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【読書記】ハノイで読んだ「現代中国の秘密結社」とベトナムの秘密結社?

再び感染拡大云々で少し騒がしくなっているベトナムなので、4連休から続いている「読書週間」。今回は発売以来読みたいなあと思いつつようやく今回手を付けられましたこちら「現代中国の秘密結社ーマフィア、政党、カルトの興亡史(中公新書)」を読んでみました。

いつも新刊が出るたびに楽しみにさせて頂いている安田峰俊さんの近著です。彼の著書に関するnoteは以下などもご覧ください。

アウトローとオーソリティーの行ったり来たり

今回テーマは「秘密結社」と、さすが安田さんの面白い「周辺からの視点」というか、ある意味マニアックな視点からの考察だなあ。と思いきや、これは単なる周辺ではありませんでした。その「周辺」は変幻自在、融通無碍な「周辺」なので、時の政権中枢、権力者とくっついたり離れたりと、変幻自在がゆえに強い生命力を保っているという筆者の見立てです。

華南中国における共助団体、自衛組織という背景から、生まれては消えていく多くの人の繋がり、それらが時の政権、権力者との関係で「秘密結社」となりつつも権力に近づくこともある。そして南方の中国人が海外に多くでることにより、その助け合いが海外でより必要になり、より強固なものになっていく。その中で生まれる、多くの怪しくも魅力的な人物が沢山描かれていて、正に本著は中国近現代アウトローオールスター揃い踏み!といった感じ。

そういった数ある「役者」の中でも、特に多くの紙幅が割かれた「洪門系」と呼ばれる団体。暴力団のような面もあり、政治団体のような姿をする時もあれば、ビール作っちゃったり、カンボジアで電子マネー構想までぶち上げちゃう。そんな融通無碍でありながら、中国における「民主党派」の政党、致公党として中国共産党の華僑工作の一端を担う立場にもなっている。「政治的見解が無いので何にでもなれる」という不思議な生命力が生き生きと描かれていてました。

そして、歴史的経緯を振り返りつつ、非常に現代的な問題である香港デモ、その中で香港人にも大きな衝撃を与えた「7・21元朗事件」。デモ隊に対して容赦ない暴力を振るった黒シャツ軍団は、香港・新界に残った土着の自治組織、自衛団体(自衛おじさんたち)が部分的にそそのかされてのものなのではという筆者の見立ても、華南農村・香港農村地域の自治文化背景ともあいまって、新鮮かつ含蓄のある解説だなあと思いました。

ベトナムにおける法輪功の存在

「ハノイで考えたこと」的なベトナムからの視点では、一つは法輪功に関するところ。法輪功についても色々な面白い視点がありましたが、ベトナム人信者が中国人、日本人に次ぐ第3の勢力となっている、との記述には驚きました。確かにハノイに住んでいても、時に法輪功の存在を感じる場面に出会うことがあります。今は観光客がすっかり来なくなってしまったので、そういった人たち向けの中国語を前面に出しての宣伝はあまり見なくなりましたが、でも著者が新橋で体験したような「緩やかな気功体験」に近いような風景は見かけたことがありましたし、今も続いているのでしょう。

そして、時にベトナムでも法輪功などは取り締まり対象になっています。中国のように「邪教」とまでマークされているわけではないようですが、中国との外交関係からの配慮もあり、また両国のイデオロギー的な近さもあり、共産党以外が多くのフォロワーを集める、という動きにはベトナムでも警戒感はあるのでしょう。

また、中国系ベトナム人女性が台湾で始めたという「観音法門」という瞑想法というのは本著で初めて知りました。ウェブサイトをみても、世界に支部を構えつつほぼベトナムにはそれがないようで、創始者がベトナム人という割には全くベトナム色がありません(ベトナム語サイトも無し)。完全にベトナム以外の場所で急成長しているという点も含め、「秘密」さが感じられます。台湾で働く、台湾人と結婚するベトナム人も多いので、そういった社会的背景もあっての「台湾」なのでしょうか?

ベトナムにおける「秘密結社」事情は?

本著には中国内外で活動する多岐にわたる「秘密結社」を紹介し、その中にはいわゆる新興宗教団体の名前も多く出てきます、ベトナムでもそういったものは、時に人心を捉え、時に取り締まりの対象となりながら存在しているようです。日常生活レベルで出会うことはあまりありませんが、時にその取締りの様子がニュースとして流れることがあります。最近でも「Câu lạc bộ Tình Người」という慈善団体と思われるようなウェブサイトの団体が「福をもたらし、業を償う」とする活動に対して会費を取っているとされ、共産党員や公務員もこういった「迷信」活動に参加していると糾弾している記事がありました。

そして現代的な手段を使った、色々な新興宗教というか、民間信仰というものも。これは人が救いを求める際に、所謂主流宗教などで救われない人が出る時に、どうしても出てくる現象なのでしょうか。

ベトナムもそういった「非合法団体」の動きには大変警戒感高く、特に外国との繋がりがあるものにはとても厳しい態度で臨みます。ベトナム戦争時代からの背景から、在外ベトナム人(越僑)には現政府に批判的な人も多く、「政党」を名乗り、時にテロまがいの事件を起こすことも。調べるのがなかなか難しそうですが、こんな中越比較も面白いかもしれません。

ともあれ、毎回当たってぶつかる臨場感あふれる取材と、中国の歴史や宗教、文化観などにまで視野を加えて、わかり易い筆致で複雑な事象を描いてくれる安田さんの本著、一つの読み物としても、現代中国理解の助けにも、大変おススメです。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。