます。

分かりにくいので具体的な例をあげます。
幼い頃に性的虐待のトラウマが根っこにある人を例にします。
その人に対して以下のトラウマエピソードが積み重なったとします。

①恋人から身体を触られた瞬間にフラッシュバックが起きてそれによって揉めて関係が壊れてしまったというトラウマエピソード(5年前)
②いわゆるヤリモクの人から身体接触を受けた際に性的虐待によるトラウマが原因で断れずに性行為をしてその件がトラウマ化してしまったというトラウマエピソード(1年前)

この場合、トラウマに関してのエピソードトークをする場合に①と②の時系列の区別がなく両方がぐちゃぐちゃに話される場合があるのでないかという事です。
聞き手が意識的にいつ起きた事なのか等を聞いたりする事である程度時系列を整理する事ができるかもしれませんが、そうでなければ2つのトラウマは一緒くたに語られる可能性があるでしょう。

そしてまた強烈なトラウマがあると自己を喪失すると言われている事からも分かるようにトラウマによるエピソードトークでは主語が曖昧になったり本来自分を主語にした方が良い時に主語を他人や物事にしてしまう傾向があります。
こちらについては↓の記事に記載してあります。

「誰が(主語)」という部分が曖昧になりやすいのがトラウマのエピソードトークの特徴でしょう。
トラウマ症状が強い時というのは「自分がこう感じた」という事に対して実際はどうであったかという事の振り返りができない状態になります。 自分が感じた事だけがその人の中の真実になってしまい、別の視点を持つのが非常に難しいのです。

フラッシュバックによる過去のネガティブな感情の強烈な再体験を通じてとにかく視点が一つに固着化しやすくなります。
場合によっては聞き手側は十分に話を聞いた上で同じ物事に対して別の視点で捉えてみるように促すという事も必要になるかもしれません。
もしそのトラウマがなければその人はどう感じるのかという所に真実があります。
何故ならそれはあくまでもトラウマによって客観性を失っているに過ぎないからです。

ただし感じた事を否定されてしまうとせっかく出てきた過去のトラウマ体験のエピソードトークが止まってしまう可能性があります。
流れを止めない為にはとにかく感じた事そのものは受容して否定のニュアンスを排除し、その上で相手に記憶の修正を促すというのが大切になってくるでしょう。

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