堀内都喜子「フィンランド 幸せのメソッド」

毎年3月20日に公表されている世界の幸福度ランキングで、フィンランドは5年連続1位となっている。日本はここ3年間で62位から56位、54位と順位を上げているものの、だいぶ違いが大きい。
著者はフィンランド大使館に勤務し、広報を担当している方。データを交えた現在のフィンランドの状況に加え、フィンランドに在住していた時に実際に目で確かめた情報や日本人から聞いた話などエピソード的な話も多く、イメージしやすい内容になっている。
特に印象的なのが、第1章で取り上げられているジェンダー平等について。単に女性の社会進出が進んでいるだけでなく、政治の世界でも女性の活躍が進んでいる。2019年に34歳の若さでサンナ・マリン氏が首相に選出されていて、連立政権の投手が女性ばかり、という話はニュースで見たのをぼんやり記憶していて、だいぶ日本とは違うなあという印象を持っていた。けれどそれは昔からジェンダー平等の意識があったとかではなく、女性たちが少しずつ勝ち取ってきたものであるということを知って衝撃を受けた。
例えば1960年代半ばでもフィンランドではレストランに男性の同伴なしに女性だけで行くことは社会的に許されていなかったという。就労人口は既に41%を女性が占めていたが、支払われる給料は男性の6割だったという。それが保育制度、父親休暇、柔軟な働き方などを通じて、徐々に変わってきたという。今では平均賃金の格差は16%にまで縮まったという。因みに同じデータとは思えないがOECDが出している賃金格差は、日本は22.5%(男性賃金の中央値を基準に女性賃金の中央値がどれだけ低いかを示したもの)である。
その他日本でも最近ネウボラという言葉がよく聞かれるようになったけれど、子育ての包括支援を行う場所としてのネウボラはフィンランドから取り入れたもので、具体的にどのようなものか、日本人の話なども踏まえながら出てくる。また、学校の取り組みなども紹介されている。
全体を通じて感じられるのは、個々の選択を大事にしているということである。働き方についても自由に選ぶことができる、ネウボラについても支援者は指導するのではなく、話し合って子育てをどうするかを決めていく。学校でも、子どもたちの意思が尊重され、何かを決めていくというプロセスを尊重する雰囲気がある。
日本でも少しずつそういう雰囲気が出てきていると思うけれど、まだまだ固定概念に縛られている人が多い気がする。幸福度のデータは一人当たりの国内総生産、社会的支援、健康寿命、社会的自由、寛容さ、汚職の無さ・頻度、ディストピア(人生評価・主観満足度)で定義されて集計されているという。自分が選ぶことができて納得感があることは、社会的自由、寛容さはもちろん、ディストピアも上げるのではないかという気がしている。

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