カープダイアリー第8276話「指1本余らせてのフルスイング×フルイニング、オリックス戦連敗を14で止めた一振りに…」(2023年5月31日)

緒方、佐々岡時代からの呪縛を解き放つ、目の覚めるような弾丸ライナーが、京セラドームの高いライトフェンスの上をかすめるようにしてスタンドに突き刺さった。

「いい場面で回ってきて、いいとことで打てたと思います」

七回、秋山の3号先制3ラン。その瞬間、六回まで88球1安打ピッチングの九里がその右腕を真っすぐ掲げた。

その裏、1点は返されたものの、この強烈な一撃で対オリックス戦連敗が13で止まった。この1勝まで5年もかかったことになる。

新井監督が4年連続Bクラスに沈むチームに吹き込んだスピリット。それは指揮官の小学生時代の愛読書「はだしのゲン」のような「踏まれても、踏まれても真っ直ぐ伸びる麦のように強くなれ」(ゲンの父の訓え)精神だ。

この日は正にそう。いきなり初戦で山本由伸の前に赤子のごとく捻られると、この日はオリックス先発田嶋から二回以降二死二、三塁、二死三塁、二死一、二塁、二死一、二塁、無死一塁と攻め続けながらことごとく逸機…

オリックスが黒木にスイッチした七回も、先頭田中広輔が四球で出塁した直後に代走羽月が初球スチールに失敗した。

だが、全力疾走の菊池がショート内野安打で出て、上本は四球。またまた一、二塁と得点圏に走者が進み、打席に秋山。

手にするのはリーグ最多安打をキープする打ち出の小槌。ただ「ヘッドが下がり気味になるから」と41試合目、5月23日の中日戦(マツダスタジアム)からは指1本前後グリップを余らせる打席が増えた。

この日はその7試合目。この打席では確実にミートするために、いつもよりさらにわずかながらグリップの余りを多めにした。

初球はフォーク。バットは空を切ったが満振りだった。2球目もインローへの真っ直ぐ。これをクロスステップで完璧に捉えた。目標とする2000本安打まで、堂々とレギュラーを張れるだけの力が証明されたような打球になった。

秋山の打撃を絶妙の距離感で見守る朝山打撃コーチは「去年と違うのはストレートを打つポイントを少し前にしているところ。変化球は変わっていません」と説明する。

「前でさばく」打撃に挑戦する、と宣言したのは秋山自身。2月のキャンプ以降、新井監督の助言にも耳を傾けながら積み上げてきた。だからこの一発は余計に価値がある。

メディアはほとんど触れないが秋山は今季、フル出場どころかフルイニング出場を果たすつもりでいる。

西武時代には2014年途中から19年まで5季連続のフルイニング出場で、そのまま海を渡った。その記録は平成の鉄人・金本知憲に次ぐ歴代2位で、パ・リーグ1位の「739」。4年ぶりにまた自身のペースを掴みつつある。
 
ただし「試合終盤での代走起用など、チームの勝利のために交代してもらうケースも考えられる」というのが首脳陣の考え。
 
秋山とすれば、勝利優先の交代ならウェルカム、しかしケガや故障での離脱や不振による交代は絶対にあってはならない…。そう自身に言い聞かせながら、梅雨空の下で赤いユニホームで初となる交流戦も闘い抜くことになる。
 


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