AdobeStock_三種の神器

終身雇用制の終わりによって会社は「人生をかけて尽くす場」から「共感によるコミュニティ」になって行く

トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用はもう難しい」と発表したニュース。

これを見て、いよいよ終身雇用制が崩壊した!とネタとして消費するのではあまりにももったいない。

本件は、22世紀に向けた「働き方」や「仕事とは何か?」を問う絶好の機会だと思う。

この機会に、そもそもなぜ日本企業は終身雇用制を採用してきたのか、メリットは何だったのか、なぜいまこのタイミングで終身雇用制を維持することが限界に達したのか、そして、この後、社会は、会社は、仕事は、働き方はどう変わっていくのかを考えてみたい。

過去の背景を知らないと、流れがわからない。流れがわからないと、未来が予測できない。いまを生きるビジネスマン・ビジネスウーマンは2060年頃まで働くが、その子ども世代は22世紀に向けて働くことになる。

これからどんな社会になっていくのか、どのような働き方に変わっていくのか。断片的な点としての知識を線としてつなげることで、過去・現在がつながり、未来を予見する解像度を上げることができる。

いわずもがな、終身雇用制は、目的ではなく手段である。

何かの目的を達成するために、終身雇用制を採用した方がメリットが大きかったから、その制度が採用されたわけだ。だから、終身雇用制の維持が難しくなった背景を理解し、未来を予測するためには、制度のメリットやデメリットを論じるよりも、なぜその制度が採用されたのか、時代背景を知ることが早道だと思う。

ちと長いが(きっとおもしろいと思うから!)お付き合いいただきたい。

戦後の復興

1945年に第二次世界大戦が終結し、日本は戦後の復興に邁進する。驚異的なスピードで日本は復興を遂げ、1956年の経済白書の序文には「もはや戦後ではない」という有名な一節が掲載され、戦後復興の終了が宣言された。高度経済成長期の幕開けである(高度経済成長期は1954年~1973年とされる)。

1960年には第一次池田内閣が発足し、長期経済計画として「国民所得倍増計画」が閣議決定された。

団塊世代の誕生と都市化の進展

戦争が終わって治安が安定したことによって、爆発的な人口増加が起こる。団塊世代(だんかいせだい)の誕生だ。団塊世代とは、1947年~1949年生まれの第一次ベビーブームで、毎年260万人以上、4年間で806万人もの新生児が誕生した(ちなみに、2018年の出生数は92万人)。

主要都市が焼け野原になった日本は、その復興の過程で、急速に鉱工業化が進展した。それにより、都市部では工場の建設ラッシュが起こり、同時に工場で働く労働者をターゲットとした小売業やサービス業が発展を遂げた。

それにより、都市部では急激な人材不足が生まれ、賃金の安い農村部から大量の若い労働者が都市部に流れ込むようになる

ALWAYS三丁目の夕日は、東京タワーが竣工した昭和33年(1958年)が舞台となっている。映画の中で星野六子役を演じた堀北真希が集団就職として実家のある青森県から上野駅にやってくる。

集団就職とは、地方の新規中等教育機関卒者(中学・高校卒)が大都市の企業や店舗などへ集団で就職することで、中でも若年中卒労働者は、昭和時代戦後期の「金のたまご」と呼ばれた。

時代は高度経済成長期。経済は年率二桁で成長し、国民の給与所得もどんどん増えていった。生活は急速に豊かになり、国民は稼いだお金で、こぞって家電を買い揃え、中でも国民全員が欲しがった白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫は、家電の三種の神器と言われた。

団塊ジュニアの誕生と核家族化の進展

団塊世代が青春時代を送った時代の平均初婚年齢は20代前半。大学進学率が上がったことや、ホワイトカラー労働者が増えたこともあり、団塊世代からお見合い結婚と恋愛結婚の比率が逆転した。

団塊ジュニアとは団塊世代が結婚してもうけた子ども世代で、1971年~1974年生まれの第二次ベビーブームに生まれた世代を指す。毎年200万人が生まれ、日本の人口ピラミッドでは2つ目に大きい山を形成している。

ちなみに、僕の親父は1948年、おかんは1944年、兄貴は1970年、僕が1973年生まれなので、親が団塊世代、子どもは団塊ジュニアのほぼど真ん中です

大半の団塊世代が20代前半で結婚し、まもなく二人の子どもをもうけ、30代で家を購入するとき、都市部は圧倒的な住宅不足に見舞われる。中心部の地価は高騰したため、中流家庭は都市部を諦め、会社から1時間~2時間の場所に造成された住宅地へと移り住んだ。

これによってドーナツ化現象(中心市街地の住民が減少すること)が発生し、長時間&超満員の通勤地獄が生まれた。

「平成狸合戦ぽんぽこ」は、当時宅地開発が進んだ多摩ニュータウンが舞台である。自然をないがしろにした高度経済成長は、その後、日本全体に深刻な環境破壊、大気汚染、イタイイタイ病や水俣病などの公害をもたらしてしまう。

昭和48年(1973年)の第四次中東戦争の勃発による第二次オイルショック(に影響を受けた物価上昇)で日本の高度経済成長期は終焉を迎え、経済成長率は年率10%から5%へ低下した。

バブル経済と失われた20年

その後の安定成長からプラザ合意、ブラックマンデーを経て、日本はバブル経済を迎える。

1990年の最高株価でバブルははじけ、その後、2008年のリーマンショック以降も続く失われた20年(もしくは30年)に突入することになった。

この間、核家族の中で十分な教育を施された子ども世代が成人を迎え、女性の高学歴化→女性の社会進出→女性の晩婚化→女性の晩産化→女性の非婚化・非産化が進行する。

晩婚化・非婚化は男性も顕著で、2011年の男性の初婚年齢は30.7歳、女性は29.0歳まで上昇した(東京は男性が31.9歳、女性30.1歳)。また、生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない人の比率)は、2015年段階で、男性が24.2%(約4人に1人)、女性は14.9%(約7人に1人)となっており、2035年には男性29.0%(約3人に1人)、女性19.2%(約5人に1人)が生涯未婚になると推定されている。

理由は本エントリーの最後にまとめる。

日本的経営システム

さて、まずはざっと戦後から現在までの「私たちの生活」を振り返った。次は、その時代の会社や働き方について振り返ってみよう。

戦後の復興期から高度経済成長を実現するにあたり、日本企業は、長期に渡って安定的な労働力を確保する必要があった。

「人生=仕事=会社に忠誠を誓い一生一社に添い遂げ、何よりも優先して誠心誠意尽くすこと」という社会規範づくりは、国際競争力を高めたい日本政府との利害も一致していた。そして、戦後の貧困を味わった労働者の「雇用の安定保障ニーズ」ともマッチし、国・労・資(国と労働者と資本家=企業)が三位一体となった日本的経営システムが構築された。

日本的経営システムとは、1970年~1980年代に経済成長を続けた日本の大企業が採用し、極めて高い競争優位の源泉となった日本独自の経営システム(経営の仕方)の呼称である。

終身雇用制、年功序列制、企業別労働組合日本的経営の三種の神器と呼ばれ、欧米の企業がこぞって研究した。

新卒一括採用した人材を終身雇用して会社へのロイヤルティを高め、年功序列だから社員は(下世代に抜かれる心配をせず)安心して仕事に集中することができる。賃上げ交渉のために労働組合が組成されるが、日本は(諸外国の職能別組合ではなく)企業別組合が採用されたため(管理職になると非組合員になってクビを切られても文句が言えなくなるため)労働組合員も役職が上がってくるとあまり派手に会社側と戦うことができず、企業独自の安定した労使交渉が行われる礎になった(会社側は労働争議を怖がらず経営をすることができたということです)

時代は高度経済成長期。安定成長期における最も効率的な組織構造は上意下達のピラミッド型組織である。定形業務を効率的に処理するため、業務は細かく細分化され、組織も業務もサイロ(縦割り)化が進んでいった。

軍隊型のピラミッド型組織に求められるのは、支配に従う従順さである。自社の色に染色された企業戦士を大量に生産するために、新卒一括採用が行われ、新卒は入社すると半年間に渡る研修を受け、すっかり“洗脳”された後に現場に配置される。

そこからはCDP(Career Development Program:計画的な人事異動)によって数年ごとに社内を転々とし、企業特殊的技能(その会社の中でしか使えない組織コンフリクトの調整能力、社内規範、カオの広さ)などを含めキャリアを重ねて行く。

せっかく育った社員が転職してもらっては困るため、日本企業の間で新卒プロパー社員じゃないと出世ができず給料も上がらない(転職すると不利になる)暗黙の人事ルールが形成され、サラリーマンの転職志向を抑え込んだ(事実、この時代は転職すればするほど落ちぶれていく人が多かった)。

若い頃の給与が安いが、年功賃金によって給料は年々少しずつ上がり、50代中盤頃にピークを迎える。その後は(給与の後払い的色彩が強い)退職金で住宅ローンを一括返済、企業年金(給与天引きでお金を徴収し、社員が退職した後、運用して利子が付いたお金を年金として支払う制度)で老後も安心――。

これが昭和・平成時代を生きた団塊世代の「生活」と「仕事」だった。サラリーマンの人生は、所属企業と一蓮托生であり、公私の区別なく、会社に誠心誠意尽くすことで、安心・安定した人生設計を実現する相互補完関係にあった。

終身雇用制、年功序列制、企業内労働組合による日本的経営は、市場も会社も、すべて成長することが前提で作られた経営システムだった。しかし、バブルがはじけ、低成長の失われた20年(30年)を迎えると、強力な逆機能が働き始める。

終身雇用制のため途中で社員に退職勧告や転職支援ができない。年功序列・年功賃金のためダイナミックな人事が断交できない、上がつかえる、下が腐る、パフォーマンスの低い高齢社員に高い給与を支払い続けなければならない。上意下達ピラミッド組織によって現場社員の創造性と熱意は失われ、閉塞感の強い社風、他律的な社員、イノベーションが生まれない風土をつくりあげてしまった。

この間、IT革命、グローバル経済化、インターネットの登場、GAFAの隆盛と、時代は目まぐるしく変わり、転職者の増大による外部労働市場の活況、非正規雇用者の増大と賃金格差の拡大(「勝ち組・負け組」などの言葉が生まれた)、退職金の廃止と401Kプランの採用拡大、職能給制度から成果報酬人事への転換、リストラと派遣切り、早期退職優遇制度などが当たり前になっていく。

男は仕事、女は家庭

ここまで社会と会社(仕事や働き方)の変遷を見てきたが、高度経済成長を実現できた理由には、もうひとつ非常に重要で、大きな要因があった。

それが、性的役割分業である。

性的役割分業とは、「男は仕事、女は家庭」に代表される、家庭における夫婦それぞれの役割や責務を明確に区分することである。

戦後の復興から高度経済成長を実現し、国際競争力を高めていくためには、命をなげうって会社に忠誠を誓う純真な企業戦士が必要であり、彼らには24時間365日働いてもらう必要があった。

そのため、子どもの教育や育児、すべての家事、その他家庭に関わる一切を女性(妻)が担い、男性(夫)は(家庭をかえりみず)仕事だけに集中する社会的コンセンサスが形成された。

あなたは良妻賢母と聞くとどんなイメージを持つだろう。

かっぽう着を着て、料理をつくり、育児をしながら、家中ピカピカに掃除をし、早朝に出勤し、深夜に(飲んで)帰ってくる夫を献身的に支える――。そんなサザエさんのフネのような存在をイメージしないだろうか。

この良妻賢母や専業主婦像をつくりだし、かつそれが正しく美しいものと社会の誰もが信じている状態こそが社会的コンセンサスであり、それをつくり、後押しせずとも黙認してきたのは、誰でもない企業と国である。

事実、20年くらい前までは、女性の就職先は総合職と一般職に分かれており、短大卒の女性社員は一般職の社内結婚要員として採用され、結婚と同時に寿退社をする(せざるを得ない)企業内コンセンサスもあった。

酒の席では、女性はクリスマス(24歳がピーク、25歳で定価、26を過ぎたら価値が下がるだけ)、年越しそば(31歳を過ぎたら価値が下がる)、おせち料理(31~33を過ぎたら価値が下がる)などという、いまではありえない差別的なネタに晒されていた。

いま現在、こんな発言をしたオジサン上司は即刻クビが飛ぶだろうが、バブル時代くらいまで、こんな会話が当たり前に行われていたのだ。

「男は仕事、女は家庭」、その社会的規範にのっとっていない少数派は悪であり、できそこないだ――。

日本の高度経済成長は、市場の拡大、日本的経営システム、社会的コンセンサスという3つの要因が三位一体となって実現した、再現不能な事象なのである。

多様性と女性の地位向上

バブル崩壊から30年が経ち、世の中は、ダイバーシティ(多様性)を重視しようというムードにあふれている。

「まだ結婚しないの?」「女の幸せは結婚して子どもを生むことよ」「子どもはまだ?」「一人っ子じゃかわいそうよ。兄弟をつくってあげなきゃ」「結婚したのに仕事辞めないの?子どもがかわいそうよ」などというダイバーシティも、ジェンダーも、フェミニズムも世界の果てまでぶっ飛ばしてしまうような言葉は(田舎の農村部などを除いて)だいぶ少なくなってきた(まだまだあるけどね)

少なくとも、以前のような、

男は一流大学を卒業し、日本を代表する優良企業に就職し、短大卒のかわいくて家庭的な奥さんと結婚して、二人の子どもをもうけ、会社から片道一時間の閑静な住宅地に一戸建てを持ち、週末は車で家族とキャンプに行き、上司や取引先とゴルフにも行き、平日は仕事をバリバリこなして毎晩飲み歩き、55歳で役職定年、子どもの結婚式をやり、定年して退職金でローンを一括返済して、企業年金で悠々自適。老後は子どもが孫を連れてたまに家に遊びにきて…

女はフリルがついたピンク色のワンピースを着ながらいろんなお習い事をして「女の子らしく」育ち、そこそこの短大を卒業して日本を代表する優良企業に一般職として就職し、一流大学を卒業した先輩ないしは同僚と社内結婚をして寿退社し、二人の子どもをもうけ、閑静な住宅街に一戸建てを持ち、週末は夫が運転する車で子どもともどもキャンプに連れて行ってもらい、平日は朝からビーフシチューをコトコト煮込み、丁寧にシャツにアイロンをかけ、子どものおやつにクッキーを焼く。50代は近くに住む夫側の両親の介護をし…

などという社会的コンセンサスは急速に崩壊しつつある。とても良いことだと思う。

会社は「尽くす場」から「ミッションという求心力が形成するコミュニティ」になって行く

ということで、日本的経営システムは、時代とともに終わりを迎えた。これからは新しい時代、新しい会社経営、新しい働き方に急速に変わっていく。

一生で働く会社は一社のみだった終身雇用の時代から、転職することが当たり前の時代を経て、これからの企業はコミュニティになる。

正社員、契約社員、派遣社員、業務委託、アルバイト、社外のフリーランス、取引先、そんなことは関係なく、会社が掲げるミッションに共感したすべての人たちが求心力によって引き寄せられ、出たり入ったりしながら、それぞれの強みを持ち寄って、よりよい社会づくりに邁進する。

これからの会社、これからの仕事は、「所属からプロジェクトへ」「ビジョンからミッションへ」「遠心力から求心力」へと変わっていくだろう。

自律的な人にとっては自由度が増す一方、他律的な人にとっては居場所がなくなったり、モチベーションを失ったり、目的を見失う受難の時代がやってくる。

「勉強ができる」「従順である」「我慢強い」ことに価値がある時代は終わり、これからは「求心力を発揮するリーダーシップ」「人を巻き込むコミュニケーション力」「プロジェクトマネジメント力」「1つの強力な強み」「自律」「行動力」「スピード」のある人が、より大きく、価値のある仕事をする時代になる。

俺たちの時代がやってきたZE!!

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