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彼女が残した僕への手紙

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高校の時に1ヶ月だけ付き合った彼女。 記憶に残る彼女の姿は、いつだって明るい笑顔で溢れていた。 だから、信じられなかった。 彼女が死んでしまったなんて。 彼女が僕へ残した手紙の… もっと読む
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彼女が残した僕への手紙 第1話

彼女が残した僕への手紙 第1話

記憶の中にいる彼女は、いつだって明るい笑顔で溢れていた。

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僕には高校時代に付き合っていた女の子がいる。

名前は、藤咲舞。
同じクラスで、入学してからすぐに出来た彼女だ。
ただ、「付き合っていた」と言っても、たった一ヵ月。
キスをすることもなければ、手だって繋いだことも一回もない……まあ、そんな友達とは変わらない、ただ名ばかりの付き合いだった。

入学当初僕らのクラスの男

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彼女が残した僕への手紙 第2話

彼女が残した僕への手紙 第2話

※1話から読みたい人はこちら

次の日。
ちょっとドキドキしながら登校してきた僕は、足早に教室へ向かった。

今までは何気なく教室に入っていっていたのに、今日は入る前に少し躊躇う。
何だか違う場所に来たみたいで、変な感じ。
いつもつるんでいる男友達に挨拶をしながら、僕の目は藤咲さんの姿を探していた。
彼女はまた来てないようだ。

「なぁ、浅見。昨日藤咲さんにメールしたの?」

僕の席にやっ

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彼女が残した僕への手紙 第3話

彼女が残した僕への手紙 第3話

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藤咲さんとメールをし始めて2週間。
僕らは、放課後になると毎日のようにメールをした。

挨拶を交わす程度の関係が、今では休み時間や放課後の掃除の時によく話す間柄にまで発展した。
話す内容なんて本当に他愛もないことばかりで、中身がない話も多いけど、この時の僕らは“箸が転んでもおかしい年頃”。
何でもないことでも、大笑い出来たっけ。

話しかけてくれるのは、いつも藤咲さ

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彼女が残した僕への手紙 第4話

彼女が残した僕への手紙 第4話

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それから僕らが付き合い始めたのは2ヶ月が経ってから。
告白をしたのは、藤咲さんの方だった。

他の男子よりも話す回数は多かったから、もしかしてとは思っていたけど、まさか彼女の口から「好き」なんて言葉が聞けるとは思っていなかったから驚いた。

前日にメールで「放課後に駅の近くでちょっとだけ話せる?」と聞かれた時も、世間話をする程度に思っていたから余計に、だ。

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彼女が残した僕への手紙  第5話

彼女が残した僕への手紙  第5話

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「浅見くん?聞いてる?」

電話越しに聞こえるそんな声に、止まっていた思考がハッとする。
ぼんやりと話を聞きながら、僕の頭の中には10年前の藤咲さんの姿が浮かび上がっていた。

電話の相手は、同じ高校のクラスメイトだった本田さんだ。
それほど仲がよかった訳でもなかった彼女からの電話にも驚いたけど、それよりもその内容の方が衝撃的すぎて何を言ってるのか信じられなかっ

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彼女が残した僕への手紙 第6話

彼女が残した僕への手紙 第6話

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翌日、本田さんから聞いた場所に、真っ黒なスーツを着て向かった。

会場に着くと、そこには見知った顔が大勢いた。
高校のクラスメイト全員に連絡が回ったのだろう。
卒業以来会ってなかった連中もちらほらいて、声をかけられた。

「浅見!」

トイレに向かう途中、声のした方を振り返ってみると、田所とワッキーがいた。
当たり前だけど、2人とも僕と同じように黒いスーツ姿

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彼女が残した僕への手紙 第7話

彼女が残した僕への手紙 第7話

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あれからみんなと別れた後、家に帰ってすぐにスーツを脱ぎ捨てた。
堅苦しいというのもあるけど、何だかこれを1秒でも長く着たまま過ごしていたくなかった。

部屋着に着替えてベッドの縁に座りこむと、僕はテーブルの上に置いた白い封筒を手に取った。

『浅見隆弘様』

癖がなく、整った字が並んでいる。
彼女が書いた字を見たのは、高校以来だろうか。
授業中に先生に当てられて黒板

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彼女が残した僕への手紙 第8話

彼女が残した僕への手紙 第8話

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彼女のお葬式の翌日。
僕は連絡をとって、田所と会うことになった。

散々泣いてから考えてみても、やっぱりこの手紙の意味は分からなかったし、もしかしたら入れる手紙を間違えたのかという線も考えてみた。
とはいえ、封筒にはしっかりと“浅見隆弘様”と書かれていたし、自分の死後に渡す手紙を間違えたりはしないだろうというのが僕の見解だけれど。

何はともあれ、1人で考え

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