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【映画観覧記】アキ・カウリスマキ監督“敗者三部作”

アキ・カウリスマキ監督による“敗者三部作”

『浮き雲』『過去のない男』『街のあかり』
フィンランドの監督アキ・カウリスマキの映画。
幸福度1位の国フィンランドではあるが、彼の映画を見ていると澱んだ空気が充満していて、とても煙たく感じる。
僕のムーミン貯金箱のように、背中の入口からコインを投入しては、直ぐ裏のキャップを剥がして引き出す、一向にお金の貯まらない生活と同じで、救いのみえない経済が蔓延してるような国。
絶えず煙草を手にする出演者たちは、浮いてしまう身体を地面に括り付けるかのように狼煙をあげる。
お酒も一緒で絶望を緩和する鎮痛剤であり、どの作品でも途方に暮れてる人々が描かれる。
水の中で呼吸をしようと試みてるような息苦しさ、いや水中に空気はないので水が喉を詰まらせていく。
音楽がチグハグに介入しまるでその空間にそぐわないのだが、現実も同じで映画のようにBGMを奏でるなんてことは稀であり、ラジオをひねれば勝手に流れるし、レストランでも酒場でも、実際は勝手に伴奏してるだけであることを知る。
つまりリアリティを追求しているかと問われたら、こんなに不幸が連続するなんて場面は早々あり得そうにもない。
不幸せは、コメ(喜劇名詞=Comedyのコメ)なのかトラ(悲劇名詞=Tragedyのトラ)なのか、そこが問題。(by.太宰治:人間失格)
余りにも度を越した悲劇は、その過剰さに笑うしかない場合もある。
悲しすぎて笑い、その感情をコントロールしようとしてるのか、誤魔化そうとしてるのか、落語は悲喜劇であった。


『浮き雲』(1996)

監督・脚本・制作: アキ・カウリスマキ
出演: カティ・オウティネン、カリ・ヴァーナネン

これが初めてみたアキ映画だった。
アキ映画の常連、カティ・オウティネン。
その飄々とした顔立ちは能面、棒読みで抑揚のない話し方が、逆に見てる者の想像を駆り立てる。
それから引きの写真がいい、どことなく小津安二郎だと思ったらやはり監督の好きな写真らしい。
この映画は、レストランに勤めるイロナ(カティ姉さん)とその亭主(市電の運転士)の物語。
なんか素敵なレストランだ、こんなところでお食事を楽しみたい。
と、浸ってる間もなく、怒涛のように不幸がやってきて我々もろとも押し流していく様は、落語のリズムに近く、あれよあれよと言ううちにすってんてんになっちまう。
生活にあくせくし、労働に従事、紙幣の煩悶に喘ぐスタイルは、この三部作だけではなく一貫してアキが扱う題材である。(ちなみに僕もずっと喘いでいる)
けれど敗者なんて簡単に言ってもらっては困る。
誰も負けようなんて思って負けるワケじゃなく、知らないうちに船が沈んでいくのだ。
頑張れば頑張っているほど、その振り幅が大きくなり、ギャップの差が、悲喜劇を盛り立てていく。

『過去のない男』(2002)

監督・脚本・制作: アキ・カウリスマキ
出演: カティ・オウティネン、マルック・ペルトラ

この映画もずっと前に見ていたことに途中から気付く。
いかにも鑑賞をそそるタイトル。
ヘルシンキへ向かう列車、あてどもなくたどり着き下車した男は、暴漢に襲われ見ぐるみ剥がされた上に激しく殴打され、病院送り、それから記憶喪失、
それでも生きていく男の前に現れるはカティ姉さん。
といったような話で、やはり怒涛のように男に不幸が訪れるけれど、それを門前払いしないで滔々と受け入れていく主人公がいい。
来てしまったものを追い返すよりも歓迎しちゃって楽しんだ方がお得、
ていうことかな。

『街のあかり』(2007)

監督・脚本・制作: アキ・カウリスマキ
出演: ヤンネ・フーティアイネン、マリア・ヤルヴェンヘルミ、イルッカ・コイヴラ

こちらは初鑑賞。
百貨店の夜間警備員が主人公、冴えない男が恋心を灯した相手は性悪女、馴染みのケータリングカーお姉さんの恋心には気付かずズルズルとビッチの策略にハマっていく。
リズム良し、キビキビと進行していく小気味よさ、街の灯りがとてもきれいね、
カティ姉さんはスーパーのレジ係で一瞬でてくるカメオ出演。
この映画の写真も引きがとてもいいので、画面を撮ったのを載せておきます。
グッとくるな、この写真だけでご飯お代わりできるくらいだ。
そしてやっぱり不幸のフルコースを堪能する映画、主人公の煮え切らない態度に少しイラつきます。

街のあかりA
街のあかりB
街のあかりC

後記:

さて不幸の連鎖をコメとして頂く、俗に“敗者三部作”と呼ばれているのですが、
実際は最後まで見ればお分かりの通り、なんとかなっちゃって、もしかしたら以前より輝いていたりもするのです。
つまり遠回りでも、道草にしか思えない事柄でさえ、喉元過ぎればいとおかし、新たな道が開かれるという啓蒙でもある。
アマプラ(amazonプライム)で現在公開しています。
『パラダイスの夕暮れ(1986)』
『真夜中の虹(1988)』
『マッチ工場の少女(1990)』
俗に"労働三部作”と呼ばれる作品も見ました。
『パラダイスの夕暮れ』はカティ姉さんのアキ・デビュー作。
3本ともアキとしかいえない、悪くいえばマンネリズムなのかも知れないが、この初期作品も素晴らしい。
自身の行く先を案じた時に、どうにかなるさなんくるないさと笑ってくれる、いや笑わせてくれるユーモアいっぱいの映画。
秋の夜長にぜひ賞味あれ。

カティ姉さん #一骨画

追記:カティ姉さんを描きたくてやってみましたが、描き易そうで難しく何度も試行した。独特すぎるんだな、きっと。

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