日本のジャージャー麺はどこから来たのか

北京に行った時に、本場のジャージャー麺を食べてみたところ、日本で食べるジャージャー麺とは全く別物でした。

注文すると、うどんのような白くて太い麺にはきゅうりと赤カブのスライスが乗っており、その他に刻んだ薬味、甜麺醤、にんにく醤油が入った小皿が運ばれてきて、自分で混ぜていただきます。日本のようなひき肉入りのあんかけではなく、肉といえば甜麺醤の中に刻んだチャーシューのようなものが少量紛れているくらい。決してごちそうではない、お茶漬け感覚の素朴な食べ物でした。

これと味がそっくりのは、「盛岡じゃじゃ麺」です。水気が少なく塩分の強い味噌と薬味をうどんのような麺に絡めて食べるところまでは中国と同じですが、〆に卵と茹で汁を入れてチータンタンと呼ばれるスープにする、という独自の進化も遂げています。盛岡じゃじゃ麺、東京にも店舗があるので、興味のある方は検索してみてください。しょうがを混ぜていただくのが定番ですが、私はニンニクやラー油を入れてジャンクフード風にして食べるのも好きです。

では、日本の中華料理屋で定番の、あんかけ風ジャージャー麺は一体誰が考えたのでしょうか?
もしも、名もなき料理人のアレンジだとしたら、全国に多数の流派が混在してもおかしくないはずです。実際は、どこに行っても同じようなジャージャー麺が出てくるので、共通の元ネタがあったと考えた方が自然です。

真っ先に疑うのは、陳建民です。なにしろ日本のメジャーな中華料理の多くを考えた人ですから。担々麺をごまスープにしたのも、回鍋肉にキャベツを入れたのも、日本風の麻婆豆腐も青椒肉絲も彼のアイディアです。ジャージャー麺だって…。

と思ったのですが、図書館で陳建民の古いレシピを調べてみても、ジャージャー麺は出てきませんでした。四川省出身の彼にとって、ジャージャー麺は身近な食べ物ではなかったのかもしれません。ごめんなさい陳さん、濡れ衣でした。

もう一つの可能性は、別の国や地域を経由して伝わったのではないか?という説です。
実際、韓国、香港、台湾では、独自のジャージャー麺が食べられています。

韓国ではジャジャンミョンと呼ばれ、国民食と言って良いほどの人気です。4月14日をブラックデーと定め、恋人がいない男女がジャジャンミョンを食べるのが定番にもなっています。

チャンポン(長崎チャンポンにコチュジャンを入れたような麺料理)と並んで「韓国式中華料理」の代表格とされており、私が食べたのは横浜のソープ街、福富町のお店でしたが、色は炭のように真っ黒で、ドロドロに煮込んで熟成された、濃厚なあんがかかっていました。チュンジャンという韓国の甜麺醤を使っているので、風味も微妙に違います。
本場中国と同様、うどん(ただし韓国の弾力のある麺)で作られますが、インスタント揚げ麺が大好きな国なので、インスタント製品も多く発売されています。

また、香港にもジャージャー麺があります。挽肉ではなく青椒肉絲のような細く切った肉で、香港らしくややピリ辛に仕上げて、パクチーが添えてあることもあります。

台湾のジャージャー麺は見た目は日本のジャージャー麺とかなり近いのですが、具に豆腐が入っていたり、味付けも八角やにんにくを効かせた台湾風になっていることが多いです。

韓国、香港、台湾風とも、塩辛い中国のジャージャー麺に比べて甘みが強く、具材と肉をあらかじめ合わせてとろみをつけたあんかけ状にしているという点で、日本のジャージャー麺とよく似ています。

3つのうちどれが日本のジャージャー麺の直接のルーツなのかは、現時点の調査では分かりませんでした。しかし、中国内陸部のジャージャー麺が、いずれかの国・地域に伝わる過程で「あんかけ式」に変化して、それが後に日本に伝わったことは間違いないでしょう。

一方、中国内陸部の料理人が直接伝えたのが盛岡じゃじゃ麺なのだと思います。もともと同じ料理が、伝わるルートが違うと違う料理になってしまうなんて、伝言ゲームみたいで面白いですね。

・インスタントの韓国ジャジャン麺

・「韓国式中華料理 龍」のジャジャン飯。(ジャジャン麺のあんをごはんにかけたもの。卵焼きがついているのは釜山風らしいです)


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