被害者はだぁれ

少女と呼ばれる年齢の頃の私は、変態と呼ばれる人種が求める蜜のようなものを放っていた。あらゆる大人の男が私と話すために人形やケーキを買い与え、熱を帯びた視線を送ってきた。東大生に「一万円でおしっこを飲ませてくれ」と懇願され、教師からは誰もいない教室で抱きしめてきた。

スイミングスクールでは知らない男に無断で写真を撮られ下校中は最寄りのコンビニから後をつけられた。自宅の電話に出るとはぁはぁと淫らな声を聞かされ「電話を切ったらお母さんをやっちゃうよ」と脅され、8歳では知るはずのない性的な音や声を聴きながら私は未知なる恐怖に慄き、わあわあと泣いた。

自宅に警察を読んだのはそれが初めてだった。それからも私が少女でいる間は何度か警察を呼ぶ出来事があり、私に事情を詳しく聞く警察の女性は「なぜ何度もそんな目に遭うのか、もっと注意しろ」と言った。しかし私の蜜は成長と共にどんどん薄くなり、平凡な女となる頃には男たちは周りから消えていた。

子供の頃に受けた屈辱は拭えずあらゆる大人の男を変態性を忘れられることができないまま成人した私はありとあらゆる男性を軽蔑した。男から金銭をむしり取ることが快感だと気付いたら私は処女のまま茶や食事で金を取るパパ活を始めた。茶で1万、食事で3万。値切る男にはその場で罵声を浴びせ辱めた。

何十人と会っても少女だった頃に感じたような焦がれるような私への憧れを感じなかった。あるのは下心だけだ。白百合女子大学に通う処女というだけで処女を20万で買おうとしてきたやぼったい男もいたが、そんな時は「助けてください!」とセルリアンのラウンジで声高に叫び男を辱めた。いい気味だった。

処女のまま歳を重ねた私はもうすぐ40歳になる。美容や体型に気を遣わなかった私の肉体は弛み、顔色は黒ずみ小皺で覆われていた。今でも男が憎い私は若い男の後をつけたり、風呂に入らずホストの初回へ行き威張り散らして不気味な目で見られ、しかし金のために媚びる彼らを見て清々した気分になる。

いつの間にか世の中全ての男に復讐することが私の生きる意味となっていた。広い肩幅も低い声もごつごつとした手も、憎くて憎くて狂いそうだ。私は加害者なのだろうか。被害者なのだろうか。(完)

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