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リワーク日記95 メンタル休職から転職するのは無謀か?経験者が振り返ってみると…

私は2021年9月にメンタル疾患を発症し休職しました。通院とリワーク通所を経て2023年5月に転職することで社会復帰を果たしました。10ヶ月経った現在も在職中ですがこれまでの経験に照らして、休職から元の職場に復職するのではなく別の会社に転職するという選択の良かった点と悪かった点について考えてみたいと思います。私と同じくうつ病などのメンタル疾患によって休職を余儀なくされている人は、一度は復職か転職かを悩むことかと思います。ぜひ参考にしてもらいたいと思います。

まあ、これまでの記事で散々大騒ぎしながら書いてきた通り、事件は職場でこそ起こります。常に何かが起きますので、元の職場に疲弊して転職したからといって平和な生活を手に入れることができるとは限りません。転職先にも問題は必ず潜んでいますし、今の時代は全国的にどこの職場も人手不足が深刻ですので、人手が足りないことで発生するあらゆる問題から逃れることはおそらく不可能でしょう。それなら業務も人間関係も分かっている元の職場に復帰する方が社会復帰を成功させやすいのでしょうか?

当たり前ですが、答えは人によります。私にとっては、マイナス面もありましたが、全体としてみれば転職して良かったと思っています。元の職場への復帰を選んでいたら、今ほどの回復と充足は得られなかったでしょう。

良かった点は、嫌な人間関係から離脱できたこと、よりやりたい仕事に就けたこと、より個人の自由のある職場環境を手に入れられたこと、より経営の安定した企業に移籍できて将来の見通しが明るくなったこと、業務の重さが軽減されたことです。

嫌な人間関係から解放されたというのは非常に大きいです。人間関係が鬱の原因だという人は何よりこれを望んでいるはずです。もうあそこに戻らなくても良くて、もうあんな嫌な事を言われずに済むというだけで心の負担がなくなります。もちろん転職先にも嫌な人というのはいるのですが、自分をメンタル不調に追い込んだ容疑者との縁を切れるのですから重視すべき大きな価値があります。自ら縁を切るという決断は、傷付いた自分の尊厳を回復させ明るい未来へ前進するという誇りある行動です。転職先の人間関係がどうかというのはその後の問題です。

次に、仕事についての問題が解決に近付くというのも重要です。私の場合は、元の会社が年々私の関心の薄い事業分野へとシフトしてしまっていて、明らかに会社の方針と私の関心の間にあるズレが拡大していました。それなのに責任の重い仕事を任されてもやる気が出るわけもなく重荷でしかありません。加えて年々管理も厳しくなりブルシットジョブも増加しており、業務自体が窮屈で苦痛なものになっていました。トドメに、会社の業績は常に最悪を更新していて将来の見通しも不透明でした。良いところがありませんね。

転職によってそれらの不安要素は相当解消されました。会社と私個人の方向性は合致しており、以前は社内で孤立している感覚だったのが、今では仲間がたくさんできたという心強さがあります。それだけでも業務のやらされ感や負担感が軽減されましたし、会社の業績も安定しており職場の空気も悲壮感がありません。これは日々の自分自身のメンタルヘルスにも好影響だと言えます。

それでは反対に悪かった点は何でしょうか?私にとっては、転職活動が大きな負担になったこと、転職したとしても相性の悪い人は必ずいるので完璧なストレスフリー環境は手に入らないということ、社内人脈構築や業務習得を再びやり直さないといけないのが負担になるということ、収入が減少してしまったことあたりでしょうか。

リワーク日記の過去記事を読んでいただければ分かる通り、私は転職活動にかなり苦労しました。転職活動期間4ヶ月、応募企業数410社、内定数1社(合格率0.24%)という成績を「苦戦」と表現しないとしたら、もはや「惨敗」としか呼びようがありません。毎日毎日とにかく落とされ続けました。私は休職をオープンにして転職活動をしていましたので、もとよりすんなり行くとは思ってはいませんでしたが、それでも精神的にはきつい体験となりました。最終的にはメンタル不調を伝えた上で今の会社に合格をもらったので良かったのですが、メンタル休職の状態で転職活動をすることの最大のデメリットがこれだというのは確かです。一度復職してから転職活動をする方が成功率は高まるだろうというのは体感的にも間違いありません。強行突破作戦が自分の選択肢を狭めるリスクを負う行為だという点には必ず留意しておくべきです。

そして転職先だろうがどこだろうが、あらゆる場所に相性の悪い人たちは必ずいて、人間関係上の摩擦や問題はゼロにはならないというのは、人間社会に普遍的に通用する真実でしょう。せっかくあれほどの時間と労力を費やし犠牲を払って飛び移った新天地なのに、いや、そうだからこそ、この新たな頭痛の種が自分の希望をぶち壊すのは極めて許しがたく大きながっかりポイントになってしまいます。

ですが、その新しい目障りな隣人はまだ自分をメンタル不調に追い込む罪を犯していませんし、距離の取り方を慎重に作り上げる余地は十分にあります。むしろそのために私はリワークに通って人との関わり方の訓練を受けたのです。今度こそ悲劇を回避できるよう手を打つことはできるはずです。

また、私は隣接する業種に転職しましたが、それでも業務知識でわからないことは多かったです。基本構造は同じなのですが、細かなところはかなり異なっているので、業務知識や社内慣行や業務フローなどは相当程度新たなに勉強し直す必要に迫られています。これがかなり大変でストレスになっています。おまけに社内の人脈も転職で失われましたので、業務を自在にこなせる度合いが非常に下がってしまいました。その不自由と非効率を残業で補おうとするのですから、ワークライフバランスはどうしても悪化します。悲しい悪循環です。

もちろん、これはメンタル休職をしていなくても転職一般に当てはまることではあります。場合によっては転職してからの方が仕事が大変で、メンタルにはマイナスになってしまうというケースもあり得るでしょう。仕事から長期間離れている状態で、いきなり実業務、それも知識が十分でない業務に取り掛かるのは非常に負荷がかかります。しかも転職先のリアルな業務負担度を事前に把握するのは不可能です。これは明らかに賭けの要素があり、リスクを負わざるを得ない悪い点と言えます。比較的関連性の高い会社に転職した私ですら苦労しているのですから、これはどうしようもない事です。せめて面接の場でしっかりと仕事内容を擦り合わせるしかありません。

最後に、収入が下がってしまったことです。まあ、メンタル休職中なのに応募してきた人物に高年収を打診する企業なんてどこにもありませんけどね。

ただ、私の場合は給与の高さより安定性を重視しましたので特にこの点を致命的な問題とは思っていません。先述の通り前職企業では毎年業績の悪さを競うほど酷い経営状況でしたので、給料が前年より100万円も下がるということも実際に起こっていました。それに比べれば、一時的に年収が数十万円下がったとしても、より安定して収入を見通せる方が価値があります。

失われた30年の期間を通じて日本では、報酬の安定性よりも報酬の変動性と成果連動性を強化する方向に進み、実力をつけて成果を挙げて転職で年収アップを果たすという転職わらしべ長者物語も隆盛を誇りましたが、そのベースとなった成果主義の「成果」は実際には惨憺たるものです。私は「安定」を選択しましたが、年収ダウンを受け入れるのは誰にとっても容易だとは限らないことは理解しています。人間は得よりも損の方を重大視してしまうバイアスを持っているからです。ですが、何を「得」と定義し何を「損」だと定義するかは、転職エージェント会社でもマスメディアでもなく自分自身の仕事です。

ということで、転職先にも様々な構造問題やトラブルや突発的な大事件などがありながらも、一応はより良い未来のために頑張ろうという気持ちになれる環境ではあるというのは私にとっては大きいです。転職後も波瀾万丈だというのはこれまでの記事でもお伝えしてきた通りですが、それでも私は基本的には前向きな気持ちを保つことができています。本当に事件は職場で起きています。起こりすぎなくらい。

人間はあれもこれも手に持つことはできません。新たに何かを手にするために古い別の何かを手放すことが必要な場面もあります。この記事に書いた「良かった点」は私が新たに手にしたこと、「悪かった点」は私が手放したことです。この私の判断が誰にとっても良いものであるはずはありません。復職の方が良い場合もありますし、転職の方が良い場合もあります。当たり前です。ただ、総じて復職の方が安全度が高く、転職の方がハードルが高いのは間違いないでしょう。それでも転職によって状況をリセットできるメリットは大きいです。何でしょうね、この「リセット」という言葉の魅惑的な響きは。強烈です。ですが、それだけに焦らずに一つ一つ駒を進めてもらいたいと思います。

迷っている人はこの記事を参考にするだけでなく、ぜひ1人で抱え込まずに主治医に相談したり、リワークに通って相談するなどしてみたください。私たちは一人ではないのですから。

今回はここまでです。それでは次回も楽しみにしていてください!

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