(2)家出に大きなリスクはない

家出というと、「やくざにダマされて被害に遭っている子も多いはずだ」と思い込んでいる人も少なからずいるでしょう。

内閣府は、「平成30年版 子供・若者白書」で警察庁の「少年の補導及び保護の概況」を引用する形で、福祉犯の検挙人員と暴力団の関与の資料(平成28年)を公開し、福祉犯の検挙人員の3.1%が暴力団等関係者だと明かしています。

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「福祉犯被害少年(法令別)における家出少年の推移」を見ると、2016年に犯罪の被害に遭った未成年の家出人は、被害者全体の中で5.2%しかいません。

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そこで、家出後に暴力団に関与する確率を出してみましょう。

0.031×0.052×100=0.16%(※小数点第2位以下切り捨て)。

こんな超レアケースを気にするのは、まったくの杞憂です。

ちなみに、児童相談所に保護されて児童養護施設に送られ、施設で職員に虐待された子どもの割合は0.20%(平成28年/2016年)。また、里親・ファミリーホームで虐待された子どもの割合は0.19%(平成29年/2017年)。

 国内に約2000万人いるすべての未成年(0~19歳)のうち、虐待などの諸事情によって社会的養護を必要とした子どもの割合は0.21%(平成30年/2018年)。

つまり、子どもが深刻な被害に遭うリスクは、施設でも里親でも一般家庭でも家の外でも、さほど変わらないのです。


「家出」とひとくくりにするのは大人のひとりよがり


警察では、行方不明者届(※昔の家出人捜索願)を家出人の親族や監護者、福祉関係者などから受理します。

でも、警察は、刑事事件が起きた後の捜査機関。

小さい子が目を離したすきに森ではぐれたとか、殺人や詐欺などに巻き込まれた可能性が高いとか、家族に「家出します」という書き置きを残していなかった場合に限り、職務を遂行するのです。

もちろん、遺書を残して自殺のおそれがある者や精神障害者、危険物の携帯者などで、自傷他害のおそれのある者は「特異家出人」と呼ばれ、緊急性が高いと判断されて捜索されることもあります。

その他の家出人は、基本的に捜索されません。

だから、民間の探偵が商売として成り立つわけですが、そもそも子どもが家族に許可を求めずに家を飛び出すことを「家出」とひとくくりに呼びたがるのは、子どもの言い分を度外視した大人のひとりよがりではないでしょうか?

筆者は、自殺や家出、虐待や家族に関する本を執筆・編集しています。

そのため、家族関係で悩んでいる10代から相談メールが届きます。

そのほかにも、深夜の町で声をかけた未成年から相談される経歴も30年ほどになります。

そうした相談内容を基に、「家族の許可を求めずに家を飛び出した未成年」の動機を区別すると、以下のようにそれぞれ異なっています。

1.深夜徘徊
 深夜にクラブや飲食店に出入りし、朝帰りする。それが楽しいからやっているだけなのに、条例で夜10時以降にファミレスやカラオケ店などに入れないため、警察に補導されかねない不安から、年齢詐称をしても夜遊びをくり返すことも。

2.自殺・心中
 死にたくて家を出たものの、勇気がなくて自殺できずに帰宅したり、心中相手のはずだった人と合意に至らず、失敗するケースも少なくない。ただし、2017年に神奈川県で起こった座間9遺体事件のように、自殺でなく、殺されるケースもある。

3.自分探しの旅
 家庭や学校より広い世界が知りたくて、遠方へヒッチハイクやバイクなどで出かけるもの。家族に許可されないのがわかっているので、あえて言わずに家を飛び出し、家の外のスリルを楽しもうとする。

4.漂流(プチ家出)
 親から虐待される日々に耐えられなかったり、家にいると息が詰まる感覚があるため、憂さ晴らしでしばらく家を空けては戻ることをくり返す。虐待されていることに無自覚だったり、児相の存在を誰からも教えられていないため、福祉制度は利用しない。

 家や学校で演じる「大人にとっての都合の良い子」の自分に疲れてきっているため、誰の子どもでもなく、どこの生徒でもない「誰でもない自分」になりたくて、あてもなく街を歩いたり、売春で宿泊費や交通費を稼いだり、知らない人の家を転々とすることも。

5.家出
 家族が虐待や支配によって自分の心身や命、将来に危険や不安をもたらしていることを自覚したため、自衛のために家族の知らない安全な生活拠点へ引っ越すこと。恐ろしい家に二度と帰りたくないので、親バレやリスクのある行動を避け、なるだけ早く定住先と定職を得て、一刻も早く生活の安定をはかろうとする。

 こうして未成年が家を出る動機を見てみると、1~4が家出の実態からは遠く、「家出」と呼ぶには無理があることがわかります。

家族の許可なしに家を飛び出しただけでは、ただの無断外出にすぎません。

警察や内閣府が、家出人のほとんどが犯罪被害とは無縁に生きている現実を示しているのです。

現実は、親や大人の不安どおりではないのです。


家出は自分の暮らしと心身を守る生存戦略


他方、家出できない子についても知ってください。

日本は他国と比べて若者の自殺率が高いが、全年齢でいえば、過去10年間で1万人ほど自殺者数を減らしてきました。

それなのに、人口10万人あたりの自殺者数を表す自殺死亡率は、19歳以下の未成年の場合、5%前後で推移し、あい変わらず高いままです(※実数は年間500~600人程度)。

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遺書等の自殺を裏付ける資料で明らかに推定できた原因・動機を自殺者一人につき3つまで計上可能とした統計「平成30年中における自殺の状況」を見ると、19歳以下では学校問題(188人)、健康問題(119人)、家庭問題(116人)が上位を占めています。

 しかも、自殺者全体のうち、無職者(※成人を含む)を見ると、学年が上がるにつれて自殺者数も増えていました。

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学校や家庭での暮らしに疲れ、心身の健康を害する若い世代の苦しみが、大人によって放置されている現実がうかがい知れます。

2019年3月、厚労省が2017年の人口動態統計を発表し、戦後初めて日本人の10歳から14歳までの死因で自殺が1位になっていたことが話題になりました。

2016年における死因順位別にみた統計でも、15歳から39歳までの死因1位は自殺でした。

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学校内のストレスなら、親が不登校に寛容になれば、軽減できるかもしれません。

しかし、子どもを虐待する親や、子どもの切実な訴えを聞かない親なら、家庭は子どもが安心して生きられる居場所ではなくなります。

しかも、父親から性的虐待を受けても無罪になる判決をネットで目にすれば、同じ目に遭っている子は、家にい続けることに絶望を感じてしまうでしょろう。

子どもがそうした家庭環境に苦しみ、疲れ果て、死を選んでしまう前に、経済的に自立できる自立の方法とその覚悟を教えるチャンスがあってもいいのではないでしょうか? 

そして、家出の現実を知らないまま怖がる前に、子どもも大人も現実の家出人から話を聞くチャンスを増やしてもいいのでは?

2018年、筆者は筑波大生が企画した児童虐待防止イベントに招かれ、講演しました。

その話を聞いた大学生・山口和紀さんは、2019年に『100人の体験記 大学生版 家出マニュアル』というプロジェクトを立ち上げ、公募した体験記を次々にnoteで公開し始めました。

18~19歳の未成年は、虐待されても児童相談所でほぼ保護されないからです。

では、18歳未満なら、虐待通告で児相に保護されていると思いますか?

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一時保護所とは、児童福祉法第12条の4に基づいて、児童相談所に付設、もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置され、虐待・置去り・非行などの理由で子どもを一時的に保護するための施設です。

厚労省によると、2017年4月1日時点で全国に136か所に設置されています。

2016年度に全国の児童相談所へ寄せられた虐待相談件数は、12万2575件(実数)でしたが、そのうち一時保護された件数は2万175件(※児童虐待を要因として一時保護したが、年度中に一時保護を解除した延べ件数)。

虐待通告があっても、虐待の程度や事情などはさまざまであり、虐待されている子どもが全員保護されるわけではないのです。

2016年度では、保護されないケースが8割強でした。

筆者は、学校や家庭では教えてくれない自立の方法を教え、10代の生活力を準備させたいっと考えます。それが、家にいられなくなった時にやけを起こさず、自分の暮らしと心身を守る生存戦略だからです。

『完全家出マニュアル』1999年版を先着10名に販売

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