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【解読】「君たちはどう生きるか」

まず申しておくと、この記事には宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」のネタバレを多く含みます。

既に映画を観て、「なんじゃこの映画!意味わからん!」と思い、映画に込められたものが何だったのかを考えたいという方に向けての記事となります。

その上で、お読み頂ければ幸いです。
(以降は敬語は略して書きます)



まず結論から言おう。 

この映画を一言でいうと、
「(ジブリがこれから無い世界で)君たちはどう生きるか」だ。

異世界 = ジブリワールド

ストーリーは一言で言えば、主人公が人を助けにとある異世界に行くファンタジー冒険活劇だ。

宮崎監督のラスト作にふさわしく、冒険の中で巡る世界の情景には、過去の作品に似た描写が変わる変わる出てきた。

たとえば森の雰囲気なんかはもののけ姫っぽい。火の描写や食べ物の作画はハウルの動く城。あの黒い泥みたいなのは千と千尋っぽいななどなど。その他にもあのキャラは〇〇に似てるななど、意図した訳でなくただ同じ原作者の作品だからそうなっているだけかもだが、その世界には自分が子供の頃からたくさん観てきた色んなジブリワールドが確かにあった。

ラストのネタバレになるが、その世界(以降ジブリワールドと表す)はさいごに壊れ、主人公(眞人)たちは元の世界に帰る。

ジブリワールドは「大叔父様」と呼ばれる、眞人の祖先にあたる老人がつくりあげ、管理していた。理屈はわからないが、力を持った石でできた様々な図形の積み木(というより積み石)を積み上げて、ジブリワールドを形成・維持していた。

大叔父様は年老いて、もうその世界を保てなくなりつつあった。彼が積み上げた石も立ってるのが不思議なくらいに傾いて、今にも崩れそうな状態。

彼はそこで眞人にその仕事を引き継がそうとする。その仕事を引き継げるのは彼の血を引くものだけだからと。

だが眞人はその申し出を断り、ジブリワールドは崩壊する。眞人は大切な人たちと元の現実に帰っていった。

ジブリワールドはどうして崩壊してしまったのか。その背景を考えてみよう。

大叔父様 = 宮崎駿

わたしは、この"大叔父様" = "宮崎駿" を意味してるのではないかと思った。積み木を高く積み上げるがごとく、長年ジブリの世界を作り続け、支え続けてきた。自分の血を継ぐもの(宮崎吾朗?)に継がせようとするものの、継いでくれず、またその世界に住む一番偉い王様が世界を管理しようと試みるも、積み木は自立せずジェンガのように崩れてしまう。その世界(スタジオジブリ?)で1番力を持つ者もジブリを継承することはできないと暗喩しているのだろうか。

作中の世界よろしく、
この映画はジブリワールドの終焉を宣言するためのものだと思った。

宮崎駿はもうアニメ映画を作らない。
新しいジブリ世界が生まれることもない。

そこで私たちは問いかけられたのだ。

ジブリのない世界で 君たちはどう生きるか。

主人公一家 = 日本人、視聴者、ジブリファン

対して、眞人をはじめとする彼の家族たちは、ジブリに触れてきたわたしたち日本人を指している。海外のジブリファンもイコールで関連付けできると思うが、ここではあえて"主人公サイド"="現代日本人"と考えることにする。

まず、この作品は戦争中の時代設定にも関わらず、戦争がテーマになることは一切ない。物語は眞人の家の周りとジブリワールドだけに限定される。

ここに違和感を感じる。
どうして戦争は出てこないのか。

眞人たち一家が戦時中も平時と同じような暮らしができたのはひとえに彼の父親が戦闘機工場の工場主で、要するに金持ちだからだ。

一度だけ眞人が学校に行くシーンがあるが、眞人とそれ以外の子供達とでは、雰囲気がまるで違って描かれてる。親の経済力の格差もあるが、それ以上に、戦争と隣り合わせの暮らしをしてるかそうでないかの違いがかなり色濃い。

この関係は、現代の、平和に暮らす日本人と戦争と隣り合わせの国の国民という対比を仄めかしてるのではないだろうか。

日本人は眞人のように、今世界で起こっている戦争(ウクライナ、パレスチナ、スーダン、イエメンetc..)にはあまり目を向けず暮らす。日本人にとって"戦時中"とは過去の太平洋戦争の時代のことを意味するが、世界から見ればいまも"戦時中"なのだ。

眞人の父親はふたつのものを提供することで、一家を平時と同じ暮らしをさせることに成功している。

ひとつは金だ。
学校に多額の寄付をすることで息子を学校に行かなくても文句を言わせないようにした。

もうひとつは戦闘機だ。
彼の工場で作っているのは戦争で使う戦闘機。これが元々の商売なのか国に言われて戦争用の航空機を作る羽目になったかは定かじゃないが、こういう形で国に貢献することで、彼の一家は直接的な戦争への関わりを逃れている。

この二つはまさに日本が外国に提供(しようと)しているものそのものだ。
こじつけにしてはかなりキレイに当てはまっていやしないだろうか。

眞人は父の作る戦闘機を「美しい」という。今の日本も同じような感性で武器を輸出しようとしてるのでは?もしかするとそういことを宮崎駿は仄めかしてるかもしれない。

外の世界の戦争への関心を持たない代わりに、眞人(日本人)が関心を持つのは自分の内側のこと。父の再婚相手に対するよくない気持ち。彼女を"母親"と呼べず、"父の好きな人"と口にしてしまう複雑な感情。そういったことを思うこと自体に良い悪いは全くない。しかし、目の前で起きてる戦争は蚊帳の外に、考えるのはそればっかだ。

この映画がわたしたちに伝えたいこと

ジブリワールドでの冒険を通して、眞人は成長し、自分の悩みを乗り越えることができた。

それは世代を超えて多くの日本人がしてきたことと同じではないだろうか。

宮崎監督や高畑監督の作った世界を旅して、そこで得たものを持って帰って現実を生きてきた。

けれど、ジブリワールドは崩壊した。その先の時代でわたしたちはどう生きるか。

外の世界(外国)とあまり関わらず、自分たちの内側ばかり目を向ける。内側の現実すら見ずに、アニメをはじめとしたフィクションの世界に閉じこもって、そこから出てこない。

今の時代にありがちなそんな実態を、巨匠・宮崎駿は思い、引退宣言を撤退してまで最後にこの作品を描いたのではないだろうか。

決して大衆受けを狙った映画じゃない。
これで最後。その後はもうなにもいらない。
だからこそ思いの丈を純粋にぶつけるカルト的映画を作ったのだろう。(裏切りと感じるファンもいるかもだが)

一言添えると、作画や音響はほんと神がかっていて、そこは一切の妥協なく最高のクオリティだからさすがだ。

以上で「君たちはどう生きるか」の解読を終わりにする。
解読というか、ほとんど妄想だったかもしれない。

結局、映画を観て各々が感じたことが全てだ。

「生きてる!」

そう心から言えることがきっと、その人にとっての「どう生きるか」の答えに違いない。

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