見出し画像

小心者のバレンタイン

タイトルを見て、儚い恋物語を期待したそこのあなた。
甘いね。私の小心者具合を舐めるなよ。

この話は、好きな人にチョコを渡す勇気が出なかった乙女の話ではなく、
義理チョコ、それもバラマキ義理チョコすらばら撒くのに勇気を必要とするレベルの超小心者OLの話です。


さて、私が新卒で仕事を始めた当初は、職場にもバレンタインの文化がかすかに生き残っていた。
同じ部署の女性陣でお金を出し合ってちょっとしたチョコレートを買い、男性陣に渡す。ホワイトデーはその逆で、男性陣から女性陣へ。

それがどうやらここ2,3年でその文化が潰えた。部署単位での取りまとめはなくなり、「やりたい人は個人でご自由にどうぞ〜」といった感じ。

喜ばしいことだ。
興味を持てない人が無理に協力しないといけない状況はなくなったし、逆に感謝の気持ちを伝える日として捉えている人の機会を奪ったりするわけでもないし、
職場としてはまあ、いい感じの落ち着き方だと思う。

が、しかし。
困ったのが、私みたいに「みなさんがやるなら乗っかりますけど、何もなければ個人的に動くほどでもないですね」レベルの人間である。

特段の意志がない。ないくせに(ないからこそ)人から浮くことだけは避けたい。
取りまとめられていたときは乗っかれば浮くことはなかったけれど、個人主義となると出方に悩む。

自分だけ何も持っていかなければ(あいつ気が利かねえやつだな)と思われそうだし、
かと言って逆に一人だけなにか配り始めたら(あらひとりだけ良い顔しちゃって)と思われやしないだろうか。

(誤解がないように言っておくけれど、私の職場の人達はみんな優しくて、多分いずれにせよそんなに悪く取る人はいない。いないのだけれど、元来の私の性格の悪さ故に悪い方向に妄想している。考えすぎ? 知ってる!!!)

それに配るとしてもどこまで配るかでまた悩む。お世話になっているのはあの人とあの人だけど、こちらに配ってこちらに配らないわけにはいかないし、となるとここも…………考えるだけで頭が痛くなってくる。

そんなわけで去年の今頃、2月の頭くらいからぐるぐるぐるぐる時間をかけて悩んだ末、バレンタインの直前に、「バレンタインにかこつけてコンビニで買えるレベルのチョコレート菓子(袋入りキットカットとか)を課内にばらまく」くらいがちょうどいいんじゃないかという結論に達した。

それくらいなら、相手に気を遣わせることもないし、気取ってる風もなくバレンタインはちゃんと意識しましたよスタンスを取れる。
よし、そうしよう。

そこで買ったのが、ヘッダーにある源氏パイのチョコレートがけである。
これをお昼明けか、三時のおやつくらいの時間に配ればよかろう。
そう思って、箱買いしてバレンタインの職場に持っていった。

しかし、しかしである。
思いの外、誰ひとりとしてバレンタインの話をする人がいない。お昼になっても、三時になっても、いつもの職場とあまりに変わらない。バレンタインのバの字も出ない。

えっ、もう少し誰かお世話になっている人にチョコレートあげたりとか、
「バレンタインですね♡」みたいな会話が発生したりとか、しないの?

え、本当にバレンタインある?

実は職場や世間的にはバレンタインが完全に駆逐されていて、私が今から配り始めたら(あ~まだそういう昭和の文化を引きずってるタイプの人間ね〜)って顔で見られる?

ここまで来ると妄想はもう止まらない。
たった一箱数百円の源氏パイを一枚ずつ配ったばっかりに、悪しき風習バレンタインの片棒を担ぐ宿敵だと後ろ指をさされるんじゃないだろうか。そりゃたまったもんじゃない。

これはいかん、撤退だ。撤退。

源氏パイを引き出しの奥底に突っ込んで、そのまま定時を迎え、私は帰路についた。

まじかよ。と思った皆さん。

そうです、買ったくせに、配らなかったのです、誰にも。


今思うとめちゃめちゃアホくさいというか、源氏パイくらいいつものお菓子配るノリで配れよ!!という感じなのだけれど、

「職場のバレンタイン」という単語から漂うめんどうくささにビビりまくった結果、
私はバレンタイン直前にチョコ源氏パイを買って、職場の机に突っ込んだだけの女になった。

当然、当日にそんなことを考えて配れずに悶々とする人間が、翌日以降に「これ実はバレンタインに配ろうとしたんですけど、配り損ねちゃって(てへぺろ」と面白可笑しくお菓子を配れるわけもなく、

タイミングを逸した源氏パイはしばらく机の中で眠ったあと、ひと月後くらいに給湯室に「よろしければどうぞ」付箋とともに置かれることとなった。
思い出すだにお恥ずかしい、バカバカしい話である。

***

でも皆さん、私みたいなネガティブ思考は極端かもしれないけれど、職場のバレンタイン、いろんなことを考え出すとキリがなくて正直めんどうくさい。っていうのは割と共感してもらえたりしませんか?

それぞれの人が、それぞれ自分の無理のないラインを見つけて楽しめるイベントになればいいですよね。バレンタインは、思いを伝えるにせよ、感謝を示すにせよ、美味しいスイーツを食べるにせよ、かこつけるものであって、その日じゃないといけないとか、その日にしないといけないとか、そういうものじゃないのですから。

なんてね。

*後日譚*

しかし買ったはいいが渡せない自分はあまりにも嫌である。
というわけで、今年はリベンジすべくカントリーマアムのチョコまみれを用意した。

結果、無事配って帰ってこれました☆
(源氏パイが悪いんじゃないけど)
(昨年の自分を冷静に見つめ直したら配る以外の選択肢無いよね)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?