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面白く、楽しく、美しい、現代のお伽噺の誕生 「遥かなるリコ」(木村伊量/文芸社)


「歳をとったな」と感じるのは、体力の低下は勿論だが、根気の減退だ。それは読書量に如実に表れる。定期購読のナショナルジオグラフィックは溜まるに任せ、必読書は積読状態。ならばと図書館から借りてはみたものの返却日が迫って、慌てて流し読みする有様。
「小説は別腹」。若い頃からの読書傾向はそのままだが、昨今、これと云って好著に出遭わない(平野啓一郎を除いて)。そんななかファンタジー小説「遥かなるリコ」を読んだ。
ハワイで生まれ育った孤児のリコ、京都の大学院生タケル、この二人が時空を超えて愛を紡ぐ現代のお伽噺。一種の流離譚の性格を持ちながら、読者の想像力をくすぐり、流麗な文章と該博な知識で深い問へと誘う。それは前著でもテーマとして展開されていた「人が生きるとはどう云うことなのか」。
ストーリー展開のテンポの好さとハワイに伝わる神話などの知的な仕掛けを随所に鏤め、一気呵成に読み終えた。「老い」「永遠なる時間」「魂の不滅」などの難しくなりがちなテーマなのに、知的でそれでいて力みのない文章に乗せられて思わず引き込まれてゆく。久し振りの知的高揚を味わうことができた。
作者は木村伊量(国際医療福祉大学理事・大学院特任教授、元朝日新聞社社長)。今春の『私たちはどこから来たのか 私たちは何者か 私たちはどこへ行くのか―三酔人文明究極問答―』(ミネルヴァ書房)に続く短期間のリリース。大きく括れば、著者は思想史の研究者だ。ふと柴田翔や庄司薫のことが頭を過った。学者のものする小説、それもロマンチックなファンタジー。面白く、楽しく、美しい、現代のお伽噺の誕生。

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