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(三)依頼・紹介編④ 

(コンクール編)(売り込み編)でも書きましたように、
「何人の人を知っているかではなく、何人の人に知られているか」
 が、成功のカギです。
 念願のシナリオライターデビューを果たした後、
「最近、いろんな所で、君の名前を聞くようになったよ」
 と直居先生に言われたときは、ジーンときて涙が出そうになったほど、うれしかったものです。
 倉本聰作品流に言うと、「グッときていた-----!!」というところでしょうか。
 この業界は、人に名前を認知されることが必要です。企業がテレビコマーシャルに高いカネを払っているのも、自社商品の認知度を高めるためです。
 その宣伝効果を高めるためにも、企業にとっては、視聴率の高い番組でスポンサーになることが重要です。そんなドラマを制作するには、視聴率の取れる優秀なシナリオライターが必須です。
 あなたも、キー局のテレビ局が奪い合っている20人の、そういう売れっ子シナリオライターになれるように、腕を磨きキャリアビルドしましょう。そうすれば、企画の通る確率の低い売り込みなどしなくても、仕事の依頼が来るようになります。
 私の師である直居氏は、映画全盛時代には製作者サイドから、
「今度、石原裕次郎で青春物を、市川雷蔵で股旅物を、勝新太郎で時代劇を、高倉健でヤクザ物をやりたいんだが-----」
 という依頼が、次々と舞い込んできたそうです。
 今なら、「今度、キムタクで、米倉涼子で、綾瀬はるかで、こういうのをやりたいんだが-----」と、依頼が来ることでしょう。
 そのとき、その依頼に応えられないと、この業界では生き残れません。
「普通の世界なら未熟は恥じる事ではない-----だが、俺たちの世界では、未熟な者に、“いつか”は、決して訪れない」(『ゴルゴ13』 ~第147巻 三人の狙撃手)
 倉本聰、山田太一、橋田壽賀子、向田邦子さんのように、余人をもって代えがたしと言われ、この分野の作品では誰にも負けないというジャンルを開拓すれば、この業界で生き残れます。
 
 皆さんも、一人で試行錯誤を繰り返して遠回りすることなく、いい師を見つけ、直線を走って、3年でプロのシナリオライターとして、デビューされることを切に願っています。
プロとしてデビューしてからが、本当の勝負です。
 プロ野球の世界では、
「二軍は野球を覚える所、一軍は野球をする所」と言われています。この業界も、プロになってからが本当の戦いです。プロ野球の公式戦のように、それまでと違って、あなたの書くことすべてが、公式記録として残ります。
 何かに夢中になれるのは、若いときだけです。年を取ってから、あのときああしていればよかった、こうしていればよかったと後悔しないように、逆算して今からデビューのための準備をしましょう。
 目的が達成されたときのことを想定し、逆算の発想をすれば、自分が今、何をすればいいかが分かります。
 シナリオを書く訓練だけでなく、企画会議、打ち合わせのディベートのシミュレーションをするのもいいかもしれません。
 
 橋田壽賀子さんが言っていましたが、
「作家を志す人、あるいは、作家という職業の人には、作家の業(ごう)なのか、身の回りで不思議なことが起きる」
 とのことです。いわゆる“災い体質”ということでしょうか。
 そう言われてみると、私もよくそういう体験をしました。
 プロになる前、生活費を稼ぐために働いていると、不思議とテレビのトップニュースになるような事件事故に出くわしました。  
 どういう訳か、一番多いのは火事です。芝の高層マンションの火事とか、渋谷駅近くのスパの爆発とか、千葉県柏市の工場の爆発炎上とか-----。副都心線渋谷駅ホームでの、死傷殺人事件というのもありました。その日、残業がなければ、タイミング的に私が被害者になっていたかもしれない時間帯でした。
 中でも一番印象に残っているのは、『東京電力OL殺人事件』です。あの事件最大の謎にして、事件のカギを握ると言われている被害者の定期券が、殺人現場とはおよそ縁のない巣鴨の民家の庭で見つかっている事実です。
 ひょっとすると、その定期券を渋谷区円山町の駐車場で拾って、無意識に豊島区巣鴨まで運んだのが、私かもしれないのです。
 興味のある方は、『栄光の死角 ~東電OL殺人事件異聞』を参照して下さい。
http://www.amazon.co.jp/dp/B076YVS5GQ
 
 プロとしてデビューする一番いい方法は、プロのシナリオライターのアシスタントとして実地訓練を経験し、どうやって一本のシナリオが、作品として映像化されるのかのプロセスを見聞することです。
 脚本執筆の依頼、打ち合わせ、シナリオハンティング、ロケハン、俳優、スタッフの前でのライター本人の本読み、撮影現場の見学など、これから自分の生きて行く世界はこんな所なのだと、肌でそのプロセスを感じて修得することが大事です。
 私も経験しましたが、助監督をすると、シナリオがどうやって映像化されるかがよく理解できます。ちなみに、黒澤明監督、木下惠介監督、山田太一氏も助監督出身です。やはり、現場を体験するのが、一番いい勉強法で近道かもしれません。
 あとは共同脚本という形をとれば、すぐにプロとしてデビューできます。そういう良心的な面倒見のいい師に出会うと、意外とスンナリとデビューできます。
 あくまでデビューはスタートラインで、本当の戦いは、デビューしてからです。
 大事なことは、誰に人を紹介してもらうかです。
 私もプロデビューする前、デビューしてからも、何人かの人に人を紹介してもらいましたが、紹介する人が悪かったら、紹介してくれる人、紹介してくれる人、使い物にならないというか、ピント外れの人ばかりで、いつまで経っても埒(らち)が開かない状態が続いて、イライラしたものです。そういう状態を回避するためにも、最初にいい人に出会うことです。
 一般社会でも、いい先輩、上司に恵まれることが大事ですが、この業界は特にそうです。そのためにも、その起点である良き師に出会うことが最重要課題です。
 良き師は、良き人脈を持っているものです。
 それが全てです──。
 
「俺は、師事する人間を間違えた事はない。だから、今日まで生き延びてこられた」(『ゴルゴ13』~第155巻 一射一生)
「雑魚(ざこ)は相手にするな」(映画『007~ロシアより愛をこめて』 ジェームズ・ボンド)
        
        (了)

プロフィール
http://ameblo.jp/ikusy-601/


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