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【超短編】第5話 夜明け前

空が白む頃、僕は目を覚ます。
時計は確認するまでもない。まだ眠っていてもいい。
けど、いつまでもというわけにもいかない。
頭の中にはまだ昨夜の酒が少し残っていて、口の中もカラカラだ。

隣には君が眠っている。
昨夜はなにもなかった。仕事のせいとか、年齢のせいとか、お酒のせいだと思っている。

僕は君のお腹のあたりにそっと手を触れる。
夜明けの彼女の肌はいつもよりも柔らかくて、あたたかい。気がする。

僕は彼女の胸に手をあてる。
彼女がこちらの世界へ戻ってくるのを感じる。
申し訳ない気持ちもあるが、愛おしいのだからしかたない。

彼女は目を開けずに、こちらに身をよじり、腕を僕の背中へ絡める。
僕たちは目を閉じたままお互いの乾いた唇を重ねる。
舌を絡めないのは、彼女の口の中もカラカラだからかもしれない。

そして僕は彼女を抱く。
夜じゃなくてごめんね、とか思いながら。

そして、僕たちはまた眠りに落ちる。一段と心地よい眠りに。

東の空はほんのりと紅潮していることだろう。

けど、まだもう少しいいでしょう?

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