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カッコいいことのユートピア/一日一微発見176

「価値」を生み出す仕事というのは、とてもやりがいのあることだ。でも僕は「物欲」はあまりない。価値あるものを所有しないと不安だ、ということはない。

その感覚は子供の頃からで、「不安」を埋めるために「買い物」で埋めてこなかったからだろう。モノをたくさん持つよりも、植物や動物を養育するように、ケアして共にいる方が好きだったのだと思う(人間嫌いではあるがw)。

自分のファッションに関しては、本当はエキセントリック志向だと思う。
でも「編集者」というポジションを20代の初めに選んでからは「透明人間」がいいと思うようになり、白黒モノトーンでいつも同じ種類のコムデギャルソンの服で統一していた。
それは、自分の格好が話題に上がらないようにするためのカモフラージュであった。

しかし年齢が進んだ今は、気分がオープンでプレイフルにどんどん戻っているので、これからはどんどんエキセントリックになっていくんだろう。

イギリスの貴族や老ガーデナーたちが皆エキセントリックなテイストがあるが、ああいうのは好みである。
ボロも平気、地味な色とピンク色を平気で合わせたりする。ある意味で最早ジェンダーレスだし。
日本の老境は、「渋み」「枯れ」だが、僕はきっと逆になるだろうな、と思う。
目指せ「奇矯」である。

コロナは世界的に見れば厄禍だが、反面、家にこもったり、自分を整理する重要な「時間」調整期だったと思う。

そんな中で、何故か「かっこいいこと」って何だろうということがよく脳裏をよぎる。

金の多い少ないはロマンにはならない。政治は幻滅。
AIが人間を超えるシンギュラリティという「おどし」も、もう聞き飽きた。
現代思想もアントロポセンも、もういいかな。
気まぐれとアナキズム。
いやダダか。

京都がやっぱり好きなのは、「乱世」を何度も潜って生き残った「かっこいい」ものがたくさんあるからだと思う。

「クールジャパン」とか「日本の文化の優位性」なんていう気分はダサくてて、やっぱり乱世のバッドな部分が転じて、美学やエレガンスを生むというセットになっていないと、エキサイティングじゃない。
傾いたり、奇矯じゃないとね。

最近1番かっこよかったのは、グッチのクリエイティブ・ディレクターであるアレッサンドロ・ミケーレが、ガス・ヴァン・サント監督と組んで作った7本のショートムービー『OUVERTURE of something that Never Ended』だった。

これは、コロナ感染広がるローマで1ヵ月にわたり撮影したもの。
コロナの一波の時に見たガリアーノとニック・ナイトによるマルジェラのムービーとともに、僕にとっての今年の「かっこいいランキング」の上位である。

もはやコロナを、ペストなどの疫病と同様なメタファーで言う風潮は沈静したが、マルジェラやグッチのムービーは、やはり歴史に残る『デカメロン』なのだと思う(『デカメロン』はペストから逃避した人々がストーリーをかたっている)。

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