田中さんとの約束

詩がうまいからうらやましかった、一度だけ、山の上の詩人の集まりで、会ったことがあった、わたしは人見知りで話しかけるのもいやだから、ことばを交わすことは殆どなかった、
そのあとメールでやり取りをして、あなたはわたしを散歩に誘ってくれた、わたしとあなたの家は同じ地方にあって、あなたの家のちかくには川があるというような話をきいた、
ねえ地球さん、二人で川の近くをお散歩しましょうね、そんな約束をした、わたしは約束が好きで、約束があると生きていられる気がする、

それから一年位、何のやり取りもしなかった、ある日急にあなたがメールをくれた、何かあったら連絡するんだよ、ひとりじゃないんだよ、と、電話番号をおしえてくれた、わたしはそういうことも苦手だから電話はしなかった、あなたはわたしを地球さんと呼んで、わたしはあなたを名字で呼んだ、
その時、散歩の約束を覚えていてくれた、わたしはあなたをよく知らない、あんまり話したこともない、けれど約束を忘れないでいてくれた、あんなちいさな、もう見過ごしてしまいそうな約束を、あなたの心に持っていてくれた、あなたはとてもやさしい人なんだとおもった、

最近、わたしはお釜でご飯を炊くようになった、あなたがそうしているという話をきいたことがあった、なぜこんな風になったかはわからないけれど、本当に急に、お釜でご飯を炊くようになった、田中さん、お釜で炊くごはんはおいしいんだね、あなたとお散歩をしたら、そんなどうでもいい話をしようとおもう、

わたしより年下なのにずっとずっと頭が良くて、だからうらやましかった、よく物事をしっていて、詩だけじゃなくて、歌もお話しもうまくて、わたしにもやさしかった、夜は暗いから、急に約束を思い出した、

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