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[ミュージカル感想] ファントム比べ

 2019年雪組、望海風斗・真彩希帆ペア、中村一徳演出のファントム(以降「宝塚版」)と、配信のおかげで海外からも観ることができた城田優演出&2役の2023年ファントム(以降「城田版」※加藤和樹ファントム、城田優シャンドン伯爵)について、1993年のアメリカ版音源も仕入れて、良いところ・好きなところ、感じたテーマの違いをノーソースで勝手に考察しています。とにかくファントム好きだわ、という話です。

宝塚版の感想

 演出が音楽との相乗効果が強いこと、衣装の豪華さも相まって全シーン重厚感があり、視覚・聴覚的な訴求力のバランスがよい。冒頭はトップスターがどーんと出る宝塚ならではを感じるもので(それも好きでたまらない)、後日談ありのラストも、キーパーソンのシャンドンにもスポットライトが当たるので満足感がある。My Home、シャンドンに先越されてショックなエリックのシーン、の作り方は特に絵画的でうっとりする。細かいところでは、ビストロのところのクリスティーヌの衣装が、いかにもエリックの好みっぽさがある夢夢しさにやける。ピクニックのシーンは、城田版のリアルと、宝塚版の半分幻想入った楽園の画と、かなりの違いがあったけれども甲乙つけがたい。どっちもとことん悲しくさせる。

城田版の感想

 舞台の作り方がかなりシンプルに感じた。エリックの極端な行動やジェラルドとエリックのやり取りのシーンの凄みのように、リアリティが生きる部分もあったものの、衣装や音楽とのバランスがちょっと残念に感じるところも。ファントムでオペラ座大騒ぎシーン、ビストロのシーン、ピクニックのシーンは特に。バックダンサーとかライティングって音楽の効果を上げるのに重要だと改めて感じたところがある(衣装豪華なままでセットはとことん抽象的にするという手もありなのかしら…)。ただ、どうしてもラストは盤回さないでほしかったです。
 とはいえ、宝塚版だと雰囲気に流されてスルーしがちな違和感(地下墓地設定・闇で生まれた設定を忘れる豪華な居住エリア、美しすぎる従者たち、クライマックスで身バレなど)がない点、以下に述べるおそらく原作のテーマがより浮かび上がったことから、ファントムのストーリー自体の強さを改めて知ることができたように思う。

テーマについて思ったこと

 城田版でそのカギになったのはおそらくセリフと訳詞の宝塚版との違い。1993年のアメリカ版のCDを聞いている限り、元に忠実なのはこちらで、宝塚版のほうがオリジナル入っているように思われる。城田版で一層ファントムが好きになったのは、登場人物の「美しさ」への憧憬という共通点が浮かび上がったところにある。

 エリックは天使の歌声含めて美は母であり、手に入れたら離すまい、美しくないものは破壊すべきという過激派(自分への呪いに由来する)からの成長がある。シャンドンは確かな審美眼を自負し、財力で容易に収集してきたところ、ついに身を投じるほど本当に恋する美に出会ったが手に入れられない(シャンドン好きだわ)。そういえばエリックすらひるませるシャンドンの発光は、内から染み出る本物だったんだろうな。ジェラルドは追い求めずして美に囲まれて生きてきたものの、自分自身とエリックの顔の醜さを目の当たりにする。
 新しく気づいたのは、カルロッタもオペラ座という美を手にいれることに人生をかけており、自分がそのトップであることで自身の美を認められると信じている、そのためなら何でもするという立ち位置。そうなると、ショレにとってはカルロッタが全てであり彼にとっての美の基準(唯一クリスティーヌに心動かされない人)。
 そうすると、自らの声の美しさに無自覚で、シャンドンの財力とルックスには目もくれず(ただ内面を評価する)、エリックの心を見抜いて愛する、が、仮面の下を見てひるんでしまう、そんなクリスティーヌをめぐる物語として、「美しさとはなにか」という問いが見えてくるように感じられる。個人的には、親子愛、というより、美に呪われる・救われる、という構造がファントムの骨格なのかもなあと。歌のレッスンがしっかりめに描かれるのも、その美の追求というモチーフの一つだからかもしれない。
 宝塚版のほうが、ベラドーナとクリスティーヌをより重ね合わせる描き方が強かったことからも、「真実の愛」がテーマに置かれている印象。ただ、顔見せてー熱唱からの逃亡は、クリスティーヌが母でないことを決定付けるもので、エリックを目覚めさせたきっかけともいえる。
 「真実の愛」も内面の美の追求、と無理やり解釈することもできるかもしれないけれども、むしろ愛があるから内面の美を見つめることができる、どっちが先か問題なような気もしてきた。

 

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