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【ドキュメント】世界はそのへんに 03「ブリティッシュ兄さんとハシゴ酒」東京・浅草

今回東京・浅草で出会ったのは、イギリス・ロンドンから一週間ほど滞在中のお兄さん、ブレッド。

誕生日の一週間前に突然思い立って、日本に旅行することを自分へのプレゼントとすることにしたのだそう。

海外旅行は25歳くらいの時だから10年ぶり、と言っていた。とにかく、飛行機が長かったと、何よりも先にこぼした。

Too muchでCrazyな東京

東京はどう?と聞くと、彼からは興味深い答えが次々と出てきた。

彼「面白い街だ。でも、本当は東京に住もうかと考えて来たけど。それは僕には難しそうな気がしてる」
私「どうして? 日本に来る外国人はこんなに快適な国はない!とかってよく言うけど」
彼「あまりにも多すぎるんだ
私「人とか、情報かな」
彼「その両方だね。一番は、電車に乗る時に並ぶことが理解できない。あれはクレイジーだよ
私「ロンドンでは並ばないの?」
彼「あんなに列はできないよ。そもそも駅が小さいし。日本は電車から外に出るのがすごく難しい」
私「それは日本人にとってもだよ(笑)」
彼「ロンドンだったら、駅は電車しか通ってない。日本は駅になんでもあるじゃないか。コンビニも、スーパーもある。すごく変な感じだ」

言われてみれば、と思う。日本に帰って来た時の違和感の正体がまた明らかになった。

まさかのアレが高級食品なイギリス

場所を変えて、ホッピー通りの居酒屋へ移る。物珍しそうに居酒屋の内装を見渡す。

彼「壁に色々貼ってあるんだね」
私「多すぎる、ね(笑)」

お通しの、うずらの煮卵がテーブルに置かれる。凝いの目で見つめるブレッド。
彼「これは、なんだ…?」
私「えーと、卵。うずらって英語でなんて言うんだろう」
彼「もしかして、Quailじゃない?」
私「あ、そう、それだ!」
彼「リッチな人の食べ物だよ」
私「えっ、うずらってどっちかと言うと貧しい人のイメージだけど」
彼「イギリスと日本では逆なんだね!」
私「知らなかった!これをイギリスに持って帰ったらいい商売ができるよ(笑)」
彼「じゃもう食べちゃだめだよ!これ全部僕のだから!(笑いながら煮卵を手で被せる)」


外食好きな東京人たち

今晩が日本で過ごす最後の夜だということで、最後にもう一件だけ連れて行ってほしい、と懇願される。

ホッピー通りから歩いている途中、大きなアサヒビールの看板を見上げるブレッド。アサヒはイギリスのパブで当たり前に飲めるブランドであるのだと教えてくれた。少し歩いたところで、隠れ家的な立ち飲み居酒屋を見つける。

これはパブか?レストランか?と聞かれ、答えに困る。居酒屋のようにお酒も飲めて、食事も食べられる場所というのはイギリスの人にとって少し不思議なものなのだそう。立ち飲み、というのも彼は初体験のことらしく、椅子はないの?と少し動揺している様子だった。

彼「日本人はよく外に出かけるよね。イギリスならみんな仕事が終わったらそのまま家に帰るよ」
私「仕事の人と出かけることはないの?」
彼「ほとんどないね。仕事が終わったらみんなすぐに家に帰る。家が一番好きだから

この言葉は印象的だった。コロナ禍で、飲み会が減ったり、家呑みカルチャーが流行ったりしていたものの、そもそも日本人、特に、都会に住む人たちは「外で食べること」に対して前向きな人が多く、「家で食べること」、そもそも「家にいること」を軽視しがちな人種なのかもしれないと思った。家が一番好き、と言える人は実際、どのくらいいるんだろう。


イギリス人がラーメンよりも美味いと唸った一品

食事を頼もうか、と壁に貼られたお品書きを見るも、筆書きの日本語がずらっと並んだ紙は彼にとっては訳のわからない暗号のようなものなのだろう。ちょっとして、これは僕には難しすぎる!君が好きなのを選んで!と頼まれる。

そうして、私が選んだのはカツオの刺身、いぶりがっこポテトサラダ、それと、味噌汁がなかったので代わりに、小はまくりのお吸い物。

いぶりがっこがどう出るかだが、ポテトサラダは芋料理だし、イギリス人なら気に入ってくれるんじゃないかと思って選んだ、推しの一品。

実際、カツオもポテトサラダも美味しい、と言ってくれるも、そんなに刺さっているというわけでもなさそうだった。ポテトサラダに関しては、同じようなのを食べたことがある、という感じで彼にとっては面白みのないものだったようだ。

体が冷えてしまっていたので、そのつもりで頼んだお吸い物だったが、飲んでみたい!となぜだか強く興味を持ってくれた。きっとお吸い物よりも味噌汁の方が外国人にはウケがいいだろうな…と思っていたが。予想外にも、この時の反応が一番よかった。

彼「なんだこのスープ!初めて飲んだ!」
私「気に入った?」
彼「うん!すごく!ラーメンよりこれがいい!」
お吸い物が外国人にウケるとは。相当気に入ってくれたようで、汁が底をつきるまで、器を持ち上げながら、嬉しそうに飲んでいた。

翌日の帰国のためにもそろそろ帰ろう、となり、浅草駅で別れを交わす。

平日の夜の電車で揺られる酔っ払いたち。駅のコンビニとスーパー。あちこちにある居酒屋。いつもの道が、ちょっとおもしろく見える。不思議な世界のいつもの暮らしに私は戻る。

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