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蟹工船(小林多喜二)読書感想文

 ロシアに勝つために!
 国を豊かにするために!
 兵隊さんはもっと大変な思いをしているんだぞ!

 そう、権力側の人間は、常に人の良心を利用する。400人もの工員が働く蟹工船。そこで船長以上の権力を振りかざして暴虐の限りを尽くす“監督”の浅川。同じ会社の船が救助を求めてきても無視。工員が病気になろうが、怪我をしようが、そして死んでしまおうが、全く意にも介さない。
 当初は大人しく従っていた工員たちだが、「このままでは死んでしまう」と反旗を翻す。しかし、それを事前に察知していた浅川は、警護にあたっていた海軍の哨戒船に工員鎮圧を求めていたのだった……。
 読んでいて、こめかみがピクピクしてくるほど腹が立った。戦時中という国家の存亡がかかった状況では、日本各地でこういった不条理な出来事が起こっていたのだろうと想像できる。そして冒頭に上げたように、そこで振りかざされるスローガンは、「国のために!」「皆のために!」という一見良心的に思えるような言葉ばかり。コロナ騒ぎでもそんなことばかりだったことを考えると、本当に全く悲しいくらいに日本人というのは反省をしていなくて、当然進歩もしていないんだなあ、残念な気持ちになった。
 崇高な理念を掲げて全体を統治しようとするという意味では、ディストピア小説ともとれると思う。短編ではあるものの、深~く考えさせられる作品。
 あと、海の描写が生々しい。私は以前、ほんのワンシーズンだけだが北海道でイカ漁の船に乗っていたことがある。荒波にもまれるシーンや、大時化が近づいてくる空気感の描写などは、実際に船に乗っていた時のことを思い出して、気持ち悪くなるくらいだった。
 
 もう一つの作品「党員生活者」も面白かった。世の中をよくしようとしていた、いわゆる「赤」な人達の想いが伝わってきた。
 現在、(日本の)共産党というと、頭でっかちなだけで根本的な思想が全く見えなくて、存在意義がよく分からない政党になってしまっているが、この頃の「党員生活者」たちは、強欲な資本家から労働者を救い出そうという崇高な理念があったのだということがよく分かる。心から日本のことを思っていたんだな、と。
 こちらの作品もやはり全体主義との闘いがテーマの一つとなっているので、ディストピア感が少なからず漂っている。十分名作ではあるものの、もっともっと世に広がってもいい作品だと思う(両方ともね)。
 ちなみに、笠原(私と同姓)という女性が出てくるので、余計に作品内に入り込むことができました。

 蟹工船、党員生活者、どちらも良かった!!

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