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あんただってそうだろ 改札前セカイ

終電間際の改札前。そこでいちゃいちゃとねっちりとねぶりあうカップルの見た目が嘘みたいにブサイク同士の確率は、おそらく90%を優に超える。
これは決して誹謗中傷ではない。
図象学を記号学の観点で述べた言葉だ。

終電前で気が急いでいる時にこの輩をみかけると心底いらつく。
改札ではなく女の頭にSuicaを押しつけ、密着する二人をこじ開けて通ってやりたくなる。

なぁ、あんただってそうだろ?

奴らのねぶりあいがまた凄まじい。すさまじいというかねっちり感が上記を逸している。新手のポルノ。
女は柱や壁によりかかり。男は女を抱きしめ。額と額をくっつけ合う。
大丈夫なのかあの距離。よく耐えれるなお互いと思う。まるで結界が張られたように、混み合う改札前で奴らだけの時間が流れている。

奴らは一体何なのだろうか。どっちか明日死ぬのか。
そんな凄まじい勢いのねぶりあい。

死ぬ?

俺はある時あるこんな仮説を思い立った。
奴らのどちらかは、明日本当に死ぬんじゃないか。
いや、言い換えれば「やつらのどちらかは(大抵は女)明日この星を守り抜き、死ぬのではないか。」

おそらく多くの人は奴らのこれまでの人生を勝手に想像するだろ。
幼い頃から二人ともクラスでは端にいる所謂陰キャ。
容姿もさえなきゃ、運動もできない、勉強もからきし、異性とおしゃべりなんか遥か彼方の夢。
類は友を呼び陰はますます湿気を帯び、でも、たった一人の愛せる人に出会う。その一人と一人が奴らだ。改札前でねっちりとねぶり合う奴らだ。
奴らは見せつける。これまで僕を、私を見下げてたあいつらに、僕らの、私達の愛を見せつける。これがトゥルーラブ、これがリア充。
インキャで非リアな世界から抜け出した二人の愛を見せつけてやる…
多くの人が奴らのねぶりあいをそんな幼い頃から育まれてしまった世間への逆恨みにとっていると思うが俺は違う。
俺だけが奴らの真の理解者だ。

俺が思うに、奴らの女の方は多分神社かなんかで育ったんだと思う。だから普段は巫女さんかなんかなんだ。そして彼女は小さな頃から特殊な力を持っていた。
それはこの世の地震や大嵐などの災害を人知れず防いだり、地球を壊す隕石を祈りの力で止める不思議な力。
彼女の一族は代々そうやってこの星を災害から守ってきたわけだ。
でもその不思議な力は彼女の生命力と引き換えにしか使えない。
ちなみに母は彼女が幼い時に大災害の阻止と引き換えにその命を絶っている。
大きな災害を防ぐ度に彼女はボロボロになる。
「なんで私だけこんな目に」
そんな自らの運命に悲観に暮れていたある日彼女は男と出会う。
初めて会った気がしない二人は恋に落ちる。(男は幼い頃彼女に命を救われている。その時力を使い果たした彼女を病院まで連れて行ったのがこの男だ。)
何度も何度もねぶりあい、どんどんどんどん愛が深くなる、が…
不思議な力が疼き始める、彼女は正体を打ち明ける。
しかし世界を壊すような大災害が迫ってくる。男は行くなと止めるが、彼女は自分の命と引き換えに世界を救うことを選ぶ。
二人に最期の時がやってくる。
そして俺たちはまさにその最期の時を見ている。
終電間際の改札前で、夜中の公園で、そんな何の変哲もない日常の中で、二人だけの、誰も触れられない二人しか存在しないセカイを見ている。
そしてそれをみて心底イラついている。

俺はこの仮説に気づいた時本当に奴らに申し訳ないと思った。
まさかそんな大事な瞬間だなんて気づいてやれなくてごめんな。

だから俺たちが終電間際の改札前で見るねぶり合うぶさいくな奴らを見る時、それが奴らを見る最期の瞬間なんだ。
そして俺たちが何の気もなしに過ごした今日は、彼女が自分の命と引き換えに残してくれた明日なんだ。

そして今日も誰かがこの地球を身を粉にして守ってくれている。
改札前でねぶりあうブサイクカップルの数だけ、この星は危険に晒されてる。
地球は結構頻繁に危険に晒されているんだ。
まぁ別に二人がブサイクである必要というのはこれっぽっちも無いわけだけど。

でもあんたには、改札前でねぶりあうブサイクな二人を見ても、その女の頭にスイカを押し付けないでほしい。

だって二人だけのセカイに、そんなシーンはあまりにも不釣り合いだもんな。


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