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しがCO₂ネットゼロ次世代ワークショップ|DAY4・5

こんにちは。
インパクトラボの窪園です。
 
今回は、2023年9月2日(土)と16日(日)に開催されたDAY4:アイデアブラッシュアップ、DAY5:成果報告会の様子をお伝えします。


しがCO₂ネットゼロ次世代ワークショップとは、滋賀県で持続可能な社会の実現に向けて取り組む地域、団体、企業へのフィールドワークを通して、滋賀県らしいCO₂ネットゼロの行動・取組アイデアを考えるプログラムです。 本ワークショップでの意見交換等を通じて生まれたアイデアを広く発信することにより、滋賀県内のCO₂ネットゼロに向けた取組機運の向上を図ることを目的としています。
 
DAY4のアイデアブラッシュアップは、オンラインを活用して実施しました。
DAY5は、菜の花館で「しがCO₂ネットゼロ次世代ワークショップ」の最後のまとめも兼ねて成果報告会を実施しました。

DAY4

アイデアブラッシュアップでは、発表をする前に各チームで発表に向けた準備を行ったあとに、各チーム10分で発表を行いました。

グループ1の発表の様子
グループ2の発表の様子
グループ3の発表の様子

各チーム発表の後は、ブレイクアウトルームに別れて異なるチームのアイデアに質問や改善点のアドバイスをしました。参加している学生だけでなく、今回のコーディネーターを担当されている成安造形大学の田口さん、滋賀県CO₂ネットゼロ推進課の萱原さん、一般社団法人インパクトラボの上田さんの3名もブレイクアウトルームに入り、活発な意見交換を行ってアイデアをブラッシュアップしました。各グループの詳細な発表内容については、後ほど成果報告会の様子とあわせて紹介します。

ブレイクアウトルームで議論する様子

DAY5

最終グループワーク

 最終成果報告会を行う前に、各グループで発表内容について最終確認を行う時間を30分間取りました。参加学生は発表内容について話し合ったり、リハーサルを行ったりして本番に備えました。

 最終発表

最終発表をする参加者ら

 グループ1

グループ1のアイデア

グループ1は有機農業に着目しました。日本の現状は有機農業の耕地面積に対する割合がわずか0.3%で、国は2050年までに全農地の25%拡大することを目指しています。有機農業の特徴として化学肥料や農薬に頼らない、遺伝子組み換えを行わない、多様な微生物との共生などがあげられます。特に多くを海外輸入に頼る化学肥料を使わず、地域資源を使うことや土壌の保全に努めるなどの特徴はCO₂ネットゼロの文脈で非常に有意義です。「慣行農業と比較すると有機農業の場合、エネルギー使用量は45%削減、炭素排出量は40%削減することが可能です。」と、数値を示して説明しました。

有機農業と慣行農業の比較

それらをふまえ、グループ1は有機農業の課題に着目したアイデアを発表しました。DAY3でレクチャーをしていただいた松本さんは「有機農業をするにあたって、雑草処理は非常に大変。その労働が直接的に経済的な価値を生まないため、よりもどかしさを感じる。」、「私たちはその辛くてきつい作業を『泣く』と呼んでいる」と話していました。そこでグループ1では雑草処理の作業を「泣く」ではなく「笑う」に変えたいとアイデアの発端を説明しました。 

考案した「ザッソウピック」

雑草処理の作業を「笑う」ことのできる楽しいものにするために考案したのは「ザッソウピック」。「ザッソウピック」は雑草処理とオリンピックを掛け合わせた造語で、雑草処理をスポーツに見立てたイベントとして開催したいとのことでした。対象は小学生で、小学生が楽しいと思えるような工夫が多くみられました。大きく分けて二つの部門に分けられています。一つ目は「①雑草の中に宝が!?〜宝を探しながら雑草集め〜」。1g=1ポイント、宝=500ポイントで、時間は15分。愛東地区の雑草処理に困っている新規就農の有機農家をフィールドとし、愛東南小学校と愛東北小学校の二校の小学生での実施を考えているとのことでした。土の中に宝を隠すということで、仮に見つからなかった場合に土に帰る「土でできたジュエリーのような色付き泥団子」を使用したいと細部までこだわっていました。二つ目は「②壁を乗り越えて次に進め!〜まさかの農園で障害物リレー〜」。はてなボックスという箱から有機農業に関するクイズが書かれたカードを引き、クイズに答えながら障害物競走をするというイベントです。報告会では実際に手作りの箱から質問カードを引いてもらい、参加者に有機農業に関するクイズをしていました。クイズを通して有機農業について学ぶことができる点が魅力の一つでした。優勝商品には有機農家の野菜などを用意してもらい、参加賞として給食に農家さんの野菜を使用する考えにも言及しました。さらにステークホルダーとして、主催を東近江市と愛のまちエコ倶楽部、参加を児童・小学校と農家と設定するとしました。 

考えられるステークホルダー

グループ2

グループ2のアイデア

グループ2はテーマを「若者がワクワクする脱炭素への取り組み」とし、発表しました。そこで考案したのが野菜トレーディングカード。先行事例として「棚田カード」と「野菜などに添付される生産者の写真」が紹介されていました。「棚田カード」は、棚田の魅力を発信するためのツールで、カードには棚田の基本情報や棚田地域を訪れてみたくなる周辺地域の情報が記載されています。「野菜などに添付される生産者の写真」は、生産者の顔が見えることで「食の安全性」につながっています。グループ2は「カードを通して消費者の興味を引くだけでなく、農家のCO₂ネットゼロに関する取組を簡単に認識でき、商品の価値を高めるようなカードを考案したい。」と話しました。

「棚田カード」と「野菜などに添付される生産者の写真」

 グループ2は実際にカードを作成し、実物を見せながら説明しました。カードの目的は「若者たちに農業に対するフードテックの重要性を認識させ、同時にどのような商品を作り出せるのか食材の特性を知らせ、農作物や農業への関心を喚起させることを目指す。」としました。カードは生産者カードの要領で、直売所の野菜・果物・ゼリーなどの加工品につけるそうです。カードの内容は以下の通りです。

・脱炭素にどのくらい貢献しているのか→星、ランクで表す
・どのような作物なのかを記載(どのへんで採れるのか、どんな味なのか)
 →作物の絵 インパクトに残るもの
・SNSで拡散したくなるようなデザイン
・QRコードをつける
 →詳しい作物、生産者の情報、脱炭素を知ることができるサイトに繋がる
・農作物の宣伝や、脱炭素に関するイベントの宣伝を書いておく
・カードを揃えた人が応募でき→直売所に来てもらうために直売所で応募する
・景品がもらえる→規格外野菜を景品に
・紙は再生紙

試作された野菜のトレーディングカード

農業の若者離れが深刻化する中、カードを集める形式にすることで若い世代が農業や脱炭素について楽しみながら、学び、消費することが可能になります。さらにカードのデザインを地元の美術系の学校に通う学生に依頼し、インパクトのあるデザインにすることでSNSの活用も期待できるのではないかと話しました。実施場所は私たちも研修中によく利用した東近江市の直売所(マーガレットステーション)、草津のdeあい広場などの街のマルシェや県庁のマルシェなどを考えていて、若い人や親子連れをターゲットにしたいようです。課題として、カード製作費やアイデアを募集する際の経費、人件費などのコストをどのように捻出するべきかまだ分からないと明かしていました。

グループ3

グループ3のアイデア

グループ3は地産地消がテーマでした。滋賀県全体や東近江市には比較的多くのブラジル人が住んでいます。(在留ブラジル人の数 全国第6位)そこでブラジル人の主食であるキャッサバに着目し、菜の花プロジェクトに続く「キャッサバ資源循環プロジェクト」を考案しました。目的は「滋賀県でキャッサバを地産地消し、CO₂の排出量を削減する」ことです。キャッサバはアフリカや南米、東南アジアなどの熱帯地域で栽培されています。高温乾燥に強く、水やりや肥料が不要という特徴があり、温暖化への適応や有機農業の作物として注目され、日本でもいくつか栽培事例があります。現在は台湾やタイなどのアジア諸国から多くを輸入をしています。船で輸入した場合のCO₂の排出量は国内生産と比較して約2倍の差があり、少なくとも約50,000kg/年のCO₂の削減が可能という数値が出ていました。

計算されたCO₂の排出量

 キャッサバは資源として芋、葉、茎に多様な活用方法があります。一方で、キャッサバをでんぷんに活用する際の残渣が課題となっているそうです。そこで企業の実証実験の事例を見つけ、地域内の資源循環モデルとして有効ではないかと提案しました。キャッサバのでんぷんを活用する際に出る残渣であるキャッサバパルプからバイオマス燃料の製造やメタンガスの利用ができるという事例です。しかしながらこの循環モデル構築には段階を踏む必要があります。かつて菜の花プロジェクトが石けん運動から始まったように、まずは東近江市内でのキャッサバの需要調査、あるいはキャッサバを栽培する農家の調査を行い、栽培を活性化させるところから始まります。グループ3は「非常に長期的でスケールの大きいプロジェクトですが地球温暖化による農業への影響は著しく、作物の転換も考えていく必要がある。」と強調しました。

様々な活用方法があるキャッサバ

 また、このプロジェクトには別の目的もあります。それは多文化共生社会の実現です。少子高齢化による人手不足を背景として、今後、東近江市で滋賀県だけでなく日本全体で外国人労働者をはじめとする海外にルーツを持つ人々が増加していくことが予想されています。そこで当然のごとく彼らの食文化に対する需要は増加していきます。需要の埋め合わせを目的とするのではなく、彼らの食文化を理解し、新たな文化として受容する・融合することも多文化共生社会の一助となるのではないかということです。実際に、様々な国の料理や食材、調理法を融合させた料理はフュージョン料理と呼ばれ、(多国籍料理や無国籍料理ともいわれる)多くの事例があります。グループ3は「東近江市でも多文化共生社会実現のため、だれんちなどを活用し、ブラジルと日本の食文化を学ぶ交流会やマルシェなどを開催することもプロジェクトの一環として行いたい。」としました。

 

相互評価

最終発表中は各チームに向けてコメントを書き、相互評価を行いました。
ピンク色の付箋にグッドポイント、黄色の付箋にブラッシュアップポイントを記入し、発表後、指定された台紙に貼ることで他のチーム全員からフィードバックがもらえました。

相互評価の付箋を台紙に貼る参加者

ブラッシュアップ 

他者からのフィードバックをふまえて、アイデアの構想をし直す時間を設定しました。さらにDAY3と同様、他のグループのテーマに沿ってアイデアを考える機会を設け、客観的に自分のグループのアイデアを分析、さらに他者からのアドバイスで新たな発見をすることができました。

評価をもとに議論する参加者ら

グループ1

グループ1では「農家のメリットは確実にある一方で、小学生のメリットをもっと感じられると良い」という意見がありました。農家の作業には様々な工程があります。よく農家体験で語られるのは「稲刈りや収穫だけが農業ではない。毎日の作業があり、そこには苦労はもちろん、楽しさ、面白さがある。その全部が農業である。」ということです。小学生にも雑草抜きの苦労を楽しく経験するだけでなく、有機農業というものの苦労や面白さを感じてもらうためにより長期的なプロジェクトにしてはどうかという意見がありました。また、対象をスポーツ少年団に所属する小学生にしてはどうかという意見もありました。スポーツ少年団は地域社会との関わりを重要視し、「地域で子供たちを育てていく」という信条を掲げています。しかしながら最近は少子化や経済的な理由で所属することが困難で団員数の減少が危ぶまれています。そこでスポーツ少年団に所属する小学生が人的資源が必要な農家と連携することで、団の活動資金を獲得するというプロジェクトの事例があります。このプロジェクトでは小学生が単に農家の加勢をするのではなく、農業の苦労や面白さ、重要性を長期の活動を通して学ぶことができます。また、学ぶ内容も重視しなければなりません。単なる農作業のお手伝いでは経験で終わってしまいます。作業の中で有機農業とは何か、農業における脱炭素の取組とは何かについて学ぶレクチャーの時間を設ける必要があるのではないかという意見が出ていました。

 グループ2

グループ2では、野菜のトレーディングカードを通じて消費者の脱炭素の取組に関する学びにつなげたいという目的をいかに達成できるかが議論になりました。トレーディングカードに商品の脱炭素の取組を評価する星を記載するだけでなく、QRコードをつけて詳しい作物、生産者の情報、脱炭素について知ることができるサイトに繋がる工夫は高く評価されていました。ブラッシュアップの議論では農家の取組などをより臨場感を持って知るために、QRコードの読み取り後、動画やメタバース空間のサイトにつながるのはどうかというアイデアも出ていました。

 またどれほどの集客が期待できるかが焦点となり、今のままでは不十分ではないかと意見が出ていました。若者がSNSを通じて発信することはあくまで不確定要素です。そこでいくつかの改善案が提案されました。一つは子供たちの絵をコンクールなどで募集し、カードに掲載するということ。最初の提案でも言及されていましたが、子供の絵を掲載することで家族でそのカードを収集し、商品を購入する行動につながるのではないかということです。もう一つはカードの収集をポイント制と紐づけ、ポイントをある程度集めると地元産品がお得になるなどのサービスを受けられる制度設計をするという意見でした。いずれにしても消費者をどう巻き込むかということに加え、行政や農家などのステークホルダーの利益も同時に考える必要がありそうです。

グループ3

グループ3ではかなりスケールの大きい、長期的なプロジェクトになることを懸念する意見が出ていました。キャッサバの資源循環モデルを構築することを考えると、数十年は必要です。また、ブラジル人の食生活、需要の調査をしなければ何とも言えません。そこであるアドバイスを受けました。「最終目標がキャッサバの資源循環モデルの構築であって、現段階の目標はあくまでCO₂の削減と気候変動に対応する適地適作、多文化共生社会の実現で十分。そのための『キャッサバ地産地消プロジェクト』で良いのではないか。」という意見でした。そこでプロジェクトを「キャッサバの資源循環モデルの構築」から「キャッサバの地産地消促進」に変更。より企画を想像できるプロジェクトになったと思います。

 また、愛のまちエコ倶楽部代表の伊藤さんからは「キャッサバは高温乾燥に強く、水やりや肥料も不要な作物なので有機農業に適している上に、新規就農者には初めやすい作物かもしれない。」という情報も頂きました。さらに新規就農の方で例えば「トマト農家になりたい」と特定の野菜農家になることを決めている方は案外少ないと言います。最初に新規就農者に野菜を提案するにあたって栽培のハードルが低い野菜は必要かもしれません。

 他にも多文化共生の視点で議論を行いました。意見としては、「多文化共生という分野は大人世代より若者世代の方が敏感で、コミュニティなどにより容易に入って行きやすい傾向にある。」「ブラジル人コミュニティでよく活用されている『スキナブラジル』というお店や東近江市にあるブラジル人学校『ラチーノ学院』などを通じて、ブラジルと日本の若者たちが積極的交流できるイベント、文化祭などを企画してはどうか。」など、若者の異文化交流に関するものが多い印象でした。食文化を手段とした異文化交流は多くの人にとって簡単に理解でき、親しみやすいと思います。「だれんちを活用して、キャッサバをはじめとした食文化の交流からその輪を広げていけるのではないか。」と期待が高まりました。

意見交換を行い、各アイデアをブラッシュアップすることでより東近江市でのCO₂ネットゼロ社会実現に向けての取組を容易にイメージすることができました。

最後に

 ワークショップでの自己の成長や学びについて1人1分程度で話してもらいました。

 「多様な分野の勉強をする、年齢の異なる仲間に良い刺激をもらった。」「フィールドワークを通して都市にはない農村地域の活力、面白さを感じた。」
「農業分野の脱炭素の取組を知る良い機会となった。」
「脱炭素に関連する国際的な潮流から滋賀県のCO₂ネットゼロの取組まで幅広く学ぶことができた。」

 など、参加者は計5日間を振り返りました。

 近年、農業分野の脱炭素は国際的にも非常に注目度が高くなっています。しかしながら日常生活の中で、あるいは他分野の学生にとってはなかなか学ぶ機会に恵まれません。このワークショップを通じて参加者は「農業×CO₂ネットゼロ」という視点から、よりCO₂ネットゼロを深く学ぶことができたのではないでしょうか。また、東近江市でのCO₂ネットゼロの取組アイデアを探究することを通じて「地域課題の解決や地域資源の価値向上にどのように貢献するか」について考え、地域でのCO₂ネットゼロの取組が非常に重要な意味を持つことを感じられたと思います。

ご協力していただいた方々、ありがとうございました!

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