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【超短編】第14話 ドウタン

「なあ、同担って知ってる?」
「ドウタン?」

この店の名物、焼小籠包の熱さ加減を伺っていた野原が聞き返した。

「うん、同担」
「なにそれ?」

野原は思い切って小籠包を口に放り込んだが、やはり熱かったのか、すぐさまビールを流し込んだ。
高槻駅の近くにある脂ぎった中華料理屋で、いつものごとく俺と野原は飲んでいた。

「同じ担当と書いて、同担。今日、中学生の女の子の患者さんと世間話してたんやけど、好きなアイドルの話になってな、話の中で頻繁に出てくるのよ、ドウタン、ドウタンって。それで今のお前みたいな顔してその子に聞き返したんやけどな。どうも、同じアイドルを応援するファン同士のことを同担と言うらしい」
「はーん、同じアイドルの担当ってことか。しょーもな、マネージャー気取りか」

野原は明らかに俺の話に興味がなさそうだった。が、俺は続ける。

「でな、同担は意気投合するよりもライバル視しちゃうことが多いらしくて、それを同担拒否というらしい。その子もそれで友達とトラブったんやって」

俺は残っていたザーサイを食べて、レモンサワーを飲んだ。

「ますますアホらしいな」
「最近、握手会とか、ハイタッチ会とか、身近を売りにしてるアイドルが多いやろ?それで独占欲が強くなってまうんかな」
「業界の思うツボや」
「まあ、彼女らが幸せやったらええんかもしれんけど。あとな、同じような意味でリアコっていうのもあるって教えてもらった」
「リアコ?」

ふたつめの小籠包は適温だったようだ。野原の様子を確認して、俺も小籠包を食べた。安定のうまさだ。

「リアルに恋してる、の略らしい」
「ああ、それでリアコね」
「で、自分でも調べたんやけど、身近な男性に対してはリアコとは言わないらしい。あくまで、アイドルとか、漫画のキャラとか、そういう存在に対する恋心をリアコと言うらしい」
「謎の掟やな」
「そやねん。その子と話してて、これがジェネレーションギャップやなって、急激に自分の老いを実感したわ」
「いやまあ、言葉としてはそうやけど、やってることは俺らの若い頃の女たちと一緒やろ」
「うーん、まあ、そうかもな」

小籠包はあっという間になくなり、俺たちは近くを歩いていたおばちゃんに追加を注文した。おばちゃんが母国語で厨房へ叫んだ。

「つまり、宗教戦争は神にリアコした人たちの同担拒否ってことか」

「・・・お前、ほんとそういうの好きよな」

野原があきれたようにぼやいてビールを飲み干し、おばちゃんを探した。
俺もレモンサワーのグラスを空にして、次はハイボールで熱々の小籠包を待つことに決めた。

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