花霞高校新聞部!【初夏の宝石】♯7
🍒前回🍒
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これが、ルビー。………なのか?
じつは見たことないからよくわからない。
それにすこし、ほこりっぽい。いや、ほこりじゃないか。土……かな?とにかく少し汚れてる。
それもそのはずか。盗まれたのは去年と言ってたし、きっとずっとここにあったのだろう。
まじまじ見つめるわたしに、ホロがひょいっとソレを投げてきた。まるでそのへんに転がっている小石を投げるみたいに軽々しく投げるから、少し引く。だって家宝というくらいなんだから、たぶんとっても高価なものなのに。とか言いながら、わたしは自分の着ている寝巻き用のTシャツで石を擦って拭いた。
「たぶん隠したのは、大槻さんだ」
ハシゴを降りながら、ホロがいった。
〝どうしてそう思うの?〟さっきまでずっとそれを気にしていたはずなのに、どうしたことだろう。自分の小汚いTシャツで擦ってびっくり。石がギラギラと輝き出して、そして月に照らしてまたびっくり。これが宝石か。おもわず深く納得してしまう。
そんな〝美しい石〟を目の前にしてしまったら、〝コソ泥犯〟のことなど、「今日◯時間しか寝てないんだ」という謎の報告くらい、いまはどうでもいい。
「ホロ、かぐや姫だよ」
「は?」
「この子」
「この子?…って、まさかその石のこと?」
わたしが頷くと、ホロは気持ち悪がった。なんでも擬人化するなよって。でもすこしは理解できるらしい。
「……竹から生まれたわけじゃないけどな」
月明かりに照らされて、ギラギラ輝く赤い石をじっと見つめながら、ホロが小さくいった。
「なぁミルク。俺が思うに大槻さんは、その石を憎んでる」
「憎んでるって………石を?」
さすがにそれは気になった。だって、石を憎む人なんているのだろうか。しかもこんなに綺麗な石を。
「それは変だよ、ホロ」
「あ?」
「だってさ、たとえばわたしが誰かに石を投げつけられたとするでしょう?」
「すごくありそうな例えだな」
「それでその石が頭に命中したりして、血が出てしまうとするよ?」
「あぁ」
「そしたらわたし、投げつけてきた人間を憎むよ。飛んできた石に対して、『きみを憎むっ』とは思わないよ」
ホロに一生懸命説明しながら、話し終えるころに気がついた。それはホロも同じだったみたい。
「じゃあ大槻さんが憎んでいるのは、その宝石にまつわる誰かってことになるな」
ホロが、カメラを構えた。そして話を続ける。「家族の誰かを憎むなんて、悲しいな」と。
カシャ。カシャ。カシャ。
ホロがシャッターを切る音だけが農園にひっそりと鳴り続け、わたしは〝かぐや姫〟を両手で抱きしめた。
「取材、やめよっか……?」
わたしの言葉に、ホロが小さく頷く。
「それがいいかも。本当に大槻さんが犯人だったら、なんか痛ましいよな」
「うん……。ていうかさ、なんでホロは大槻さんを犯人って思ったの?」
やっぱりそれ、気になった。「今日◯時間しか寝てないんだ」という謎の報告くらいどうでもいいとはもう思わない。
ホロが静かに話し始めた〝合宿前の大槻さんの様子〟について、耳を傾ける。
「合宿前、大槻さん、こう言ってたんだ。『さくらんぼは、上から取らないでくださいね』って。『高いところは危ないですから』って。何度も何度も、部長と部員に忠告してた。そしたら部長が言ったんだ。『もしミルクが合宿に来たら、きっと木に登って取るよ。あいつは木登りが趣味だから』って。そしたら彼女、すごく不安な顔をした。『でもミルク先輩って、来ないんですよね?美術部に移籍したんですよね?』って何度もおれに聞くんだ」
「だからあの日、美術室にきたの?」
「うん。おまえが来るのか来ないのかって、彼女があまりにもしつこくおれに聞くから」
なるほど、そっか。あの時わたしが彼女から特ダネの香りを感じ取ったのは、彼女がわたしを〝拒否〟する香りだったんだ。「木登り女、マジ勘弁」って思っていたのかもしれない。
でもさ、でもさ……。
「バスの中でも、お風呂の中でも、大槻さん、わたしに優しかったよ」
「うん、知ってる」
「だったらさ、ホロが言った理由だけで彼女を泥棒扱いするのはちょっと……」
「おい、人聞き悪いな」
「だ、だってそうじゃん。大槻さん、天使みたいに優しく微笑むよ。だからその天使みたいな優しさで、本当に高いところは危ないと思って『上には登らないで』と忠告したのかもしれないよ」
「いやおれもそう思ってたよ。家宝が盗まれたなんて知らなかったし。だけどここに来て、家宝はどこにあった?」
「それは……盗まれたって……」
「そうだろ?そして盗まれた家宝は木の上に括り付けられていた」
ホロの推理に黙っていたら、「ミルクにやたらとルビーの話しをしていたのもいま思えばおかしいよ」だって。〝さくらんぼ〟に興味が向かないために必死だったんじゃないか、とまで言われてしまった。
「でも、ここでの合宿を言い出したのは大槻さんなんでしょう?」
「それはそうだけど……って、おまえさっきから〝でも〟とか〝だって〟とかなに?そんなにおれを人を泥棒扱いするクズにしたいのか?」
「そ、そんなわけないじゃんっ。でもさ、辻褄が合わないことがあるのも確かだよね?だって本当に大槻さんが犯人だったら、わざわざここでの〝合宿〟を提案するのってリスクが高くない?」
ホロはむっとした。〝でも〟〝だって〟今の文章だけでまた2回使ったよって。〝でも〟、そういわれてもしょうがないよね。〝だって〟………って、ダメだこりゃ。
少し考えたあと、ごめんって謝った。
だってホロは、わたしのソウルメイトだ。だれよりも信頼してる。たとえ世界中でだれもがホロをクズだといって信じなくなったとしても、わたしはホロを信じる。
「大槻さんが、犯人だ。天使の顔した悪魔なんだっ」
「そこまで言ってないけど、そのルビーどうすんの?」
そうだね。どうしよう。こっそり持って帰ろうか、なんて〝魔〟が差しそうになったけど、「かぐや姫は月に返そう」わたしはそう言って、ホロは頷いた。
ホロがまたハシゴに登る。だからわたしは木に登った。せめてかぐや姫を雨風から守ってあげたくて、ポケットに入っていたアメ玉の包み紙(ゴミ)でそっと包んだ。そしてホロにヘアゴムを渡す。ホロはそのヘアゴムで、木にぎゅーっとくくりつけた。そして二人で名残惜しく木から降りようとしたとき、またとんでもないものを見つけてしまう。
木に括り付けられていたのは、宝石だけじゃない。
ガサッ。
わたしの後ろで、なにかが揺れた。
「ミ、ミルク………」
ホロがわたしの後ろを指さして、なぜかわたしは反射的に振り向いた。
二体の藁人形。
二体の藁人形が、まるでさくらんぼみたいに二人で一つ、月明かりに照らされて、ゆらゆらと吊し上げられていた。
「ぎゃ、ぎゃ————!!!」
おもわず叫び声を上げてしまってからわずか数秒後、農園にぱっと明かりがついた。
「泥棒だーーーー!!!」
だれかが叫んで、ホロと顔を見合わせた。
『ミルク騙しのミルク
ホロ苦のホロ
ついにブタ箱入り確定!
二人は語った「〝魔〟が差しました」』
来週の花霞高校新聞の見出しは、そんなところだろうか。怒り心頭の部長が激オコぷんぷんで記事を書く様子が脳裏に浮かんで、泣きたくなった。
🍒次回🍒
『白鳥池伝説の回』もよろしくお願いします🦢
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