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書籍レビュー『人情裏長屋』山本周五郎(1933~1952)長屋の人間模様が魅力的に描かれている


山本周五郎とは

山本周五郎(1903~1967)の
短編集です。

山本周五郎は、
1926年から活動していた作家で、
おもに時代小説、
大衆小説の分野で活躍しました。

大河ドラマにもなった
もみノ木は残った』
('54~'58)

黒澤明監督が’65年に映画化した
『赤ひげ診療譚』('58)
(映画のタイトルは『赤ひげ』)
などの代表作があります。

'88年には彼の名を冠した
「山本周五郎賞」も
設立されました。

収録作品の初出一覧

本作には表題作の
『人情裏長屋』を含む
11本の短編が収録されています。

それぞれの作品は
'33~'52年にさまざまな
雑誌に掲載された作品です。

【収録作品】
おもかげ抄
『キング』昭和12(1937)年
三年目
『雄弁』昭和16(1941)年
風流化物屋敷
『講談雑誌』昭和22(1947)年
人情裏長屋
『講談雑誌』昭和23(1948)年
泥棒と若殿
『講談倶楽部』昭和24(1949)年
長屋天一坊
『講談雑誌』昭和25(1950)年
ゆうれい貸屋
『講談雑誌』昭和25(1950)年
雪の上の霜
『面白倶楽部』昭和27(1952)年
秋の駕籠
『講談倶楽部』昭和27(1952)年

『アサヒグラフ』昭和8(1933)年
麦藁帽子
『アサヒグラフ』昭和9(1934)年

各作品はそれぞれ、
別の短編集に
収められていたもので、

'80年に新潮社が
『人情裏長屋』として、
一つにまとめました。

表題作のとおり、
長屋を舞台にした
時代小説が多く、

落語や講談の影響が
強く感じられます。

本書に収録された
最後の二つの作品は、
これらの作品の中では、
もっとも古い作品です。

いずれも'30年代に
発表されたものですが、
現代を舞台にした作品に
なっています。

コンビの友情物語がおもしろい

どの作品も読みやすく
おもしろくてオススメですが、

特に私が気に入ったのは、
『泥棒と若殿』『秋の駕籠』の
二篇です。

『泥棒と若殿』は、
一人の男がある家に
泥棒に入る話でした。

泥棒が押し入った家に
住んでいた者があまりにも
情けない状態だったので、

泥棒は盗みをやめて、
その家に住んでいる男を
助けてしまうんですね。

食べ物を持ってきて、
食べさせたり、

身の回りの掃除や
洗濯などをして、
生活をともに
することになります。

悪いことをしようとして、
押し入ったはずなのに、
情が生まれて、
家族になってしまうのです。

この奇想天外な展開に、
興味を引かれました。

そして、家の主も
実はただの人間ではなかった

というのが、
さらにこの物語の
おもしろいところです。

『秋の駕籠』は、
駕籠に人を乗せて運ぶ
「駕籠かき」の
コンビの話でした。

駕籠かきの二人は、
いつもは仲がいいんですが、
定期的に大喧嘩をして、
仕事をしなくなるんですね。

いつも二人が酒を呑みに行く、
お店の看板娘が気をきかせて
二人を仲直りさせるのですが、

そのやり方がとても自然で、
おもしろいエピソードに
なっています。

仲直りした二人は、
久々の仕事で、

結構な代金で遠方まで
人を運ぶことになるのですが、
ここでもひと悶着あります。

私は山本周五郎の作品は、
『さぶ』('63)しか
読んだことがなかったのですが、

どうも作者の描く、
コンビの友情ものが
好きなようです。

『泥棒と若殿』『秋の駕籠』
どちらの作品も
男同士の清々しい友情が
描かれています。

また、最後に収められた
『麦藁帽子』も
不思議な読み応えの作品で、

これも非常に後を引く
物語になっていました。


【作品情報】
初出:『講談雑誌』ほか
   (1933~1952)
著者:山本周五郎
出版社:新潮社

【著者について】
1903~1967。
山梨県生まれ。
'26年『須磨寺付近』を発表。
代表作『樅ノ木は残った』
('54~'58)
『赤ひげ診療譚』('58)
『青べか物語』('60)など。

【同じ著者の作品】


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