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経営者になって、やっと見えてきた本当の経営の難しさ

気が付けば、社長になって、経営者になって、あと2か月と10日で1年経つことになる。
あっという間だったと言えば、あっという間だったし、濃密な日々は、振り返ると様々な出来事があって、長かったようにも感じる。

決算書について、そして毎月の試算表については、最近やっと現実の経営と結び付けて数字を読めるようになった。最初は、いくら本を読んでも経営関係のハウツー動画をYouTubeで見ても、よく分からない面が多かったけど、やっとそれも分かるようになってきた。
試算表は「貸借対照表=BS」(Balance sheetの略)と「損益計算書=PL」(Profit and Loss statementの略)に分かれているが、会社を潰さないためにちゃんと見ておかなくてはならないのはBSの方だ。人間でいうと「体力」、ゲーム的にいうと「生命力」や「戦闘力」といったところか。会社に今、現金がいくらあって、借金がいくらあって、自己資本の割合がどれぐらいあるか、といったことで、この状態が悪くなってきていると、非常に危険な状況である。すぐに追加融資の相談に金融機関にいったり援助してくれる出資者を探したりしなくてはならなくなる。
そしてPLは、商品を売っている「現場の状況」が数字で書かれているようなものだ。まず重要なのは「売上総利益」(粗利益とも言います)。これは「売上」から製作費等の「原価」を引いて残った利益のことだ。「限界利益」ともいう。ここで利益が出てないと、この後出てくる販売管理費(社員の給料や倉庫代や日々の雑費)を払う金も無いということになる。
まず日々の営業活動で重要なのは、この「売上総利益」(粗利益)をどれだけ上げられるかが、ポイントとなる。それも社員一人当たりで、どれだけの金額を出せるか、という点で見る必要がある。理想は一人当たり年間2000万円ぐらいらしいが、最低でも1000万円はないと経営は楽にはならないとのこと。それは僕も実感としてわかる。弊社はまだそのレベルには達していないが。

「売上総利益」(粗利益)の次に見るのは「販売管理費」だ。人件費やらコピー代やら、倉庫代などの物流管理費、その他もろもろの雑費、費用である。
「売上総利益」(粗利益)からこの「販売管理費」を引くと、「営業利益」が出る。ここでお金が残っていないと、本業(出版社だと本の販売)だけだと利益を生み出せていないということになるので、さらに「売上総利益」(粗利益)を上げるか、それが難しいのならば、人件費などのコストを削減をして「販売管理費」を下げれば、自然と「営業利益」は上昇する。

さらに、この「営業利益」に、普段定期的には入らないけど、特別に儲かったような補助金や投資の配当などの特別利益が「雑収入」として上乗せされたり、不動産収入など本業以外の収入があると、さらに上乗せされる。逆に取引先が倒産したりすると特別損失が出たりして引かれてしまうことにとなる。あとは銀行に支払う借り入れ金の利息とかも、さらに引かれる。そして全て引かれて残ったお金が「経常利益」となる。
でもまだ先がある。この「経常利益」は会社が支払う税金を引く前の「税引前純利益」なので、さらに法人税、住民税、事業税などの税金を引いて、やっと本当の「純利益」に到達するのである。
やっとなのだ。この税引き後の「純利益」が黒字になって、初めて会社のお金は増えていくのである。

さらにさらにである! 知識として知ってはいたけど資金繰りと連動しては全く理解できていなかった、出版社の資金繰りにとって、かなり重要なことは……非常に厳しい現実でもあったのである。
出版社は、決算時に既刊本の在庫の資産評価をして計上するが(本当は毎月計上して試算表等に反映して管理するのが理想だけど、社員3人で経理部がないような会社には毎月のこの作業は負担が大き過ぎるので決算時にまとめていっきにやることが多い。弊社もそうです)、既刊本でまったく売れていない本はゼロ円として資産計上しない本もあれば、6ヶ月以内の新刊と、それ以前に出た本でも、まだまだ売れている本はまるごと資産として計上することもある。これは合法的にそうできるのだけれども、この在庫の資産計上を加えた数字が、出版社の最終的な決算書なのだ。何が言いたいかというと、この在庫の資産計上をしたあとの決算書が黒字であったとしても、その中身をよく精査しないと、出版社の黒字決算は、決して楽観できるものではないということが一番大きなところである。当然だが、在庫=まだ売れていない金になっていない本であるわけだから。
他業界のメーカーでも、よく知らないが同じ面はあると思うが、「在庫」の資産評価という点で目くらましになることがあるので気を付けた方がいいということだ。
決して決算書を改竄、粉飾してなくて、合法的にできる計算でやった決算書でそうなのだから、タチが悪い。出版社の経営者は、既刊本の在庫の資産評価を、楽観的ではなく、悲観的に厳しく見ておく必要がある。これは出版社の経営者は常に意識していないといけない。楽観的な見通しで在庫を評価してはならない、ということである。みすず書房の『夜と霧』や、トランスビューの『14歳からの哲学 』のように、誰がどうみても、超ロングセラーで、間違いなく長年ずっと売れ続けているような既刊本を持っている出版社なら話は別で、その手のロングセラーの既刊本の在庫は、間違いなく今後も利益を生み続ける資産で間違いないのだが、そういうロングセラーを持っていない出版社の場合、在庫に、既刊本に、本当にどれだけの資産価値があるのか、ちゃんと見ておかなければならない。さらにさらにである。本は、市場(書店・取次など)に在庫が残っている限り、売れなければ、いつか返品されてくる可能性があるのである。なので本当に資産価値の高い既刊本というものは、日々取次を経由して書店から返品されてくる数のそれをさらに上回るだけの追加注文が、日々常に入ってくるような本なのである。そんな本、少ないんですよ実際は。なので、出版社の経営者は、ちゃんと在庫の減り具合、売れ行きを日々見て、正しく資産価値を評価しないといけないのです。

なので、ものすごくざっくりと分かりやすく出版社の経営状態が「良くなっている」と本当に判断できるのは、すべての既刊本の在庫評価、資産価値をゼロにしても、それでも黒字になっている状態、そこまで到達して、初めて本当の意味で、資金繰りが良くなっていく、会社のお金が増えていくという見通しが立つのである。
特に新刊の売上がほとんどで、ロングセラーを持たない新規出版社の場合は、これはリアルな経営状態の良いか悪いかを判断する指標になると思う。

決算が創業から四期連続黒字である弊社に当てはめて考えてみても、既刊本の在庫評価をゼロにしてみると、やはり赤字なのだ。どうりでお金に苦労するわけである。既刊本の在庫評価をゼロにしても毎月の経常利益が黒字になっていけば、会社の預貯金は増え続けるけど、そうでなければ、会社のお金は減り続けるので、金融機関からの融資、借金も下手すると増え続けることになるのだ。
それは怖ろしいことである。
なぜなら金融機関から借りられるお金の金額には当然限度額があるからだ。

金融機関は、実績も歴史もない中小零細企業には、保証協会の保証付き(もし出版社が潰れて貸したお金が焦げ付いても、保証協会がその借金を保証・補填してくれるので銀行の貸し倒れのリスクは少ない)でないと、基本的にすんなりとプロパー融資(保証協会の保証付き無しで貸し出し)はしてくれない、ということも、10か月経営者をしてきて金融機関とやりとりをしてきて良く分かったことである。
しかも決算書は最低黒字でなければならない。
結構ハードルは高いのである。そして保証協会の融資額には限度がある。創業間もない零細企業だと1500~2000万円ぐらいが限度だろう(売り上げや利益によっても当然増減はあるが)。

ということで、まずは「売上総利益」(粗利益)をもっと上げること。シンプルにここだけ見て、まずは攻め続けたいと思う。

今年は、何点か勝負企画があるので、ここで利益を大幅に上げておく必要がある。
今年も緊張間のある日々が続きそうだ。

もっというと、出版社の経営の理想は、昔から変わっていないことだけど、真の目標とすべきは何十年も売れ続ける世代を超えて読まれ続ける本を作ることであるのは、間違いない。これは変わってはいない。新刊に頼りすぎるのも危険であるということだ。

ハードル高!!










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