地上波で放送できなくなった映画を淡々と紹介するよ

「今後おそらく地上波では放送できないであろう映画」が数十作規模で生じてしまった今日この頃。

犯罪はもちろん決して許されないことです。きちんと司法の裁きを受けて、一生かけて償うべきだと思います。

ただ、作品はけっして個人で作ったものではなく、大勢の出演者やスタッフの努力と才能の結晶です。1人のためにその価値がなくなってしまうとは思いません。
中でも、一般にはそれほど有名でなく、このまま世の中から黙殺されて消えてしまうにはあまりにも惜しいと作品を、私なりに紹介したいと思います。

● 愛の渦

たった一晩の乱交パーティーの間に目まぐるしく変化していく人間関係を描いた作品。監督は「娼年」の三浦大輔。

こういう、ワンセットものの映画って、「旧友の命日に集まった同級生たちが会話しているうちに、徐々に真の死因が明らかに…」みたいなワンパターンに陥りがちじゃないですか。私は「キサラギ方式」って呼んでるんですけど。

愛の渦のすごいところは、そのパターンに全く当てはまらず、話がずっと前を向いて進んでいくところなんです。
前を向いているのって難しいんですよ。なぜなら前を向くと常にキャラクターの「顔」の変化が客席から見えてしまうから。でも、演技派の役者ばかりなので心配要りません。

池松くんは初めて寝た女に執着する気持ち悪い童貞を演じきっているし、門脇麦は1秒ごとにエロくなっていくし、「とある俳優」は、セックスの話をする時は心底楽しそうなのにそれ以外の話題が出ると途端に不機嫌になる、脳みそに睾丸が詰まってる感じの演技が見事でした。まあ、演技ではなかったのかもしれませんが。

ちなみにこれ、18禁なのでもともと地上波無理だった! 単に好きな映画を紹介しただけだったよ!

● エミアビのはじまりとはじまり

感動巨編でも大どんでん返しでもない、世界の存亡とは1ミリも関係ないところで起こった小さな奇跡の話です。監督は「舟を編む」の脚本などを担当した渡辺謙作さん。

奇跡というのは起こして良い時と、起こしてはいけない時があるんですよ。
たとえば、1つの物語の中で、奇跡は1回しか起きてはいけないことになっています。

ところが、この映画の中では「とある俳優」が、禁断の2回目の奇跡を起こしてしまう場面があるのです。
結局それは本当の奇跡ではなかったことが後に明らかになるのですが、そのタブー破りをきっかけに少しずつ話が動いていきます。

そして最終的に、もしかして奇跡というのは、人が生きていることや、人と出会ったり好きになったりすること、そのものを指す言葉ではないのか?と気づかされるわけですが、その部分は映画では直接描かれていません。描かれているのは、楽しそうに下ネタを連発する芸人の生き様だけです。

だから私たちも安心して、彼らがスベったときは金だらいを上からガンガン落としましょう。いつかその金だらいは自分の目の前に落ちてきて、忘れた頃に急に泣きたくなるんです。

● 葛城事件

モラハラ父、料理をしない母、対人恐怖症の兄、凶悪犯罪者の弟という機能不全家族を、消し忘れたコーヒーサーバーの中で半日煮込んだような絶望的な家庭が舞台です。

監督は「その夜の侍」の赤堀雅秋さん。ダメ人間を描くのが大得意な方ですよ。ダメ人間を描くのが大得意な方ですってよ(2回言った)

食事のシーンが印象に残る映画は数多くありますが、「逆の意味で」食事シーンでここまで心の傷に残るような体験したのは初めてです。

生きるための最も基本である食事がつらいというのは、生きること自体がつらいということ。
でも、人間って不思議なもので、それでも「生きよう」という気持ちの残滓が感じられるのです。沼に沈んだ人が、最後に水底を蹴って上昇を試みようとするくらいの微かな希望。その蹴る音を聴くために、2時間ひたすら沈んでいくという修行のような映画体験をした甲斐はありました。

● 松ヶ根乱射事件

監督は、「リンダリンダリンダ」「山田孝之の北区赤羽」などの山下敦弘。日本のアキ・カウリスマキとも言われる、オフビートな作風で有名です。そしてダメ人間を描くのが大得意です。ダメ人間を描くのが大得意な方です(また2回言った)

山本浩司さんのキャラクターに頼りすぎ感があった初期3部作と違って、要所要所に引き算を効かせた演出で精緻に仕上がっています。

閉塞的な田舎の街で、周囲にいるのはダメな奴ばかり。そんな中で唯一まともなように見えるのに、実のところ誰よりも心の闇を抱えていた、そんな難しい役を、実際に心の闇を抱えていたらしい、とある俳優が見事に演じていました。

最後の10秒でタイトルの意味が分かった時、悪いと思いながらも爽快感を覚えてしまうはず。あなた方の中で、爽快感を覚えなかった者だけがその俳優に石を投げなさい、という山下監督の強いメッセージを感じますね! 12年前の作品なので一切関係ないですけどね!

● 俳優 亀岡拓次

「ウルトラミラクルラブストーリー」や「バイプレイヤーズ」の横浜聡子監督。

一言で言えば、「何事も起こらない」作品なんです。ちょっと才能のある脇役俳優が、ちょっとだけ新しいことに挑戦して、でも所詮脇役なのでちょっとだけ評価されただけで終わって、そんなこととは関係なくちょっとだけ恋をして、ちょっとだけ失恋する。

荻上直子監督とか井口奈己監督もそうなんですけど、日本の女流監督って、「何もない」を描くのが上手い人が多い印象です。
本当はそこには何もないわけではなくて、少なくとも空気がある。空気がなかったら、私たちは生きていけないというのに。
殺人事件や不治の病やヤクザの抗争も良いけれど、たまには2時間、「空気」を吸ってみませんか?

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