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漫画原作を書くために読むべきたったの3冊+α

プロとしてけっこうキャリアは長くなってしまったがゆえに、つい手癖で原作を書いてしまいがちなわたくし・猪原賽。
ちょっと基本に立ち返ってマンガや脚本の指南書を読み、今さら「そうだったのか!」と気づくことや、逆に「俺は正しかった」と自信を取り戻したりすることがあったので、これから「漫画原作者になりたい!」「マンガ家になりたい!」という方に、ぜひおすすめしたい3冊を紹介します。

もちろん、小説や映像脚本にも関わるお話。創作全般にきっと役に立つと思いますよ。

メジャーのノウハウを学ぶ「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」

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ブレイク・スナイダー著「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」は、実際にハリウッドで活躍した脚本家、ブレイク・スナイダーさんが書いた脚本指南書。
ちょっと脚本を学ぼうとした事がある方は、既に読んでいたり、その技術論を知っているかもしれませんね。

10年前の本なんですが、今でもAmazon映画部門ランキングトップ10に入っている、映画脚本術の基本中の基本と言えるかも。

1本の映画脚本は「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」と呼ばれる「3幕構成・15ビート」のテンプレに分解でき、その分量もすべて決まっているという彼の脚本術は、それが蔓延するがゆえに最近のハリウッド映画はどれも同じ……という批判も浴びている部分もありますが、彼の場合は「売れる」(それは映画の興行収入的にも、脚本そのものが高く売れるという意味でも)エンターテイメントに徹している分、非常に冷静な創作スタイルと言えます。

同じものだけど…ちがった奴をくれ!」というパワーワードは、ハリウッドの映画会社の体質を皮肉った言葉でもあり、結局大多数の観客はこういうものを求めているという達観した言葉でもあります。

また、スナイダーさんが考える映画のジャンルとは、スポーツや恋愛、アクションという一般的なジャンル分けではなく、

・家の中のモンスター(例・『ジョーズ』)
・金の羊毛(例・『スター・ウォーズ』)
・魔法のランプ(例『ライアー・ライアー』)
・難題に直面した平凡な奴(例・『ダイ・ハード』)
・人生の節目(例・『普通の人々』)
・バディとの友情(例・『レインマン』)
・なぜやったのか?(例・『JFK』)
・バカの勝利(例・『フォレスト・ガンプ/一期一会』)
・組織の中で(例・『ゴッドファーザー』)
・スーパーヒーロー(例・『グラディエーター』)

という10のジャンル。
スポーツや恋愛などのジャンル分けは、あくまで観客の立場。脚本家の立場であれば、物語の構造によって、テーマは10個に絞られるというのが上の10ジャンルです。

特に注目したいのは、「バディとの友情」。
「《バディとの友情》といってもバディの仮面をはがせばラブストーリー」というのが、スナイダーさんの語るバディもの、恋愛ものの真実。
ここを読んで、私は日本の漫画原作者として「そうだよね!」と納得し、思わず手を打ちました。 

最初〈バディ〉はお互いを嫌っているが、旅をしていくうちに相手の存在が必要で、二人そろって初めて一つの完結した存在になることがわかってくる。
ラブストーリーとはセックスの可能性がプラスされた《バディとの友情》映画だということだ。

(少年マンガにおける熱い友情を、BLの文脈で語る女子読者層があって当然なのだ。だってバディものもラブストーリーも、実は構造が同じなんだから!)

また、この脚本術はなかなか読者の脚本執筆に取り掛からせてくれません。

「どんな映画なの?」という質問に一行ですばやく、簡潔に、独創的に答える――ログライン
「どんな映画なのか」をきちんとあらわす――タイトル
その映画の中でぴったりな――主人公

この3つが決まってから、ようやく脚本執筆らしい作業に取りかかれと彼は言います。

実はこれ、私が普段使っている漫画原作企画書にも通じるものがあり、さらにそれを「ハリウッド映画」というメジャーな環境に合わせて先鋭化させたものと言えます。
(俺のやってきたことは間違ってなかった!という気づきは、この辺りから得ました。)

私は今年の正月に「漫画原作の企画書の書き方」をnoteにアップしました。
こちらでも私が常に気をつけていることは、

・概要(一行で内容を伝えられるキャプション)
・三行あらすじ(三幕構成のストーリー)
・キャラクターテーマ(物語の最初と最後で主人公に起こる《変化》)

と、わりと「SAVE THE CATの法則」に則ったプレゼンの仕方をお伝えできていたんじゃないでしょうか。

とはいえ、ものはあくまでハリウッドメジャー映画の話。メジャーな脚本はこうした技術で作られているということを知った上で――
初心者が漫画の原作やマンガをかくために、漫画原作のプロがオススメする2冊目の本は……

キャラクター造形を学ぶ「売れる作家の全技術」

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「新宿鮫」シリーズでおなじみ、大沢在昌さんの「小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない」。
漫画の原作だって言っているのに、今度は小説の指南書です。

もともとは大沢さんが1年間、実際に作家志望者を集めて行った全12回の小説講座を1冊の本にまとめたもので、聴講生との質疑応答や、実際聴講生が書いた課題作を講評する形をとられており、より実践的に小説論が語られています。

漫画原作や、マンガをかくにあたって、特に参考になるのは、
「第三回 強いキャラクターの作り方」
「第五回 プロットの作り方」
「第六回 小説には『トゲ』が必要だ」
あたりでしょうか。

大沢さんが言うには、

・面白い小説というのは、キャラクターとストーリーが有機的にうまくつながっている作品
・ストーリーを支えるのはキャラクター
・小説というのは、ストーリーの進行によってキャラクターに変化を生じさせるもの
・この変化の過程に読者は感情移入する

……ほらね。マンガも同じです。
「売れる作家の全技術」では、このキャラクターの造形の仕方がふんだんに語られています。

「SAVE THE CATの法則」で、物語のログラインと主人公をかっちり決め、物語の構造を「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」で構成する。
次に「売れる作家の全技術」で、その物語を支え進行させる主人公やヒロイン、敵などのキャラクターを、日本のエンタメ的にふくらませる。

これでだいぶ、あなたの描きたい物語が整うんじゃないかと思います。
でもまだ、それでもマンガの話ではない。そこで最後に……

マンガに特化し学ぶ「カタルシスプラン」

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漫画家の樹崎聖さんの「カタルシスプラン 面白いと確信して描ける漫画演出」は、以前私はブログで書評を書きました。

詳しい内容は買って読むことをオススメしますが、章立てを紹介すると……
・魅力で考えるキャラクター論
・自分を活かすキャラクター創作
・キャラに入り込ませるコマ割り
などなど。長年第一線で活躍する一方、打ち切りの憂き目に遭った経験もあるプロマンガ家さんだからこその、実例や実体験、そして作家仲間の証言などで、わかりやすく丁寧に論じられています。
特に私が目ウロコだった言葉は、
・「起承転結」は時代に合わない
・少年マンガの主人公は成長しない

の2点。

漫画家が漫画家志望者に伝える漫画論。
その中でもびっくりするパンチラインが、起承転結の否定と、少年マンガの主人公は成長しないという、これまでの創作論をくつがえす言葉です。

「主人公は成長しない」というこれまでの創作・キャラクター論を否定する言葉は、「ドラゴンボール」や「ONE PIECE」を考えれば明らかでしょう。
孫悟空やルフィは、ひとつの夢(強くなりたい・海賊王になるという目的)に向かってまっすぐ突き進む「強いキャラクター」。彼らは徹頭徹尾変わらない。
逆に、そんな彼らに憧れるサブキャラクターが成長する。それがマンガにおける変化だと樹崎さんは言います。
「ブラックジャック」も「ゴルゴ13」もそうでしょう。読み切りひとつひとつの中で、主人公は変わらず孤高のヒーロー。
彼らの最高の技術(手術・暗殺術)を頼ったサブキャラクターこそが、物語の主人公として変化する。それが読者の共感を得るというわけです。

「起承転結の否定」に関しては、一般人レベルでは通用しても、これまで紹介した上の2冊を読めばわかりますし、もうとっくにご存知の方は多いと思います。
今、創作界隈で言われる物語の構成は「三幕構成」。

「SAVE THE CATの法則」ではこう書かれています。

・テーゼ〈変わる前の主人公の世界〉
・アンチテーゼ〈正反対の世界〉
・ジンテーゼ〈新しい世界〉
変化せずにとどまるということは、死だから。物事はすべて変化するのである。

「売れる作家の全技術」では、「起承転結」という言葉を一応使ってますが、小説の構造とは、

・変化を読ませる
・謎を解き明かす
・その2つの起伏を意識した通過点を決める
通過点を最短距離でまっすぐにつないだ小説が面白くなることはありません。寄り道が多くて、真ん中の直線から外れていればいるほど小説の起伏は大きくなる、つまり面白くなっていきます。

と書いています。長編か短編かによって、その通過点の数がいくつあるかを読者は自然と期待するので、大沢さんは「起承転結でもなんでもいい」くらいの言葉で書いてますよ(笑)。

そして「カタルシスプラン」においては、三幕の構成とは、

・誘い(ドラマの方向性を示す)
・じらし(外的問題と内面問題)
・満足(読者の期待以上の結果)

と定義する。

マンガは比較的ページ数に制約があり、映画脚本や小説に比べると盛り込める情報が少ない。
その点において、「SAVE THE CATの法則」「売れる作家の全技術」で学んだことを、「カタルシスプラン」でマンガという媒体に落とし込むことができる。

この3冊をこの順番で読めば、マンガや漫画原作をかくために一番効率的だと私は考えています。だから今回の記事のタイトルは「漫画原作を書くために読むべきたったの3冊+α」。

……おや?「+α」って何だ?

「かいけつゾロリ」はチャートを使用している!

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私はこれまで触れてこなかった絵本があります。それは「かいけつゾロリ」シリーズ。
思わず書店(古本屋ですが……)で手にとってしまった「かいけつゾロリ カレーVSちょうのうりょく」。

まったく意味がわからないものの、なにそれ!?と思わず興味を引いてしまうそのタイトルには、作者の原ゆたかさん独自の方法論が生きています。

漫画原作を書くために読むべきたったの3冊+α」の「+α」とは、「かいけつゾロリ」ではなく、こちらのWEBニュースです。

1987年から始まる原ゆたかの人気読みものシリーズ『かいけつゾロリ』(ポプラ社)は、子どもたちに圧倒的に支持され、累計3500万部以上を売り上げ現在も継続中だ。その一方で、保護者や司書、教師たちからは「ゾロリばかり読まずに○○も読んでほしい」といったかたちで溜息の対象にもなっている。
原は、本が好きな子どもに「次は何を読ませようか」「『ゾロリ』ばかりでなく他のものをどう読ませよう」と考えるのではなく、本にまったく興味を持たない子を、いったいどうやって惹きつければいいのか? と考えている。これが冒頭で挙げた『ゾロリ』の批判者たちと、いわば「入り口」からして違うところである。

読書に興味のない子でも「かいけつゾロリ」だけは読む。その理由は、原ゆたかさんの徹底的なエンタメ構成。

3幕とは一般に、第1幕が「設定 (Set-up)」、第2幕が「対立 (Confrontation)」、第3幕が「解決 (Resolution) 」とされることもあるが、原は1幕を「対立」、2幕を「葛藤」、3幕を「変化」としたシートを用いている。簡単に言えば、序盤で主人公が何ものかと「対立」し、中盤で「葛藤」が深まり、最後に「変化」を起こすように物語をつくる、ということだ。
ここからさらに、1幕を4つに、2幕を7つに、3幕を3つに分割し13フェイズとしたうえで、それぞれのフェイズで何を描くべきかを整理してゆく。

なんと、ここでも「三幕」構成だ!!
原さんは、三幕構成13フェーズのチャートシートまで使って、読者に飽きられないよう気を使っている。そんな努力を伝えるこの記事には、そのチャートシートそのものさえ公開されています。
この記事も必見ですよ。これまで児童書、絵本とたかをくくって触れてこなかったあなた!(私だ!)
「かいけつゾロリ」からも学ぶべきところはあります!

まとめ

【1】
映画は、映画館に足を運んでもらえたら、あとは劇場に監禁されて、最後まで観るしかありません。
だからこそ、ブレイク・スナイダーさんはまず客に映画館に来てもらうために、「どんな映画なの?」という質問に答えるシンプルな一行《ログライン》に気を使います。
「これはどんなマンガなの?」という質問に答える概要や、三幕15ビートを埋めるプロットの作り方を、「SAVE THE CATの法則」で学びましょう。

【2】
小説とは、ストーリーとキャラクターが有機的につながり、変化と謎とその解決を繰り返すもの。
マンガにも活かせるそのバランス感覚や、キャラクターの掘り下げ方を「売れる作家の全技術」で学びましょう。

【3】
1、2を経て掘り下げたキャラクターやストーリーを、今のマンガ業界の傾向やマンガのコマ構成などにマンガ(漫画原作)に落とし込み応用する方法を、「カタルシスプラン」で学び、考えてみましょう。

【α】
三幕構成や「読んでくれ〜」と貪欲に読者にアピールする姿勢を「かいけつゾロリ」に学ぶというのもけっこうアリですよ。

この3冊+αを読みさえすれば、マンガ、漫画原作、小説、脚本。創作は何だってって書けちゃう気がしませんか?w

紹介した本

▲最後は筆者・猪原賽が書いた漫画原作者の本。一番原作者になるのに手っ取り早いのは――みたいな身も蓋もない話を書いています。

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