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星詠みの耳飾り

【旅する飾り屋の話 ―星詠み―】

まだ寒さが残る頃、とある市場の隅に場所を借りた飾り屋達は
行き交う人達に自作の飾りを紹介していた。
しかし皆、足早に飾り屋の前を通り過ぎていくばかりで飾りを見てくれる人はほとんどいなかった。

『うーん、今日は厳しいね。早めに店終いにする?』
相棒の言葉にしょうがないね、と飾り屋が片付けを始めようとした時
「あの、すみません。耳飾りが欲しいのですが…ありますか?」
と声が聞こえた。
振り返るとそこには黒色の外套に身を包み、夜の始まりのような紺色の髪と宵闇色の瞳を持つ儚げな女性が立っていた。

『耳飾りなら沢山あるよ!なんなら今作るよ!ね!』
念願のお客さんに喜ぶ相棒につられて、喜んでお作りしますよ、と飾り屋は答えた。
「ではぜひ、星詠みに相応しい飾りが欲しいのですが。」
そう言うと彼女は外套の中から金色の輪が組み合わさってできた球体を取り出した。
球体の中では宝石のように輝く石がゆっくりとそれぞれが様々な速度で回っている。
『綺麗だねえー。これってもしかして天球儀?』
「よくご存じですね。はい、この天球儀は星詠みが星達の場所を詠む為に使う大事な仕事道具です。」
相棒がへーと驚いている隣で、飾り屋は天球儀を見ながら少し考え込み
トランクの中から月や星、輪の飾りを出してその場で組み合わせ
非対称な天球儀と夜空をイメージした耳飾りを作った。

「まあ素敵な耳飾りですね!ありがとうございます!」
星詠みは耳飾りを付けると、とても嬉しそうに顔をほころばせた。
『こちらこそありがとう、今日初のお客さん!』
そう言ったトランクの言葉を聞いた星詠みは少しだけ天球儀を見つめた。

そして
「明日は市場の向こう側に場所を移してみてください。今日とは違った日になりますよ。」
と柔らかな笑みを残して帰って行った。


翌日、場所を移した飾り屋とトランクの元にお客さんが殺到し、
てんやわんやしたのは言うまでもない。


minne

Creema


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